万年筆
無い……何処にも無い……。
私の第二の命と言っても過言ではない万年筆が無い。
ただの万年筆ではない、私の手に完璧に収まる完璧な万年筆だ。
あれが……あれが無いと私は一文字も小説を書く事が出来ない。
一刻も早く、私の万年筆を探さなければ。
家の中は隅々まで探したが無かった。
となると……道であろうか。
私は万年筆をお守りのように肌身離さず持ち歩いている。
私がよく歩く道の何処かに、落としてしまったのかもしれない。
探しに行くとしよう。
寒い中出来る限り一人で探してはみたが、何処にも無い。
しかしだからと言って他の万年筆を買う訳には行かない。
あの万年筆は、唯一無二の存在なのだから。
あの万年筆は、私の亡くなった父親から譲り受けたものなのである。
有名な小説家であった父親が愛用していた万年筆を持つと、不思議と力が漲った。
だから……あの万年筆以外では……小説は一文字たりとも書きたくないのである。
何処だ……一体何処に行ってしまったんだ! 逆にここまで探して見つからないのは……ある意味凄いのでは無いかとも思う……それ位見つからない……。
落ち着いて考えてみよう、こう言った場合、一度探した場所をもう一度探してみるとあったりする事がある。
冷静さを失い、適当に探した所為で、実はあったのに見逃してしまっている可能性がある。
例えば今着ている服の中……あれ? やはりそうではないか……冷静さを失っていただけではないか……。
私の大切な万年筆は、胸の部分にあった。
良かった……気付く事が出来て……もしこのまま気付かなければ……私は……。