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第46話 近江さん、再び

「では。いってらっしゃいませ」


 澪たちに玄関で見送られ、俺はマンションをひとり出た。監視のない味方だけのいる空間で休んだおかげで、心身ともにエネルギーを充填して元気いっぱいになった。そこには、またあの王宮で闘いを始めようと踏み出していく俺がいたのだった。


 もちろん一日休んだといっても、そのほとんどはフロ場で話をしたりいちゃいちゃしたりで、特別なことをしていたわけじゃない。でも、それが一番欲しかったことなんだと、今の俺にはわかっている。


 マンション前に止まっていた黒いリムジンに乗り込んだ。運転手は女性で、一緒に乗り込んだ二人のボディガードも体格のいい女性。


 今の俺は、女王の婚約者で夫になる存在。ホワイトリリーのお世継ぎを女王と一緒に作る相手なので、相応のガードは当然と言えば当然なのだ。女王以外のメンバーに信用されているかどうかは別としても。


 王宮にたどりつくと、用意されていた俺の自室に案内された。古風なソファやテーブルなどが置いてある、落ち着ける感じのアンティークな部屋。椅子に座って一息入れていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。侍従長だと思って、返事をした。


「どうぞ」


 すると、近江さんが入ってきた。というか、近江さん? 白を基調に、赤のアクセントが入っている、ジャケットにミニスカート。腰にはレイピアのような細身の剣を差していて、美少女ファンタジーゲームに出てくるような騎士学校の制服の様だ。学園に通っていたときの紺の制服とは違う身姿なんだが、よく似合っていて、確かに近江さんだった。


「おはよう。晴斗くん」


 近江さんが、にこやかにあいさつをしてきた。前のような敬語じゃないんだなとは思ったものの、別に不快でもないのでスルーした。


「ああ。おはよう」

「晴斗さま……っていう敬語じゃなくて、怒ってる?」

「いや、別にそんなことはない。むしろ、クラスメートのときみたいで、リラックスできる」

「晴斗くんが同志になってくれて役割を果たしたし、これが素の私だからいいかなって。あと、私も十二騎士に取り立てられて、身分が上がったってのがあって」


 近江さんが、俺の前で、くるりと一回転した。スカートがひらりとゆれて、可愛らしい姿を披露してくれた。俺は、その近江さんに、最後のセリフについて聞いてみた。


「十二騎士に取り立てられた?」

「うんそう。欠員だった末席だけどね。私、どの学園や会社にも置かれているミニオン――下っ端だったんだけど、大将首を取ったみたいな大手柄を立てたから。女王陛下の一声だったんだけど……」

「すごいじゃないか!」


 俺は、単純に驚いたので、近江さんをほめたたえてしまった。この近江さんの手柄というのが俺のことで、その手柄のために俺たちが大変なことになっているのは、別の話として。


「ここだけの話、十二騎士の末席は元女王派で、反女王派としては女王陛下の意見に逆らい難かったんだって思ってる。女王陛下としては、私を取り立てることで自分の勢力を拡大するチャンスだったってこと」

「そんなに、女王の権力って、弱いのか?」

「弱くない。一般のホワイトリリーの中では権威も権力もあるんだけど、十二騎士は別格だって話。将軍と大大名みたいな関係っていえばわかりやすいかな?」

「そういうことなら……」


 と、納得した。女王は、一般のホワイトリリーにとっては雲の上の人。だけど、十二騎士にとっては、あがめる存在にもなるし、打ち倒すべき存在にもなるってことだろう。


「このあと、宮殿内にいる十二騎士で定例会があるんだけど、晴斗くんも出てみる?」

「俺が、か? いいのか? そんなところに俺が顔を出しても?」

「晴斗くん、もう女王陛下の夫みたいなものだから、文句をいう騎士もいないと思う。内心でどう思ってようと」

「やっぱり、俺と女王の結婚に反対している騎士がいるってことか。その騎士って、誰だかわかってるのか?」

「うすうすみんな感じてはいるんだけど、今のところ表立って女王陛下の行動を非難する騎士はいないってだけ。晴斗くんに来てもらえると、女王派の私も、味方が増えて心強いんだけど」

「なら、十二騎士とやらに顔見せしておくか……」


 俺は、考えを巡らせながら、近江さんに同意した。十二騎士。女王に次ぐ権力をもつ、ホワイトリリーの最高幹部たち。その多くが女性で構成されているというが果たして……。


 そんなことを思いつつ、「じゃあ行こうか」と、近江さんに先導されて宮殿内にしつらえられている会議室に向かったのだった。

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