ヤドリギの下で2
友人達と別れてから、『ポイント』の外に待たせていたヴィンスの馬車に、三人で乗り込む。
リディアとジャッキーが進行方向に並んで、対面にヴィンスが座った。
使い魔たちもそれぞれ『お家』から抜け出して、黒い子犬と白いトビネズミは、リディアの膝で仲良くじゃれ合ったり。
緑のハヤブサは窓枠に止まって外を眺め、文字通り『羽を伸ばして』いる。
「それにしても、びっくりしたわ! ジャッキーの軍服姿――ほんとに良く似合っててステキ!」
使い魔たちを撫でながら、リディアがうっとりと右隣を見つめた。
「俺も軍服で、来れば良かった……」
拗ねて呟くヴィンスを、ブーツのつま先で軽く蹴りながら、
「ありがと、ディア! 着て来たかいがあったな!」
にこりと答えるジャッキー。
「でも――着替えるヒマが無いくらい、お仕事忙しかったの? 急に誘っちゃって、やっぱり迷惑だったかな?」
リディアが申し訳なさそうに、眉を寄せた。
先週の外出日、ジャッキーと待ち合わせて、街中に買い物に出た時、
『クリスマス? うーん……特に、予定ないかな?』
うつむきがちに答えた顔が、何だか寂しそうで。
『だったら、うちに来ない? ヴィンス兄様も招待したから、皆で楽しく過ごしましょうよ!』
気が付いたら、両手をきゅっと握って誘っていた。
『バートン子爵家に、わたしが……? いいの!?』
ためらいながらも目を輝かせた、大好きな元キッチンメイド仲間。
『もちろんっ!』
その日の内に、母に魔法速達便を出して、『大歓迎』の返事をもらった。
でも
『本当は、実家に帰りたいとか。誰か会いたいひとがいるとか、他に用事があったのかも?』
しょんぼりとしたリディアの肩を、隣から伸びた黒い軍服の腕が、ぎゅっと抱き寄せる。
「もうっ、『迷惑』な訳ないでしょ! これはね、変なウワサの火種を起こさないよう、予防線を張ってるだけなの!」
ジャッキーが腕の中のリディアの頭を、優しくぽんぽんと叩いて、明るく答えた。
「『ウワサ』って?」
「こほんっ! つまり俺とドレス姿のジャッキーが、ここに来るまでの間、二人だけで馬車に乗ってたら――そんな事は、100%絶対、神に誓ってあり得ないんだが――その、俺たちが」
「『秘密の恋人同士』とか、『良からぬ関係』とか……邪推するヒマなお方が、社交界には、うじゃうじゃいるのよ!」
心底迷惑そうに、顔をしかめるジャッキー。
『そういえばジャッキーは、コリンズ伯爵家のご令嬢だっけ。
ヴィンス兄様は、ルイス伯爵家の三番目のご令息だし。
それに引き換え、うちは……格下の子爵家』
「ちょっとボス! さっき『100%絶対、神に誓って』とかさり気なく、失礼な事言ったでしょ!?」
「痛っ! そのブーツで足踏むの、マジでやめろっ!」
仲良さそうにじゃれ合う二人(←リディア目線)の横で、
『「伯爵家のご令息」にはジャッキーの方が、誰が見てもお似合いよね?』
リディアはこっそり、ため息を吐いた。
その時、
「カッ、カッ、カッ……!」
ジャッキーの使い魔、ハヤブサのダニーがいきなり、警告するような声を上げた。
その鋭い目は、馬車の後方をじっと見つめている。
「来たか……」
ひと言呟いたヴィンスが、後ろの窓をステッキで叩き、御者に止まるよう合図を送る。
「ボス、ここはわたしに任せて!」
きりっと顔を引き締めたジャッキーが、馬車の扉に手をかけた。
「えっ? 来たって――まさか敵!?」
おろおろと、尋ねるリディアに
「心配しないで――命までは取らないから!」
ばちーんとウィンクを返した、元キッチンメイド。
「ほどほどにしてやれよ?」
闘志をむき出しにした部下を宥めながら、苦笑いするヴィンス。
「善処します!」
にやりと笑い、すっと2本指の敬礼を残して。
開いた扉から身を乗り出したジャッキーは、呪文を唱えた。
「ヌーベス(雲)……!」