2-3 強奪犯と殺し屋を瞬殺する
「よし、進め」
「ドラゴン」の合図で、急襲チームが脚を忍ばせる。強奪犯のアジトは、無法区近くの裏寂れた馬小屋だった。馬丁部屋の木窓は全部閉じられているが、灯りが外に漏れている。
「馬車だ」
馬小屋なので扉はなく開放型だ。逃走用馬車が駐められている。
覗き込んだ「サラマンダー」が、手でバツを作ってみせた。中に金貨はないということだ。逃走直前までは、安全な馬丁部屋に収めてあるのだろう。当然だ。「リッチー」と「メイジキング」が、馬を馬車から外し、宵闇へと解き放った。万一にも連中に逃げられないようにだ。
「よし」
頷いた「ドラゴン」が、窓脇に俺を待機させた。
「俺の合図で掃除屋、お前が窓を開けろ。その瞬間、『リッチー』と『メイジキング』が爆発魔法を叩き込む。爆発後すぐ、『エルフ』が飛び込んで矢を射ちまくれ。『トロール』は──」
「任せろ。同時に俺は扉をぶち破る。逃げようとする奴は、俺と『ドラゴン』がやる」
「俺は裏口で張る。始まったらこっちもぶち破る」
「サラマンダー」が建物裏へと消えた。
「よし、配置につけ」
「ドラゴン」は中の気配を探っている。窓脇に位置した俺の耳に、話し声がぼそぼそ聞こえてきた。どうやら強奪犯連中は、逃走経路の算段をしているようだ。かなり大人数だ。情報だと十五人ということだったし。
俺の目を見た「ドラゴン」が、腕を振り下ろす。
──ギイっ──
軋み音と共に木窓を跳ね開くと、魔導士ふたりの手から爆発火球が飛んだ。赤々と尾を引き、室内へと。
◇ ◇ ◇
室内の騒音は、長く続いた。俺は始末屋なので、攻撃には加わらない。強奪犯がもし室内から逃げ出して馬車を目指したら、そこで殺せと言われているだけだ。
混乱し切った叫びから判断するに、奇襲は微妙だったようだ。というのも十五人全員がテーブルで相談していたわけでなく、奥に半分くらい居たらしいからだ。奇襲で戦力半減したとはいうものの、強奪犯側も当然だが強者が多い。激戦の室内が静かになるまでに、十分ほどは掛かった。
「さて……」
どうやら収まった様子なので、俺は扉を開けた。
「……掃除屋」
「ドラゴン」は肩で息をしている。見ると左腕は肘から先が完全に焦げていて、脇腹からは大量の出血がある。
「片付いたか」
「ああ……」
腹を押さえたまま、崩れるように椅子に座り込んだ。
「敵は」
「全滅した」
室内には、足の踏み場もないほど死体が転がっている。爆発で四散していたり、斬撃で出血していたりと。
「そうか……」
見ると、襲撃側もかなりの損害だ。生きているのは「ドラゴン」と「エルフ」だけ。「サラマンダー」と「トロール」は寸断され床に転がっているし、「リッチー」と「メイジキング」は焼けただれ、壁にもたれる形で絶命している。「エルフ」はダークエルフで身軽だから、おそらく逃げ回りながら弓射したのだろう。長い髪が焦げたくらいで、ほとんど傷はない。
「敵メイジが初手で生き残ったのは不運だったな」
「まあ……な」
苦しげな息で答える。
「待ってろ。魔導治療薬を出す」
「頼む、掃除屋」
「ドラゴン」の傷に、革袋の治療液を振りかけた。鎮痛と止血効果がある。とはいえ……この傷だと、生き残れるかは微妙だろう。
「さて、俺の出番だ。掃除する。少し待っていてくれ」
「早く……頼む。医者に掛かりたい」
「ドラゴン」の傷に、「エルフ」が止血帯を巻き始めた。それを背に、俺は鞭を腰から抜いた。
「さて……」
鞭を振るい、次から次へと死体を塵に還していく。背後の異様な気配に気づいたのか、「エルフ」と「ドラゴン」が呆然と俺を見つめていた。
