5.不老不死
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
5.不老不死
「いつの間にこんな近くにいたんだ。接近がまるで分からなかったぞ。お、お前は一体誰だ!」
彼女から漂う不吉な気配に後ろへと下がるアカイは「はっ」としながら彼女の正体に気づく。
「この不吉な黒い波動は……お、お前はまさか、あの……この世界で日夜起こる絶望や不幸をその呪いの力でかき集め、この世界の何処かにあるとされる闇の遙かなる世界の中心にその負のエネルギーの全てを運ぶと言われている……噂の、遙か闇なる世界の黒神子か!」
「……。」
「ちくしょう、だんまりかよ。そ、そんな事よりだ。オジエルとキイオに一体何をした!」
「半日ほど……彼らが全く動けなくなるくらいにその余りある生気を吸い取らせて貰いました。でもちょっと力の加減が分からず気絶をさせてしまいましたが」
「おのれ……魔術や呪いの類いか。この呪われし魔女め!」
恐れおののきながらも勇敢にバトルアックスを構えるアカイを無視しながら、黒神子レスフィナは地面に倒れているラエルロットの顔を覗き込む。
「生きていますか、ラエルロットさん。随分ボロボロにやられてしまいましたね」
「君は朝方……町の外れにいた……黒神子の少女……確か名は、レ、レスフィナとか言う名だったかな。なんでここに?」
うつ伏せになりながらも泣き顔を向けるラエルロットに、レスフィナはニッコリと笑顔を見せながら語る。
「あなたがこの冒険者学校で結果を聞くと言っていたのを思い出しましてね。ここならそれなりに人も集まりますし、お布施も貰えるかな~と思いまして。でもまさか今日私に話しかけて来てくれた貴方がこんなことになっているだなんて……正直驚きました。これは一体なんの儀式ですか?」
「儀式って言うか……この状況……どう考えても俺が……目の前にいる相手に不当な戦いを強いられてボコボコにされているようにしか見えないだろ」
「そうですか。つまりは苛められていると言う事ですね」
「い、苛め、それは断じて違うぞ。俺はあいつらにぼろ雑巾の用に大いにやられてはいるが、まだ負けを認めた訳ではないぞ。戦いはここからなんだよ!」
「は~ぁ、そうですか。貴方の気持ちはよ~く分かりました。ここで少し休んでいて下さい。後で体の治療をしますから」
「俺は勝ってはいないが負けてもいない。本当に本当だからな!」
強がりながらも叫ぶラエルロットにお辞儀をしながら、レスフィナはバトルアックスを構えるアカイをまじまじと睨みつける。
「何だかよく分かりませんが、ラエルロットさんには朝方お金を拾って頂いた恩があります。それに優しくもして頂きました。ですから今は助けて差し上げますわ」
そう言うとレスフィナは被っていた黒いフードを頭から外して見せる。
「な、なんだあれは……俺達と同じ人間ではない。やはり闇に属する異形の者か!」
その様子を見た瞬間、傍にいたアカイを始めとした周りにいた野次馬達が皆一斉に驚愕と恐れの声を上げる。
それもそのはず、レスフィナの耳の上の頭の左右からは、まるで牛の角のような物が飛び出ていたからだ。更にはそのつやのある長い黒髪に雪の用に透き通る白い肌、そして誰をも釘付けにする赤い眼光がレスフィナと名乗る黒神子の恐怖を更に引き立てる。そのこの世の者とは思えない程の妖艶な美しさと得体の知れない不気味さが周りにいる者達を不思議な感覚へと誘っているかのようだ。
そんな不思議な感覚にとらわれながらも屈強たるアカイは手に持つバトルアックスを構えながら目の前にいるレスフィナに激しく凄む。
「殺す、殺してやる。奴が人間で無いのなら、別に殺しても構わないよな」
「な……何を言っているんだ、あいつは。悪い気にでも当てられて冷静な判断が出来なくなっているのか? レスフィナいいから逃げろ。今のあいつは普通じゃない。おい、誰でもいいからこいつを早く止めてくれ!」
ラエルロットの必死な叫びも空しく、周りにいる野次馬達は誰一人としてその場を動こうとはしない。何故ならバトルアックスを構えるアカイに不運なる黒いオーラを撒き散らす黒神子を退治して欲しいと言う願いがそこにはあるからだ。
理不尽ながらもその願いは人々の無意識から来る物なのでかえって始末が悪い。
「行くぞ、邪悪なる者、黒神子おぉぉぉ!」
両手で豪快にバトルアックスを回しながら黒神子を威嚇していたアカイだったが、ついに未知なる恐怖に痺れを切らしたのか勢いのついたバトルアックスの重い斧の一撃をレスフィナに向けて叩き付ける。その狂気に捕らわれたアカイの攻撃は確実に相手の命を奪う為だけに放たれた殺意の隠った一撃だった。
