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第15話 争奪戦 その2

 澪に連れてこられたのは、文芸部の部室だった。うながされるがまま部屋に入り、そのままベッドに押し倒されるようにして、乗っかられる形となった。


「晴斗さま。最近、お相手していただけませんね。私のこと、お嫌いになりましたか?」

「いや……。そういうわけじゃないんだが……」

「ならば、私のこと、飽きてしまわれましたか?」

「それも……違う。澪のことはずっと素敵で魅力的な子だって思ってる」

「なら……」


 澪が、そのすねていた顔を俺に近づけてきた。ねだるように瞳を潤ませ、半開きにした唇を俺に重ねようとする。俺は慌てて、キスをしようとする澪の顔を手で止めた。


「ちょ、ダメ! ストップストップ!」

「なぜですか、晴斗さま。私との口つけではご満足いただけませんか?」

「そうじゃない。俺も男だから欲望には逆らえないというか正直なところはあって、澪みたいな可愛い子とキスしたいって気持ちは当然ある」

「私も、女なので欲望には逆らえないところがあって、晴斗さまの様な素敵な殿方とキスしたいという気持ちが当然にあります。家でキスの練習も一人でしましたし、バナナを使って晴斗さまに気持ちよくなっていただく訓練もつみました」


 澪が、そのセリフを裏つけるように、俺の股間に触れてきた。ズボンの上からだが、その撫で上げてくる指の感触に、背筋が震える。


「ダ、ダメ……やめてくれ! キスしたら、澪はそのまま最後まで突っ走るだろ?」

「それは女として当然です。口づけだけではこの火照ったカラダ、到底収まりません」

「俺もこの世界に慣れてきて、複数人と関係を持つのにもう罪悪感がなくなったのは事実なんだが、学校が終わってからはずっとしなくちゃならない相手がいるから!」

「ナナミさん……のこと、ですね?」

「まあ、ナナミの他に沙夜も……。いや、確かにナナミのことなんだが」


 と、澪が座り直しから、俺にも正座して向かい合うように言ってくる。二人でベッド上に対面する形になってから、言い聞かすように澪は話し始めた。


「夫婦になったのは確かに事実です。ナナミさんが毎日裏サイトで今日はアレをしたとかこういうプレイしたとはしゃぎまわっているのが口惜しい……、いえ、そうはどうでもいいですね」


 澪が大きく息を吐いて 自分を落ち着ける様子。脇道にそれそうになった話を、元の本筋に戻して続けてくる。


「確かに晴斗さまとナナミさんは法的には夫婦になったのですが、ご存じの通り、倫理的にも道徳的にも不倫が不適切だという古典的な価値観はもはやありません。むしろ現代では、多くの女性を幸せにする方が人間として称賛されるべきことだとされているのが事実です」

「確かにそれは俺も理解した。ただ、ナナミは普通の陽キャ女子に見えてエネルギッシュというか旺盛で、毎晩そのナナミの相手をするのは俺と言えど消耗するわけで……」

「抑えるというか、控え目にすればいいだけのことでは?」

「一応、形ばかりの夫婦だとしてもナナミのことは好きだし、満足させてあげたいという義務感というか、責任感みたいなものがある。夜に備えるという意味で、いまここでエネルギーを使うのは、と思ってる」

「…………」


 澪が、唇を震わせて、歯噛みをする。目をつむって、深く、思い悩んでいる様子。のち、俺に顔を向けて言い放ってきた。


「わかりました。今すぐに抱いてくださいとは言いません。ただ少しだけ、私のストレス発散に付き合って頂きます」

「ストレス発散……?」


 澪が、取って食わんばかりに俺を凝視している。その圧に震えて、恐れおののいてしまう。抱かなくていいと言った澪。その澪が何を言い出すかと思えば……。


「会話劇をしていただきます」

「会話……劇……?」

「役割を決めての即興劇です。演劇におけるインプロビゼーションみたいなものとお考え下さるとわかりやすいかと」

「それってイメクラとかいうやつでは……?」

「そういうお店も世の中にはあるようですが」

「まあ……それでいいなら……」


 澪からアプローチしてきたとはいえ、カラダの関係になったのには違いない。それを今は、澪を拒絶するような態度だ。事情があるとはいっても、罪悪感にかられる。澪を喜ばせられるならとベッド淵に並んで座る。


「では始めます。私と晴斗さまは初々しい新婚の夫婦同士、という設定でいきます」


 制服姿の男女二人、俺と澪。澪がセリフを流し出してきたのであった。


「ところで晴斗さま。ここだけの話ですが実は私、妊娠いたしました♡」

「ブブーッ!!」


 俺は、泡を吹いて卒倒してしまったのだった。

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