序章
強い光の後ろには、必ず濃い影が漂っている。
綺麗に飾られた箱ほど、底は見えない。
この町に来てすぐ、僕はそう思った。
光の都リュミエール。町中に張り巡らされた水路は、太陽光を受けて細かく揺れる鏡のように輝き、白亜の四角い建物の壁面は、光を反射してきらきらと輝いている。
特に町の中心には大きな運河が通っていて、建物から飛び出ていくつも重なっているテラスには、可愛らしい花々の植木が置いてあったり、ポップな色の洗濯物が干されていたりして、賑やかな、あるいは穏やかな人々の暮らしが垣間見える。
風が緩やかに通り抜ける音、水面に落ちる光の煌めき、あちらこちらから聞こえる笑い声……この町はまるで、目に見えるすべてが光の祝福を受けているかのようだ。
人々は皆明るく穏やかな顔をしていて、ここが『光の都』と呼ばれる理由は一目瞭然だった。
その眩しさに、思わず僕は目を細めた。
だが、日の当たらない、建物の裏側……細い水路や道が入り組む裏通りに足を踏み入れると、そこは表通りとは一変、薄暗い闇が浮かんでいる。
冷たく淀んだ空気が体にまとわりつく。
石畳に落ちた影は深く、息を潜めるような静けさや息苦しさがある。
煌びやかさは欠片もない、不気味な空気が漂うそこを、僕はゆっくりと歩きながら、改めて街並みを観察する。
表通りには白亜の建物が多くあるが、裏通りはそれに限ったことではない。
光の都という名前にまるでふさわしくない、暗くて小汚い建物。
「あぁ? 兄ちゃん……なんだか見たことある顔だなぁ?」
まだ昼間だというのに酒の瓶を持って、壁にもたれるように座っていた男性が、僕を睨みつける。
小さく息を吐き、早足にそこを通り過ぎた。
やはり、この町にも僕の名前は知れ渡っている。
早くホテルへ向かわないと。




