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【番外編】ヤドリギの下で1

 リディア・バートンが巻き込まれた『迷子の使い魔事件』が解決し、無事生徒に復帰してから、2週間が過ぎた頃。

 クリスマスを2日後に控えた聖ヴェリティ女学園も、冬季休暇が始まろうとしていた。


 ウキウキとざわめきながら、ぱんぱんにふくれたバッグを手に生徒達が向かったのは、学園の奥手にある『扉の間』。

 手前の控室で順番を待っていると、

「では次は――『東』方面の皆さん!」

 と名簿を持った先生に呼ばれ、

「はいっ」

 と立ち上がったリディアが、数人の生徒と一緒に、部屋の中に足を進めた。



 そこは見るからに不思議な魔力に満ちた、六角形の部屋。

「この部屋に入ると、『ミツバチの巣』の中にいるみたい」

「分かる! ハチミツたっぷりのパンケーキが、食べたくなるよね?」

「ディアったら!」

「わたしが思い出すのは『雪の結晶』かな?」

「「わぁ、ロマンチック!」」

 こっそり小声で笑いながら、キッチンメイドに落ちこぼれた時も心配してくれた、仲の良い友人たちと話していると


「こほんっ……静かに!」

「では、参ります」

 咳払いでたしなめた二人の先生が、それぞれ金色に光る大きな鍵を手に。

 入口の反対側、一番奥手の壁にある、古びた木製の扉に歩み寄った。


 不思議な事にその扉には、ドアノブや取っ手が見当たらない。

 その代わり扉の中央には、上下左右それぞれに、鍵穴が二つずつ並んでいる。

 先生方が向かって右側の鍵穴に、各自が持ったカギを差し込み、目を合わせて同時に呪文を唱えた。

「「オリエンス……!」」

『東』の呪文に合わせて、かちりと鍵の回る音が響く。

 そして自然に、扉がぎいっと開いた先には、



 ぱあっと広がる、白い壁とドーム型の天井。

 幾何学模様にはめ込まれた木の床に、いくつものベンチが並んだ、広い円形の部屋。

 荷物を山のように抱えた、どこかの男子生徒達が歓声を上げ、迎えの家族や使用人が手を振る――まるで前世の、駅や空港のターミナルのような、空間が広がっていた。


「では皆さん、良い休暇を」

「次に扉が開くのは、3週間後の午後2時ですよ。くれぐれも遅れないように!」

 注意事項を伝えた先生方が身を引いた途端、パタリと向こう側に閉まった扉。

 同じような扉が3個、隣の壁に連なっている。

 その一つ一つが、国内の魔法学校に繋がっているのだ。


『ポイント』と呼ばれるこの場所は、前世の『乗り換え駅』のような存在。

 エバーランド王国各地に建つ魔法学校。

 その生徒達は、国の東西南北にあるポイントを中継して、学校と家を行き来する。

 ほとんどの生徒は貴族の子弟なので、出入りのチェックも厳しく、入口やそこかしこに警備員も。

 安全だし、帰省にかかる時間も短縮できる仕組みだ。


「失礼します。聖ヴェリティ女学園の生徒さんですね? お名前を確認させてください」

 名簿を持った女性係員が、人数と名前をチェック。

「はいっ、リディア・バートン様。OKです。

 皆様、良いクリスマス休暇をお過ごしください!」

「ありがとう、あなたも……!」

「ねぇディア、お迎えはどちら?」

「えっと……」

 係員と挨拶を交わしてから、出迎えの人波をぐるりと見渡すと


「ディア……! こっち!」

 一際背の高い黒髪の、襟にファーの付いた黒のロングコートが、良く似合うイケメン――なりたてほやほやの婚約者、『使い魔探偵』ことヴィンセント・ルイス――が、嬉しそうな笑顔で、片手を上げて来た。


 そして、その隣から

「会いたかったわ! ディア!」

 ヴィンスをどんっと突き飛ばして、リディアに駆け寄って来たのは、

 元キッチンメイド仲間のジャッキーこと、ジャクリーヌ・コリンズ中尉。

 今日は襟や袖口を金で縁取られた黒い細身の軍服に、ヒールの高い黒のブーツ。

 金色に輝く髪は高い位置で、ハーフアップにきりっとまとめた凛々(りり)しい姿。


「ジャッキー! わたしも会いたかった!」

 笑顔で両手を広げた、濃紺色の旅行用ドレス姿のリディアを、駆け寄った勢いのまま、ぎゅっと抱きしめた。



「きゃーっ! ジャッキー様ぁ!」

「軍服姿――何て凛々しくて、尊いのかしら!」

 リディアの友人たちから飛ぶ、黄色い声援。


「ありがと――クレアにポリー、だよね? この前、外出日に会った」

 にっこりと、右耳の羽根型ピアスを揺らして。

 まるで王子様のような、まぶしい笑顔を見せるジャッキーに、

「ふわぁ……名前まで憶えてくださってる!?」

「一生推します……!」

 両手を胸の前で組み、うっとりと祈りを捧げる友人たち。



「いつの間に、リディアの友達とまで、あんな仲良く?」

 唖然あぜんとしながら、ぽつんと一人、離れた場所に立ち尽くし。

「ジャクリーヌ・コリンズ……恐ろしいヤツ!」

 青ざめた顔でつぶやく、ヴィンセント・ルイス少佐。


「くーん……」

 コートの襟からするりと抜け出した、黒い子犬。

 使い魔のディッキーが慰めるように、まるまった小さな手をもふっと、ヴィンスの肩に置いた。


本編から2週間後のお話です。

季節外れのクリスマスストーリー。

全4話、毎日更新します。

新キャラも後半に登場しますので、楽しんで頂けたら嬉しいです♪


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