第33話 近江さん その1
「なんの用だ、近江。こんな校舎裏に呼び出して。俺に一発ヤッてほしいのか?」
甲斐は、目の前に立っている近江に、卑猥な言葉を投げかけた。だが、その淫猥な言葉とは裏腹に、甲斐には苛立ちが目立つ。足はせわしなく動き、手を握ったり開いたり。
そんな甲斐を前にして、近江はふふっと可愛らしく笑う。
「甲斐君。最近、女の子が相手してくれないみたいね。困ってる?」
「困ってねーよ! 俺をバカにするためにこんなところに呼び出したのかよ!」
「晴斗君を馬鹿にして、澪さんを敵にしたのがまずかったね」
この、甲斐ににっこりとほほ笑んだ近江は、晴斗たちのクラスメートだ。セミロングのサラサラヘアがよく似合う、学園でも四大美花に次ぐほどの人気を誇る明るい子。晴斗たちとはたまに教室で会話をするし、一度だけだが「ナナミさんと結婚したんだってね!」と、晴斗、ナナミ、沙夜の登校途中に声をかけたこともある。
対する甲斐は、男子カースト上位のイケメンエリート……だった生徒だ。澪と晴斗の馴れ初めのとき、つまりあの放課後の教室で、晴斗を「ショボいゴミ」と言い放ってから、潮が引くように周りから女子たちが離れていったのだ。今の甲斐には、妊娠のためという釣り文句をエサにしても、抱ける女生徒はだれ一人いない。
「そんなにイライラしないで。イイ顔が台無しだよ」
「だからバカにしてんのか、メス! お前がヤらせてくれんのかよ!」
「私のお願い聞いてくれたら、ヤらせてあげる。口でも胸でも前でも後ろでも。好きなところに何回でも、好きなだけ」
「おまえ……」
甲斐は反応を止めた。信じられない言葉を聞いた甲斐は、固まって言葉を失っていた。




