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パズルのピース

「見てください! わたしの『使い魔』、見つかりました!」

 笑顔で鳥籠を掲げてみせれば、

「本当に――!? 良かったわ、リディア!」

 ほっとしたように、丸い顔をほころばせる副学園長。


 カゴを覗き込んで

「まぁ、可愛い使い魔さん! これで学園長の悪事が、おおやけに――あの人も追放されて、この学園に平和が戻るわね!」

 にこにこと嬉しそうに話す、人の良さそうなふっくらとした笑顔。

「ネルソン先生……?」

「なぁに、リディア? これであなたも、メイドから生徒に」



「わたし、『学園長室で、この子を見つけた』って、言ってませんよね?」



「えっ……?」

 メガネの奥からじっと見つめると、淡い茶色の小さな瞳が、きょどきょどと動いた。

「そう……だったかしら? でもほら、あなたが『学園長室』から出て来るのを、偶然見かけて」

 早口で話す声を遮って。


「だとしても――学園長はこの子を隠した、犯人じゃありません!」

 ぴしりと、リディアは宣言した。



「犯人じゃないって――どうしてそんな事が!?」

「分かります。だって学園長は、『クルミに過敏反応する体質』ですから!」


『過敏反応』とは、前世でいう『アレルギー反応』の事。


「学園長がこちらに来たばかりの頃、料理長がそれを知らずに、パイの上をクルミで飾ったんです。

 学園長はすぐに、気付いたそうですけど。もし知らずに食べたら、発作が起きて大変な事になっていたはず!」

 前世の病院で見かけた子は、呼吸困難に陥って、救急搬送されて来ていた。


 以来厨房では、『クルミやナッツ類』は、持ち込むのも厳禁。

 お使いや外出から帰った時も、上着やカゴは廊下の棚に。

 石鹸で良く手を洗い、小さなカケラも持ち込まない様、気を付けている。

 キッチンメイドになったからこそ、知り得た情報。



「そんな学園長が、3ヶ月もこの子を隠し持って。触るのもイヤな、クルミをあげていたなんて……どう考えても、無理があります!」

 きっぱりと言い切ったリディアに、ネルソン先生は、おろおろと言いつのる。

「でも――そうだわ! 誰か他の人に、世話をさせていたのかも。例えば……」

「例えば、『ベサニー・ネルソン副学園長』。あなたに、ですか?」


 リディアはじっと、空色の瞳で、副学園長の顔を見据えた。


「なっ、何を言うの、リディア!」

「そうですね。世話を『させられていた』――のでは、ありませんよね?」

「そうよ! わたしは無実……」

「あなたが、今回の騒ぎの、『首謀者』だったんですね!」

 リディアの頭の中で、バラバラだったパズルのピースが、キレイにはまった。



「そもそも3ヶ月前、『使い魔召喚の儀式』の最中にドアを開けて、『うっかり』この子を逃がしたのも――わざとですね?

 学園長が怒って、騒ぎ立てるのを見越して。

 そして他校の『使い魔誘拐事件』を利用して、『学園長の不祥事』に仕立てようと……!」

「そんな、でたらめな話――証拠は!?」

「あります!」


 使い魔の入った鳥籠を持ち上げて、リディアは優しく話かける。

「ヴィクター、あなたを閉じ込めていた人を、手で指してみて」

『うん!』

 後ろ足ですっくと立ったトビネズミは、小さな右手をすっと伸ばして、

『この人だよ』

 ネルソン先生を、真直ぐに指した。


「そっ、そんな――あなたにしか聞こえない、こんなネズミの証言――何の証拠にもならないわっ!」

「でしたら、使い魔の言葉が分かる『魔法動物学』の先生にも、確認して頂きましょうか?

 今なら先生方も皆さん、食堂ホールに」

 教師や生徒達が全員集まっているホール方向に、くるっと向き直り、鳥籠を手に歩き出したリディアを見て、


「くっ――行かせない! ベラドンナ、止めて!」

 顔を歪めて叫んだ副学園長が、上着の襟に付けた鳥の形のブローチを引きちぎり、床に投げつけた。

 そこから、ゆらりと立ち上がる姿。


「かぁっ……!」

 一声叫んだのは、獲物を前に目を光らせた、白いカラスだった。



 とっさにヴィクターの入った鳥籠を、かばうように両手で抱えて、リディアは走り出した。

「かぁっ!」

 すぐに追いついたカラスに、追い抜きざま羽根で払う様に、びしりと頭を叩かれる。

「痛っ……!」

 ショックで一瞬、立ちすくんだけど、

「これ以上、好き放題させない! ルクスッ!」

 ぱあっと、魔法で出した光りの玉を投げつけて、カラスの目がくらんだ隙に、また走る。


 羽根やくちばしで攻撃する白いカラスを、何とかかわしながらやっと、食堂ホールのある棟にたどり着いたとき。

「お待ち……!」

 リディアの行く手にふわりと、ネルソン副学園長の姿が現れた。



「転移魔法――!」

「正解――あなたには、まだ教えてなかったわねぇ?」

 まるで補習授業をしている時のように、にっこり微笑んだ顔が

「もう一生、教える事も無くなったけど?」

 にやりと邪悪な笑顔に代わり。


「命までは取らないであげる。

 ほら、わたしは――この由緒ある『聖ヴェリティ女学園』の学園長になる訳だし。

 余計な邪魔が出来ないように、あなたにはしばらく眠ってもらおうかしら?

 そうね――80年くらい!」

 楽しそうに告げた。



 ぞくりと、リディアの背筋が凍り付く。

『80年も眠ったら、目が覚めた時は98歳!? そんなの絶対にイヤ!』

 左右に視線を飛ばしても、逃げ道は無い。


 肩にばさりと白いカラスを止まらせた、ネルソン副学園長は目を細めて、にんまりと口を開き。

「プロフンダス・ドルミーレ……!」

『深い眠りの呪文』を唱え始めた。


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