合理的判断
しいなここみ様「500文字小説企画」参加作品
エヌ氏はすばらしい薬を発明した。
「これで日々のストレスから解放される!この薬を課長や同僚に飲ませれば!」
エヌ氏にとって、職場の理不尽が最大のストレスだった。
とにかく仕事量がフェアじゃない。特定の人、即ちエヌ氏に集中してしまう。
「おっ!もう終わったのか!さすが!それなら!」
と、課長は次から次へと仕事を振ってくる。
同僚もひどい。
「すみません。。。エヌさん、ちょっと教えてもらえませんか?」
「どれどれ?簡単だよ。これはAツールを使うんだ」
「Aツールって?」
「それはポータルにマニュアルがあるよ」
「ポータルって?」
で、教えている内に結局ほぼエヌ氏がやるハメになる。
しかし、この薬を飲めば仕事に関する思考が合理化し、視野が広がり、責任感が強化される。早い話が「やるべきことをちゃんとやる」ようになる。
副反応も問題なさそう。少なくともエヌ氏が試した限り、体調に変化はない。
「よし!今度変な仕事を振られたら、この薬を飲ませてやろう」
22時を過ぎた誰もいない職場で、エヌ氏はほくそ笑んだ。
そして『自分がやるべき仕事』を再開した。
この仕事は課長も同僚も無理だ。期日は明日だし、自分が残業して仕上げるのが一番合理的だ。