ヤドリギの下で4
「おかえり、ディア! 何だ、ダンも一緒だったのか!?」
「ヴィンスにジャッキーも、会えて嬉しいわ!」
馬車とオープンカーで到着したバートン子爵家で。
4人は子爵夫妻の、温かな歓迎を受けた。
荷物が運び込まれた、懐かしい自分の部屋。
リディアはお風呂で、ゆっくりと身体を温めて。
久しぶりに会うメイド達の手を借りて、晩餐用のドレスの着付けと髪のセットをしてもらった。
「リディアお嬢様、学校で大変な事件があったと、お聞きしましたけど……」
「メイドとして働いてらしたって、ホントですか!?」
「3ヶ月もお手紙が来ないし、面会も学園から断られたって――旦那様も奥様も、それは心配してらしたんですよ!」
口々に尋ねて来る、顔馴染みのメイドたち。
心配してくれるのは嬉しいけど、本当の事を話す訳にもいかずに。
「そんな、大した事じゃなかったのよ。
えっと――『メイドの体験学習』みたいな? 授業の一環で。
勉強に忙しくて、お手紙を書く時間も無くて。
お父様とお母様が、そんなに心配してらしたなんて、知らなかったわ」
何とか誤魔化しながら、答えると
「本当にご心配されて……それであのルイス様に、『様子を探って欲しい』って、旦那様が頼まれたんですよ!」
「えっ……?」
暖炉の火が勢いよく燃える、温かな部屋の中。
そこに、すうっと冷たい風が、吹き抜けた気がした。
その時コンコンと、扉をノックする音。
「リディアお嬢様に、ルイス様からお手紙です」
「ありがとう……」
受けとった手紙には、『晩餐の前に、ちょっと散歩しない?』と、いつもなら飛び上がって喜ぶメッセージが。
「『10分で行きます』と、お伝えして」
固い声でリディアは、メイドに頼んだ。
階段下のホールで待っていたヴィンスが、足音に気づいて顔を上げる。
レースやリボンで飾られた淡いブルーのドレスに、綺麗に巻いて肩に垂らしたベージュ色の髪。
ふわりと揺れるドレスの上に、毛皮で縁取られた真っ白なフード付きのマントを着たリディアが、緊張した顔で階段を降りて来た。
その表情に、心の中で首を傾げながら
「とってもキレイだ――リディア!」
笑顔で手を差し伸べるヴィンスも、晩餐用の正装、蝶ネクタイに黒のスーツ姿。
その上に、いつものファー付きコートを羽織っている。
「ありがとう。ヴィンス兄様も……ステキです」
無理に口角を上げて、リディアは答えた。
「まだ晴れてるから、ちょっとだけ外に行ってみない?」
婚約者の誘いに頷いて、裏の森の方にゆっくりと歩く。
「寒くない?」
「大丈夫です」
ぽつりぽつりと話しながら、たどり着いた森の入口。
そこでヴィンスは足を止めた。
「ここ、覚えてる?」
「えっ……?」
ぱちりと空色の瞳を瞬くと、
「8年前――俺が初めて、ディアにプロポーズした場所」
お日様色の瞳が、優しく見下ろしていた。
「そういえば……」
周りを見回したリディアに、
「ここで、これを渡したかったんだ」
ヴィンスが、コートのポケットから出した、濃紺のジュエリーボックスを、ぱかりと開いた。
中に鎮座していたのは、淡いブルーにきらめく宝石の付いた指輪。
「きれい……」
思わず、ほうっとため息を吐くと
「ブルーダイヤ。ディアの瞳の色と同じ石が、なかなか見つからなくて。
婚約指輪を渡すの、遅くなってごめん」
使い魔探偵は、申し訳なさそうに頭を下げた。
「わたしの瞳の色を、探してくれたの?」
「うん」
「それも――お父様に、頼まれたから?」
ぽつりと尋ねたリディアに、
「はぁっ……!? そんな訳ないだろっ!」
驚いた顔を上げて、ヴィンスは叫んだ。