「くらえぇぇぇ!これが俺の渾身の一撃だぁぁぁぁぁ!」
右肩から心臓にかけてレスフィナの体に深々とバトルアックスの一撃が突き刺さる。その瞬間見たことも無い量の血しぶきが飛び散り、地面やその周辺を赤黒く染めあげる。
その惨劇を唖然としながら見ていた人達は、今起きた出来事を思い出したかの用に悲鳴を上げる。
「きゃああぁぁぁー。人が斧で切り裂かれたわ。早く誰か彼女を助けに行ってあげてぇ!」
周りから聞こえる悲鳴を聞きながらアカイは薪割りのように突き刺したバトルアックスの重々しい感触を手で実感する。
今まで練習で魔物を何回か狩ってはいたが、人型生物の命を奪ったのはこれが初めてだ。そんな事を考えていたアカイだったが次の瞬間バトルアックスの一撃を受けたはずのレスフィナの痛々しい傷口がまるで時間が逆再生を始めたかの用に治り始め、体が元通りになっていく。
「ば、馬鹿な……致命傷のはずの傷口が……瞬時に治っていくだとう。回復魔法スペルを詠唱すらしていないのに……あり得ない、聖女や僧侶や大神官レベルクラスの高回復魔法じゃないと瞬時には回復再生は絶対にできないはずなのに……こんなのは絶対にあり得ない。一体どうなっているんだよ!」
「やはり八級冒険者に受かり立ての初心者の貴方程度では私を殺すことは出来ませんでしたか。まあ、全く期待をしてはいませんでしたが……実に残念です。自信満々だっただけにはっきり言って興醒めです」
「黒神子と呼ばれる者達は、例え何をされても死なないと言う噂は本当だったのか。ば、化け物めぇぇぇ!」
信じられない光景を見て頭が錯乱したのか、まるで発狂した用にアカイは直ぐさま二撃目のアックスを振り下ろそうとする。
だがレスフィナに直撃しようとした瞬間アカイの足は突如もつれ、大きく態勢を崩す。
「な、なにぃぃぃー。この緊迫した状況で足がもつれただとう。こ、こんなどうでもいいミスを……そんな馬鹿なあぁぁぁ?」
紙一重と言う所でレスフィナの横の地面にアカイの放ったバトルアックスの刃が深々と突き刺さる。
「く、くそぉぉぉぉぉぉーぅ!」と叫びながらバトルアックスを持ち上げようとするアカイの拳に向けて、レスフィナは持っていた木の杖をトンっと押し付ける。その瞬間レスフィナの体と杖に青い文字のような光が浮かび上がり、胸の辺りに埋め込まれたクリスタルが更に強く光輝く。
その青白い光の文字が点滅しながらアカイの体に伝わり始め、その後まるでその光を吸収するかの用にアカイの体から得体の知れない何かを急激に吸い取り始める。
「力が……体から力が抜けていく。生気が、命が吸い取られる。ぐっわわわわぁぁぁぁ!」
急激に体力が吸い取られていく中でアカイの脳裏に浮かんだのは、絶対的そして絶望的な死の予感だけだ。
この状況から一刻も早く逃れたいはずのアカイだったが、体が全くといっていいほど言う事をきかない。このまま生気を吸い取られ続けたら生命エネルギーの全てを吸い尽くされてしまう。
アカイはこの恐ろしい黒神子という存在に関わってしまった事に今更ながら非常に後悔する。何故なら真っ赤に目を輝かせながらアカイを見つめる彼女の顔は不気味に笑っていたからだ。
「やめろおぉぉぉぉぉぉー、やめ……て……くれぇ……うぅ……助けて……ぅぅ……」
アカイはうわごとのように小さく言葉を発すると白目を向き、口からは大量の泡を吐きながら急激に意識を失う。
そんなアカイの命の危機とも言える意識無き姿を見ていたラエルロットは、まるで狂気に取り憑かれたかのように不気味に微笑むレスフィナを必死に止める。
「もういい、もういいから……アカイの奴を許してやってくれ……頼む……頼むよ、レスフィナ!」
その言葉を最後に、体の痛みと疲労が限界に達したのかラエルロットの意識はその場で飛び、周りの視界は瞬く間に暗くなるのだった。
https://37636.mitemin.net/i658028/
攻撃されても死なない、レスフィナの図
ご愛読ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
気に入った、もっと読みたい、続きが気になると思ったら、評価をください。
少しでも、★、ブックマーク、いいね、レビューをくれたら、今後の励みになります。
この小説は毎日夜の19時に公開します。ストックの続く限り公開しますので、お見逃しなく。