表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

二章 その一

 ホテルに戻って一晩を明かしたルミエラは、エントランスから外に出て、腕と背筋をゆっくりと伸ばした。

 まだ陽は高すぎず、白い建物の壁をやわらかく照らしている。

 水路に落ちる光は眩しすぎず、朝の澄んだ空気の中で静かに揺れる。

 ルミエラは名刺を片手に、夜の名残をまだ体に残したまま、町を歩き始めた。

 記載されている住所はホテルからはやや遠い。時折聞こえる鳥達の声に耳を傾けながら、ゆっくりと大通りを進む。

 この時期の朝は空気が少し冷たいが、柔らかな陽射しを浴びていると寒いとは感じなかった。

 この辺りの景色は、まだ彼女の記憶になかった。朝から開いているレストランやカフェがちらほらと並び、どこに入ろうかとルミエラが看板に近寄っていったとき、空気のように澄んだ声が耳に入ってきた。

「貴方達、そこで何をしているの?」

 ルミエラは思わずそれが聞こえた方角へ体を向けていた。ここから少し離れた場所、運河の向こう側で、人が集まっているようだった。

 ここからではよく見えないが、黒い服を着た集団の前に、ひときわ明るい色が立っていた。

 彼等をよく見ようと、ルミエラは静かに運河の近くまで歩み寄った。

「ロザリアお嬢様、ごきげんよう。見ての通り、我々は『観光都市開発』の社員ですよ。会社に入ろうとしていたのです」

 男のような低い声が聞こえた。なんとなく、ルミエラはその声に聞き覚えがあるような気がした。

「そう。朝からご苦労なことね」

 ロザリアはその集団を睨むように見上げながら、鼻を鳴らした。

「でも貴方達、見かけない顔だけど? 『観光都市開発』はいつの間にこんな大勢を雇ったのかしら」

 鋭い視線を集団に向けながら、ロザリアは一人一人の顔を辿った。見覚えのない顔ばかりだった。

「『観光都市開発』は人手不足なんですよ。この町の開発を進めたくても、実行する人間がいないんだとか」

 低い声がそう言った。静かに言い分を聞いていたロザリアは、小さく息を吐いて、「……貴方達、つくならもっとマシな嘘をついたらどう?」と肩をすくめる。

「『観光都市開発』が人手不足なんて聞いたことがないし、新しく人を雇う予定もないと言っていたわ。もう一度だけ聞く。貴方達、そこで何をしているの?」

 集団の一人が小さく舌打ちをした。ロザリアが携帯電話を取り出そうとしたとき、集団は身を翻して一目散に逃げ去った。

「あっ、ちょっと待ちなさい!」

 ロザリアが声を上げるが、集団は建物の隙間へと逃げていき、すぐにその姿が見えなくなった。

 何だったのだろうと、ルミエラは一人その場に残されたロザリアに視線を向ける。

 住民同士のトラブル、そんな気もした。

 先程見た出来事を頭の片隅に追いやって、ルミエラは再度看板に近付き、内容をじっと目で追う。

 この店はパンがメインのようだ。隣はパンケーキ。更にその隣はサンドイッチ。

 大通りの端で立ち止まり、しばらく頭を捻った後、音を鳴らしたお腹を片手で押さえて、足を進ませる。

 ルミエラが手を掛けたのはサンドイッチの店の扉だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