表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷子の『使い魔』探してます~落ちこぼれ聖女は使い魔探偵と両片思い中~【番外編『ヤドリギの下で5』改訂☆】  作者: 壱邑なお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/20

ヤドリギの下で3

「ヌーベス……!」

『雲』の呪文を唱えた直後、ジャッキーは馬車の外にひょいっと飛び降りた。


「えっ――ジャッキー!?」

 慌てて馬車の扉から、身を乗り出そうとしたリディアを、

「危ないよ――ディア!」

 対面の席から、ヴィンスが抱き留める。

「だってジャッキーが――!」

「大丈夫、見てごらん」

『使い魔探偵』の穏やかな声に促されて。


 リディアが見上げた視線の先には――馬車の降り口に並んで浮かぶ、渦を巻く白い小さなかたまり――『雲』の上に、すっくと立つジャッキーの姿が。



 ヴィンスとリディアが見守る中、

「フラーメン……!」

『突風』の呪文を唱えた身体を、ぶわっと緑色の空気が包み、次の瞬間、ジャッキーの全身が『風』になった。

 雲の上で突風に乗り、金色の髪をなびかせて、軍服姿の身体がしなやかに飛ぶ。

 使い魔のハヤブサを従えて。


 馬車の後ろを、追跡するかのように走っていたのは、まだこの国では珍しい自動車。

 屋根の無いオープンカーの運転手が、空中を飛んでくる姿に驚き、慌てて急ブレーキを踏んだ。

 キキーッ……!


「あっぶな――うわっ!」

 ゴーグルと飛行帽を付けた運転手が、額の汗をぬぐったとき、

 その目の前、ボンネットの上に、ジャッキーがふわりと降り立った。



 ハーフアップにきりっと縛った金髪をきらめかせて、黒い軍服、ヒールの高いロングブーツを身にまとった、すらりとした姿。

「まるで、勝利の女神だ……」

 うっとりと見とれる運転手を、ボンネットの上で腕を組み、仁王立ちした『女神』が、冷たい瞳で見下ろす。

「半年ぶりに会った『婚約者』に、他に言う事は……?」


 はっと我に返った運転手が、ゴーグルと帽子をかなぐり捨てた。

 明るい水色の瞳をキラキラさせながら立ち上がり、整った男らしい顔に、にっかり満面の笑みを浮かべて。

 濃い茶色の髪と同色のコートの腕を、ゆったり広げる。


「会いたかった、ジャッキー……!」


「……それだけ?」

 腕を組んだまま、ぴきりと額に青筋を立て、冷たく見下ろすジャッキー。

「あっと――ごめんっ! 本当にごめんなさいっ!」

 慌てて勢いよく、頭を下げる運転手。


 その胸元から、ぴょんっと万年筆、ファウンテンペンが飛び出し、助手席に転がる。

 と、そこからしゅるりと出たのは、むくむくした茶色の身体に、短い尻尾の使い魔。

 白い顔に小さな丸い耳、つぶらな瞳の周りに細く、縦に伸びる黒い模様が特徴的な『アナグマ』だった。


「ジャン――!」

 ジャッキーの嬉しそうな呼び声に、むくっと後ろ足で立ち上がった使い魔は、隣の主人を真似するように、短い前足をぴんっと伸ばした。

「ぴゅるっ……!」

「むむっ――やるな、ジャン!」

 それを横目で見た運転手は、競う様に指先まで広げる。


「もうっ、ずるいよ二人して……わたしも会いたかった、ダンッ!」

 くしゃりと泣き笑いの顔で、『女神』は、がっしりとたくましい腕の中に飛び込んだ。



「えっ……あれ、ダニエル兄様!? 兄様がジャッキーの婚約者なの!?」

 久しぶりに会う兄が、ジャッキーを抱き締める姿を見て、馬車の中で目を丸くするリディアに、

「そうだよ。ジャッキーが俺らの二歳下、同じ魔法学校の後輩で。その頃からあの二人、付き合ってたんだ」

 ヴィンスが教えた。


「そうなの!? 全然知らなかった!」

「全男子学生憧れの的を、何故かあいつが射止めたのは――今でも『学園の七不思議』になってる。

 でもダンは土魔法持ちで昔から、『考古学者』を目指してたろ?」

「そういえば、『考古学はロマンだ』が、ダン兄様の口癖だったわね」


「そうそう! 在学中から発掘調査に夢中になると、他に気が回らなくて。

 音信不通になっては、ジャッキーに心配かけてた。

 でも今回は――半年近く、連絡が取れなかったんだ。魔力が届かない、海外とはいえ!」

 呆れ顔で、ヴィンスが肩をすくめる。


「えっ、半年も!? そんなの、ジャッキーが怒って当然よ! 酷いわっ!」

 ぷんぷんと怒るリディアの、右手をそっと手に取り、

「俺は、ディアを放っておくなんて、絶対にしないよ?」

 ヴィンスが、親友にそっくりの、空色の瞳をのぞき込んだ。


「ほんと……?」

「うん。半年も離れ離れなんて――絶対、俺の方が耐えられないし?」

 わざとおどけた口調で言えば、くすくすと笑いだすリディア。

『可愛いなぁ……』

 うっとりと、その唇にキスをしようとすると

「待って!」

 左手で顔を、ぐっと止められる。


「えっ――イヤなの?」

 がーん!とショックで固まる、使い魔探偵。



 リディアさん? 俺、何かしましたっけ? 

 うっかり、地雷を踏むような事――そもそもディアの『地雷』って何だっけ!?


 ぐるぐるとヴィンスが、脳内フル回転させていると

「イヤじゃなくて、えっと……その子たちが見てるから」

 恥ずかしそうに告げられる。

 くるりと横を向くと、子犬とトビネズミが揃って、わくわくとこちらを見つめていた。



 あーっ、可愛い! 

 リディア・バートン選手、『世界で一番可愛い選手権』ぶっちぎりで優勝です! 

 こんな可愛い子が婚約者って、幸せすぎる俺!



 ふわふわ舞い上がる気持ちと、緩む頬をぐっと押さえて、

「インターカペレ……!」

遮断しゃだん』の呪文を、唱えるヴィンス。

 途端に使い魔たちがそれぞれ、小さな両手でもふっと、自分達の目をおおった。


「これで、見えないよ?」

 こくんとうなずく、ほんわり染まった頬に両手を添えて。


『くぅーん』

『きゅっ?』

 不満そうな使い魔たちの声をBGMに、

 使い魔探偵は幸せを噛み締めながら、世界一愛らしい婚約者に、キスをした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ついに… ついにやりましたねディアたち! おめでとうございます☺️✨ そしてお兄さんがまさかの! と、まさに驚きの連続でした。 次回の番外編ラストも楽しみにしています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