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第2話 山城澪 その2

 チュンチュンと、耳に鳥の声が聞こえて、意識が浮かび上がる。柔らかい光がまぶた越しに差し込んでくる。


 うーんと伸びをすると、腕がぐにゃりと柔らかいものにあたった。「なんだ?」と、目をこすりながらベッドから起き上がりソレを見て……いきなり思考が停止した。なんと、ハダカの女の子が、俺の横に寝ていたからだ! 何も着ていない! すっぽんぽん!


「なにしてんのーーーーーー!!」

「あ、晴斗。起きた?」

「なにしてやがるんですか、ナナミさん!」

「夜這い。じゃなくて朝這い……かな。晴斗、幼馴染なのにぜんぜん私に手を出さないから、きちゃった。てへ♡」

「てへ♡、じゃないだろ! 早く服着ろ! 目のやりどころに困る!」

「そんなこと言ったって……」


 そう返してきたのは、俺の幼馴染の若狭ナナミ(わかさななみ)だ。セミショートのブラウンヘアが良く似合っている、可愛らしい面立ちの腐れ縁。あーよくねたという様子で、気分良さそうに伸びをしている。


「いいからなんか服着ろ。なんでここにいる……。つーか、なんで裸で寝てんの?」

「だから、それは乙女の嗜みというか、もういい年だから焦りもあって、ね」


 ナナミの言っていることはわけがわからない。そのナナミが、俺に顔を向けてきた。すっげー柔らかそうな形良い胸と、染み一つない触り心地のよさそうな肌を隠そうともしないで。


「ねぇ。幼馴染のよしみでさ。私にて―だしてくれない?」

「え? て―だすって?」

「だから。エッチなこと、してもらえなかな、という話」

「…………」


 俺は絶句した。目の前に裸のナナミがいるだけで、頭ぐちゃぐちゃなのに、そのナナミがお誘いの言葉をともに熱いまなこで見つめてくるのだ。


 俺が反応を示さずにいると、ナナミはぶーぶーと頬を膨らませて御不満の様子。ごく普通の陽キャ女子高生だったナナミさんは、いったいどうしてしまったのかと、俺は頭を抱える。と、ナナミがベッドの上に座り直して、改まった様子で聞いてきた。


「晴斗、私のこと、嫌いなの?」

「き、きらいじゃないが……」

「ほんとうに?」

「それは誓って本当。だが、お前が陰キャの俺を相手にしなかったじゃないか」


 ナナミは俺の反論には答えず、俺の股間をじーっと見つめる。


「確かにカラダは正直に反応してるし、晴斗が私のこと嫌いじゃないのは本当そう」


 慌てて股間を隠す俺を尻目に、ナナミはベッドから降りてつかつかと部屋の隅にまで歩いていく。ゴミ箱の前に立ち止まり、その中から丸まったティッシュを取り出した。


「あ、それは……」

「スンスン」


 ナナミが、そのティッシュを鼻にあてて匂いを嗅ぐ。そして、それをぐしゃっと握りつぶして、俺に向け突き出してきた。


「なんてもったいないコトしてるの、晴斗!」

「おま、それ手について……」

「そんなこと聞いてるんじゃないの! なんで一人でこんなことしてるのかって聞いてるの!」

「そんなこと言ったってだなぁ……」


 俺はもごもごと言い訳をするが、ナナミは聞く耳を持ってくれない。


「幼馴染の私がいるんだから、無駄撃ちなんてする必要がないでしょ!」

「なにいってんだお前! 『いいお友達でいましょうね♡』とか言って、俺のことなんか相手にしなかったじゃないか!」


 やけになって言い放つ俺。ナナミはシャラップとその俺をさえぎる。


「こんな不良なことをしてたんじゃ、立派な大人になれないわよ!」

「お言葉ですが、ナナミさん。俺はきちんと勉強もしてて、その甲斐もあっていい大学にも行けそうで……」

「何言ってるの? 勉強なんて意味のない苦痛なこと、道を外したマニアックはヘンタイがすることじゃない?」

「……え? ナナミ……さん?」


 俺は、意味がわからずに問いかける。ナナミが、そんな俺に常識外れなことをノタマワってきた。


「立派な学生は、エロ漫画を読んでエロゲ―をたしなんで、AVでの学習をおろそかにしない! 女性の価値は男に注がれた量に比例して、男はどれだけ女に注いだかが魂の価値じゃないの!」


 全く理解不能だった。今、裸で俺にご高説を説いているのは、本当にあの朗らか陽キャのナナミなのか? そんな疑問で動けなくなった俺の耳に、不意に馴染みのある声が流れ込んできた。


「お義兄さま。ナナミさん。そのくらいにしておいてください。学校に遅れます」


 声の方を見やる。開いた部屋の扉の前に、守ってあげたい系の黒髪セミロング美少女、沙夜さやちゃんが微笑みをたたえているのだった。ただし、いつもの可愛らしいパンダ柄のパジャマ姿ではなく、スケスケのネグリジェ姿で!


「なんて格好をしてんの、沙夜ちゃん!」


 俺は思わず叫んでしまった。沙夜ちゃんは、きょとんとした様子。


「あら、お義兄さま。お義兄さまにいつ忍んできていただいてもよいようにとの配慮だったのですが、お気に召しませんでしたでしょうか? スクール水着などの方が、ご希望に合いましたでしょうか?」

「そういえばあなたたち。義理の兄妹だったわね」


 ナナミが、じろりと沙夜ちゃんをにらみつけて、割り込んできた。


「二人して小さいころから一緒に住んでるから、わりと忘れがちになるんだけど」

「はい。ナナミさんのおっしゃる通り、私たちに血の繋がりはありません。ですので、合法です。私とお義兄さまは、いつでもその気になれば、一つ屋根の下、結ばれることができるのです」


 沙夜ちゃんが、真っ直ぐにナナミを見返す。ネグリジェ姿の沙夜ちゃんと、真っ裸のナナミが、視線を交差させる。ちなみに、沙夜ちゃんはネグリジェの下には何も着ておらず、丸見えだったりする。


 対峙する猛獣のようににらみ合っていた二人だったが、不意に図った様子で、同時に俺に顔向けてきた。何やら二人で目配せして、それから俺に近づいてくる。


「お義兄さまに決めていただきましょう。今ここで」

「そうね。晴斗に選んでもらえば済む話。実践で」


 ナナミが俺ににじり寄ってきて、沙夜ちゃんがネグリジェを脱ぎ捨てる。美少女二人に迫られて嬉しいというよりその迫力に恐怖を覚えた俺は、慌てて声を出して部屋を飛び出した。


「学校に遅れる!」

「あ、待ちなさいよ、晴斗!」

「お義兄さま!」


 階段を駆け下りて、速攻で制服のブレザーを身にまとう。朝食も食べずに、同じ学園に通うナナミと沙夜ちゃんから逃げるようにして、家を後にした俺なのであった。

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