ハッピーエンド
「ディア――聞きたい事があるんだけど」
使い魔たちを一旦『お家』に戻して、改めていつもの席に座った2人。
コーヒーをひと口飲んでから、ヴィンスが口を開いた。
「聞きたい事?」
って、まさか……8年前のプロポーズの続き!?
ひゃーっ!と舞い上がりそうな心を引き戻して、令嬢らしく落ち着いた声で、リディアは尋ねた。
「何でしょうか?」
かちんと、コーヒーカップをソーサーに置いて、真剣な顔でヴィンスが問いかける。
「ディアはその……半年後に卒業した後は、『聖女』になるんだよね?」
「はい。聖女として派遣された先で、治療や浄化等の、お仕事に就くと思いますけど」
「実は……」
困ったように、眉をしかめたヴィンスが、
「ディアを『MIF』のメンバーにと、スカウトの話が出てるんだ」
まさかの、卒業後の就職先を、斡旋して来た。
「えっと……『MIF』のメンバー?
それって『使い魔探偵』として、ヴィンス兄様やジャッキーと働くって事ですか?」
しょんぼりと聞き返す、元落ちこぼれ聖女。
プロポーズじゃなかった。
やっぱりわたしの片思いなんだ。
「うん。ディアが昨夜、副学園長を真犯人と見破った『推理力』を、上層部が高く評価して。
さっきジャッキーにも、『ぜひ誘え』って言われた」
「推理力って――あれは、たまたまです!」
前世で読んだ『子供向けミステリー小説』に出て来た、真犯人が『証拠の品』を、他の容疑者の部屋に隠すエピソード……それを思い出したから。
「いや、見事な推理だったよ……! 学園長の『過敏反応』の事にも、良く気が付いたね?」
「あれも前世の……もごもご」
「昨日の時点ではうちのチームも、まだ『真犯人』を特定できなかったのに!」
ヴィンスが、称賛の眼差しを向けた。
「とりあえずジャッキーの使い魔に、学園長室を見張らせてたら。
副学園長がこそこそと、何かを運び入れたのを目撃して」
「あっ――ヴィクターの入った鳥籠?」
「そうそれ! ジャッキーからの知らせを受けて、すぐに駆け付けたけど――ディアに怖い思いをさせて、ホントにごめんっ!」
勢いよく頭を下げて、またテーブルに額をぶつける使い魔探偵。
「そんなそんなっ――ヴィンス兄様の『お守り』にも、助けてもらいました!」
「あれは、『助けて』って言葉に反応して発動するように、ハンカチに防御魔法を仕込んでたんだ。
ディアが魔法付与してくれたのを、ヒントに」
ヴィンスの説明を聞いて、また『治癒』の呪文をかけたハンカチを手渡しながら、しょんぼりとリディアが呟く。
「そんな凄い魔法を……なのに、燃やされちゃいました」
「またプレゼントするよ! 100枚でも、千枚でもっ!」
額にハンカチを当てながら、勢い込んで言ったヴィンスが、こほんと咳払い。
「さっきのスカウトの話だけど、気にしないで――『きっと断られます』って伝えてあるから」
「えっ?」
「だってディアの夢は、『聖女になって、皆を幸せにすること』だろ?」
「何でそれを……?」
その瞬間、はたと思い出した。
8年前のプロポーズのとき、自分が何て答えたのか。
『結婚してくれる?』
『えっと――わたし花嫁より、聖女になりたいの。皆を幸せにしたいから』
『そっか……やりたい事がもう決まってるなんて、ステキだね?』
寂しそうに、それでも笑顔で言ってくれた、ヴィンス兄様。
でもそれ以来、子爵領に遊びに来ることが、目に見えて減って行った。
「ごめんなさいっ! 『あんな事、言わなきゃ良かった』って、すっごく後悔したの!」
後悔して、自分で記憶を封印してたくらい。
「ほんとに? 後悔してくれてた!?」
途端に、目を輝かせるヴィンス兄様
「あの時は、まだ俺も子供だったから。何とかかっこつけて、引き下がる事しか出来なかったけど。
でも、諦めきれなかった。
ディア……もう一度だけ、8年前の続きを言ってもいいかな?」
ゆっくりと差し出しされた右手を見て、リディアはドキドキしながら頷いた。
「じゃあ、皆を幸せにした後――最後に俺を、幸せにしてくれる?」
「最後? でいいの?」
「もちろん!」
琥珀色の瞳が、空色の瞳を優しく捉えた。
「最後なら――その後ずっとディアを、独り占めできるよね?」
これはまだ、物語には書かれてなかった未来。
私の前には、真っ白なページが無限に広がっている。
ワクワクしながら、その中の1ページ。
目の前に差し出された掌を選んで、リディアは左手を重ねた。
「はい、ヴィンス」
「やった……!」
8年前のプロポーズをリベンジした『使い魔探偵』が、落ちこぼれ――から戻った『聖女見習い』の左手を、大切そうに嬉しそうに、両手で握った。
「えっ――ホントに、MIFに、来てくれるの?」
『卒業したら』と、そちらにも『イエス』と答えたリディアに、ヴィンスが目を見開く。
「『使い魔探偵』には、本当にお世話になりましたから!
わたし一人だったらきっと、ヴィクターを見つける事なんて出来なかった。
だから今度は、わたしがお返ししたいんです!」
前世の記憶がまた、役に立つかもしれないし。
「嬉しいよ! 半年後には毎日一緒にいられるなんて、夢みたいだ!
あっ、もちろん危険な事はさせないし、俺が全力で守るし、それから――」
早口で伝える使い魔探偵に、落ちこぼれ聖女はにっこり、幸せそうに笑いかける。
勿忘草の花のように、愛らしくほころんだ婚約者の唇。
ヴィンセントは素早く身を乗り出して、優しくキスを落とした。
「迷子の『使い魔』探してます~落ちこぼれ聖女は使い魔探偵と両片思い中~」完結しました。
13話の予定でしたが、最終話が長くなってしまい、全14話に。
拙いお話ですが最期まで読んでくださって、ありがとうございました!
やっと両思いになれた二人のその後や、ジャッキーの婚約者など。
まだまだ書きたいエピソードが残ってますので……続編を予定しています。
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