「お前……」
「エルフ」が立ち上がった。
「穴を掘らないのか。……というか、その技はなんだ。その武器は」
「聞いてないのか」
「聞いてない……というか掃除屋は穴掘り屋だ。あと燃やすか川に沈めるか。なのにお前は……」
「今、王都の掃除屋で流行ってるんだよ、これ。楽だからな」
最後の一体を分解し終えた。
「嘘つくな」
「エルフ」は、そろそろと腰の短剣に手を掛けた。
「さて、『ドラゴン』を馬車に載せるか。馬は戻ってきた。医者に行こ──」
話し終わる前に、「エルフ」の短剣が飛んできた。秒で動いた俺が、鞭で短剣を叩く。跳ね返った短剣は、野郎の胸に突き刺さった。
「おいおい……『エルフ』、仕事は終わったというのに仲間割れか」
「は……速い……」
苦痛に満ちた表情で、「エルフ」は片膝をついた。戦力としてはもう、なんの力もないも同然だ
「『ドラゴン』、あんたこんなの許すのか。俺達仲間だろ」
「……」
「ドラゴン」は黙っていた。それから口を開く。
「お前……何者だ」
「さて……教えてもらおうか」
「エルフ」の前に立った。
「殺すと呪われるエルフのことを」
「こ……殺すと……呪われる……」
胸の短剣に手を置いているが、抜きはしない。治療の準備もなく抜いたら一気に大量出血する。一分も持たずに意識を失うだろう。
「どこまで……知っている」
「『嘆きの塔』塔主ベルナルド・クライシスは、誰か闇の存在と組んで、エルフを拷問した。殺すと呪われるエルフを」
「拷問など……していない。だから治療を頼む」
「ならなにをしていた」
「俺はなにも。聞いただけだが、実験だ」
「なんの」
「知らん。なにか……魂から取り出すとか。実験は……成功したらしい。もうエルフは用済み……だ。拷問に見え……たのは、実験の副作用だ」
「殺されると呪われるのは」
「そういう……一族だ。その一族だけ……魂が特別なんだ……ダークエルフに伝わる……で、伝説では」
「そうか。ならお前、フィオナというエルフを知っているか」
「お前……そのエルフからな……名前を教え……られたのか」
「エルフ」は目を見開いた。
「誰も……聞き出せなかった、その名前を。は……はは……」
笑い出したが、口の端から血が垂れてきた。
「俺はもう死ぬ。だが、お前の末路を知れ……てよ……かった……」
がっくりと首が垂れる。頸動脈に手を当てると、鼓動の止まっていることがわかった。
「あんたは不運だったな、『ドラゴン』」
苦しげに唸っているリーダーに、俺は近づいた。しゃがみ込んで瞳を見る。
「悪党なりに立派に仕事をした。ただ……悪党なら自分の命の損耗率を知っているはず。いつかこうなるとな。もうあんたは助けられないだろう、どんな医者でも回復魔導士でも」
「痛むんだ。覚悟はできている。早く情けを……頼む」
額に脂汗が浮かんでいる。
「地獄でてめえを待ってるからな」
「おう。俺もすぐ行く。フィオナを完全に癒やし終わったらな。どうせ俺は抜け殻だ」
「いい……根性だ」
にやりと笑う。
「情をかけてやる代わりに、ひとつ教えてくれ」
「ああ。お前はなにか隠しているが、フェアだった。なんでも話そう」
「『嘆きの塔』の拠点、知る限り全部を」
「……そうか、こいつは最高だ」
笑い出した。
「お前……たったひとりで潰そうってんだな。王都一、つまり世界一の暗黒組織を」
「ああ。フィオナの魂を破壊した組織、そして領民の幸せを破壊する、吸血組織だからな」
「お前の馬鹿な戦いを……地獄の底から……見届けてやろう」
全てを話し終わった「ドラゴン」の首を、俺は落とした。




