ヤドリギの下で5(改訂)
「俺がディアに一目惚れしたのは8年前――いや、初めて会った10年前か。
とにかく! その時から、ずっとずっと好きなんだ!
なのに大事な、婚約指輪の石を……『誰かに頼まれたから』探すなんて、あり得ないだろっ!?」
早口でまくし立ててから、はっと我に返るヴィンス。
「うわっ、怒鳴ったりしてごめん! その――『一目惚れ』だったって、まだ言ってなかったよね?
そんな小さい頃からって、気持ち悪」
「気持ち悪くないっ! 嬉しいっ……!」
しょんぼりと謝ってくる、婚約者の言葉を遮って。
黒いコートの胸にぼすんと、リディアは飛び込んだ。
「ごめんなさい。
うちの学園にジャッキーが潜入したのは、『たまたま事件を追ってた』からだって。
市場のカフェでヴィンス兄様に会ったのも、『運命の再会』だったって、思ってたのに。
『お父様に頼まれたから』って聞いて……勝手に、裏切られた気持ちになったの」
ぎゅっとコートの腕に抱きしめられながら、しょんぼり謝罪するリディア。
「謝らないで。
バートン子爵から依頼されたのは本当だけど、そのおかげでディアと再会出来て。
『やっぱり大好きだ』って気付いて、アタックを再開しようと思ったんだ。
だから……」
抱き締めた腕をゆるめて、こつんと、おでことおでこを付けて、
「これって、『運命の「再開」』だと思わない?」
至近距離で、お日様色の瞳が細められる。
「思う――!」
ふふっと空色の目を細めながら、背伸びして。
悪戯っ子みたいに笑う婚約者の唇に、リディアは自分から、ちゅっとキスをした。
リディアとヴィンスが手を繋いで、裏口からそっと屋敷の中に入ると
「いたいた――どこ行ってたの、お二人さん?」
居間の入口で、ドレスアップしたジャッキーに、にやりと声をかけられた。
瞳の色に合わせたグリーンのドレスに、ふわりと腕にかけた白いショール。
綺麗に編み込んだ金髪には、アンティーク調の『飾り櫛』が輝いている。
「わぁっ、ステキ! ドレスもその櫛も、すごく似合ってるわ、ジャッキー!」
「ありがと。ディアもそのドレス、可愛くてぴったり! それにその、婚約指輪もね?」
笑顔を深めたジャッキーが、そっと自分の髪に触れる。
「この櫛、祖母の形見なの」
「おばあ様の?」
よく見ると、細やかな金細工のバラの花が模られ。
花の中心には、真珠と大きなエメラルドが。
「キレイ……とても繊細な細工ね!」
「うん、このエメラルドも見事だな!」
リディアとヴィンスが、感嘆の声を上げる。
「この櫛を、やっと――5年ぶりに、この人が取り戻してくれたのよ!」
見守る様に後方に立つダニエルの、ディナージャケットの腕に手をかけて。
嬉しそうな声で、ジャッキーが告げた。
生前から『この櫛は、ジャッキーに譲るわ』と祖母に告げられ、遺言書にもその旨書かれていた。
でも、
「5年前に祖母が亡くなった時、他の相続品に紛れて、オークションに出されてしまったの」
気が付いた時には、落札された後で。
代理人による落札だった為、誰の手に渡ったのか、全く手がかりが無かった。
「大陸の東の果てにある『翠安国』、知ってるか?
半年前にたまたまパーティで紹介された、そこの大使夫人が。
ジャッキーから見せて貰った絵と、細部までそっくりの櫛を付けてたんだ」
と、ダニーが続ける。
それが大使の任期が終わった、『帰国記念パーティ』だったと翌日知って。
「取り急ぎ、大使夫妻が乗った豪華客船を、追いかけた」
海路では追い付けないと分かり、陸路に切り替えて。
ラクダに乗って砂漠を抜け、馬と徒歩で山脈を越え。
「結局、翠安国まで、大陸を横断しちまった!」
にかっと、楽しそうに笑うダニエル。
「それで兄様ったら、半年も音信不通だったの!? 手紙くらい書けたでしょ?」
あきれ顔で詰め寄る、妹のリディアに、
「それはもちろん、書いてはみたんだが……『いつ届くか、ましてや無事に届くか保証は無い』と、現地の人達に言われてしまって」
困り顔でダニーは、濃い茶色の髪をかき上げた。
「まぁ海外ではまだ、郵便事業が整備されてない所も多いし、『使い魔』も使えないしな?
それでも、櫛は譲って貰えたんだな!」
親友兼未来の義兄をフォローするように、ヴィンスが口を挟む。
「おう! 大使夫人に事情を話したら、『愛する婚約者のために、ここまで追いかけてらしたなんて……!』と、感激してくれてな。
まぁお礼に、遺跡の発掘調査を手伝ったりして、結局半年がかりになっちまったけど」
『ごめん』と神妙な顔で、頭を下げるダニエルに。
『いいの』と首を振って。
「この櫛に再会できたのも、もちろん嬉しかったけど。
あなたが無事に帰って来た事が、一番のプレゼントよ!」
少し潤んだ緑の瞳を、にっこり細めたジャッキーが。
もう一つのお土産、翡翠の指輪が光る右手を伸ばして、婚約者の乱れた髪を優しく梳いた。
「あの指輪……お前にしては、中々いい趣味だ」
「俺はいつでも、趣味はいいだろ?」
「はぁっ? お前、髪と同じ色のスーツ着るの、やめろって言ってるだろ!? クマそっくりになるから!」
「お前だって、いつも真っ黒じゃないか!」
食前酒のシェリーを飲みながら、小競り合いを始めたヴィンセントとダニエル。
レディ2人が『まったく男子って』と、笑いながら肩をすくめる。
「ねぇ――お2人さん、気が付いてる?」
居間の入口から、からかう様に声をかけるジャッキー。
「わたしたち、ヤドリギの下にいるんだけど?」
未来の義理の妹、リディアと並んで――この下でキスをすると、幸せになるといわれる――オーナメントを指さしながら。
男子二人は顔を見合わせ、即座にがっちりと、仲直りの握手を交わした。
『ヤドリギの下で』完結しました。
4話の予定でしたが、最終話が長くなってしまい、全5話に。
ジャッキーの婚約者に、「びっくりした」という感想を頂きました。
本編の『メイドに落ちこぼれた理由』に出て来た『ダニエル』という名前と、ジャッキーの使い魔『ダニー』の名前で、バレバレかな?……と思ってましたので、驚いてくださって嬉しいです!
~ここから『改訂』のご説明~
改訂前に『ジャッキーがプレゼント攻撃に負けて、ダニーを許した』展開にした事を、『ジャッキーらしくなかったかな?』と、ずっと気になってまして。
ジャッキーとダニーがゲスト出演した、『キセキみたいな初恋』を完結したこの機会に、書き直させて頂きました。
完結済の作品に手を入れるのは、余り良くないかもですが。
読んだ方が納得して頂けるように、考えた結果です。
どうぞご了承ください。
『新米使い魔探偵リディア』の続編も、今後予定しています。
ブックマークやページ下部↓の☆☆☆☆☆から評価を入れて頂けますと、とても励みになります。
よろしくお願いいたします。