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魔法バトルとその結末

 目の前で呪文を唱えられ。

 リディアが思わず、「助けて……」と呟いたとき。

 エプロンのポケットが、ピカッと光った。

 そこからしゅっと飛び出したのは、勿忘草が刺繍されたハンカチ。


『お守りだよ』


 はっと気付いた、リディアの目の前で。

 ヴィンスからのプレゼントが、キラキラ光りながら、ぱっと広がった。


『スクトゥム』

 ハンカチにかけられた『盾』の呪文が、眠りの呪文をパシッと防ぐ。

 ほっと息をついたリディアの前で、

「ちっ――『フランマ』!」

 副学園長がすかさず唱えた、『炎』の呪文。


「あっ……!」

 ぼっと燃え上がった火に覆われて、大事な『お守り』は目の前で、灰になって消えた。

「もう、逃げ道はないわよ――リディア!」

 勝ち誇ったように、ネルソン先生が叫ぶ。



 きゅっと唇を噛んで。

 さっとかがんだリディアが、勢いを付けて思い切り、床の上に鳥籠を滑らせる。

「ヴィクター、逃げて!」

 あなただけでもっ……!

「きぃっ(ディア)――!」

 格子の間から必死に差し出された、小さな白い手が、廊下の上を遠ざかって行った。


「そんなネズミ、後でゆっくり処分出来るわ――プロフンダス・ドルミーレ!」

 ネルソン先生が再度いたぶるように、ゆっくりと唱え始めた、『深い眠り』に落とす呪文。

 リディアがしゃがんだまま、ぎゅっと目をつぶった時、



「スペクルム――!」

 鋭い声が発した『鏡』の呪文が、リディアの背後から、矢のように飛んで来た。



「ぎゃっ……!」

『鏡』が跳ね返した呪文に、全身を包まれた副学園長は、その場に崩れ落ちる。

 驚いて振り返ったリディアの目に、


 黒いコートの裾をなびかせて、呪文を飛ばした右手を、力強く前に伸ばした、背の高い男性の姿が映った。


「ヴィンス兄様っ……!?」

「ディア! 良かった……」

 ほっとしたヴィンスの顔が、急にけわしくなる。


「カァッ……!」

 副学園長の使い魔――邪悪な光で目を光らせた白いカラスが、『主人のかたき』とばかりに、リディアに襲い掛かろうとしていた。



「ダニー、GO!」

 どこか聞き覚えのある、女性の声。

「ディッキー、行けっ!」

 そこに、ヴィンスの声が重なる。

「ばうっ!」

 コートの襟から飛び降りた黒い子犬。

 その姿が、一瞬で大きくなり。

 愛らしい顔はしゅっと、精悍せいかんな表情に変わった。


「ジャーマン・シェパード?」

 前世の記憶を思い出して、声を上げたリディアの元に、長い脚で俊敏に駆け寄る大型犬。

 その頭上を、緑の風のような鳥が、一瞬で追い抜いた。

 大きく羽を広げて加速した鳥が、ガッと足で蹴落としたカラス。


 落ちて来たその羽を、口でキャッチした大型犬が、ぶんっと壁に向かって叩きつけた。

「かぁ……」

 ずるりと床に落ち気絶する、副学園長の使い魔。


「ディッキー……?」

 恐る恐るかけたリディアの声に、大型犬が振り向いた瞬間。

「わふんっ!」

 頼もしかったジャーマンシェパードは、しゅるんと小さな仔犬となり。

 小首を傾げて甘えた声で、嬉しそうに鳴いた。



「ディッキー、ありがとう!」

「わふ~ん!」

 ご機嫌もふもふの子犬を、きゅっと抱き締めたリディアの耳に

「あいつばっか、ずるいぞ……!」

 とぼやく声。そして、

「自分の使い魔にヤキモチ? 相変わらず、絶好調にヘタレだわね!」

 呆れた声が届く。


 振り返ると、ヴィンスと、その肩を容赦なくどつく、メイド姿の金髪美人が。

「ヴィンス兄様! それに――ジャッキー!?」

「ディア! ケガは無い? ほらっ、この子も無事よ!」

 よろけた使い魔探偵を突き飛ばして、ヴィクターの入った鳥籠を手に掲げ、駆け寄って来るメイドの後ろから、


「一体何の騒ぎ――大変! 副学園長がっ!」

 食堂から顔をのぞかせた教師が、叫び声を上げた。



「静かに――誰か、ネルソン先生の様子を確認して!」

 落ち着いた声で指示を出した学園長が、目を見開く。

「リディア・バートン! それに、あなた方は?」


 問われたヴィンスが、上着の内ポケットから出した、金色のバッジ付き身分証を掲げる。

「ヴィンセント・ルイス少佐。『使い魔探偵』こと、『MIF』ミリタリー・インテリジェンス・ファミリアの責任者です」


「ミリタリー・インテリジェンス? 聞いた事あるわ――確か、王室所属の諜報部ね!」

 驚きながらも、うなずく学園長に

「同じく、ジャクリーヌ・コリンズ中尉」

 肩にばさりと緑の鳥、ハヤブサを止まらせた、新人キッチンメイドも、メイド服のポケットから金バッジを出した。



「えっ、諜報部って……ジャッキーも!?」

 ヴィクターの入った鳥籠を抱いて、目を丸くしたリディアに

「黙っててごめんね、可愛いディア!」

 ぱちーん!と、金髪美人のジャッキーことコリンズ中尉は、肩をすくめながらウィンクを飛ばした。


魔法の呪文は全て、『ラテン語』の直訳です。

ネットの辞書に、お世話になりました。

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