8年前のプロポーズ
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『8年前のプロポーズ』
エバーランド王国の東の果て、小さな領地に建つ、バートン子爵家の屋敷。
その奥手には、こんもりとした緑の森が広がっていた。
「ディア、見てごらん!」
ちらほらと木漏れ日が射し込む、森の入口で花を摘んでいた――リディア・バートン子爵令嬢――こと10歳のわたしに、弾んだ声をかけたのは。
学校の長期休暇ごとに遊びに来ていた、4歳年上の兄の親友、ヴィンセント。
「なぁに、ヴィンス兄様?」
ことりと首を傾げると、
彼は上着のポケットから、小さく丸まった生き物を、そっと取り出した。
大きな黒い目を、くりんと見開いた愛らしい顔。
ほわほわの長い尻尾を、灰色の身体に、ふわりと巻き付けている。
「可愛い……! リスの子ね!?」
「正解! 迷子になって、木の枝から落ちそうになってたのを、さっき見つけて保護したんだ」
「触っても、だいじょぶ?」
「そっとだよ?」
言われた通り、そうっと伸ばした人差し指で、耳の間や首元の柔らかな毛を撫でてみる。
と、子リスが小さな両手で、きゅっと指先を掴んで来た。
「わっ……」
「大丈夫、握手だよ。『よろしく』って」
「『握手』?」
「うん。この子、ディアの事が『好き』なんだ」
「ほんと!? 分かるの、ヴィンス兄様――?」
嬉しくて、にこにこしながら。
少しかがんで、子リスと目を合わせていたら、
「わかるよ――俺も、ディアの事が、大好きだから」
耳元で、こっそりとささやかれた。
「えっ……?」
びっくりして見上げた水色の目に、優しく見下ろす、琥珀色の瞳が映る。
「ディア、大きくなったら、俺と結婚してくれる……?」
◇◆◇◆◇
コンコンッ! コンコンッ!!
いきなりドアを叩く音と、
「ディアッ、6時だよ! 早く起きないと料理長がまた、ご機嫌斜めになるよーっ!」
『同僚』のキッチンメイド、ジャッキーの良く通る声で、はっと夢から覚めた。
「わかった――すぐ行くわ!」
返事を返して、ため息をひとつ。
「せっかく昔の、楽しい夢を見ていたのに」
ぼんやりと夢の残像をたどっていた、ディアの頬が、ぽぽっと熱くなる。
あれはもう、8年も前の出来事。
くせのある黒髪に、キレイな琥珀色の瞳。
動物好きで優しい――ヴィンス兄様。
わたしが13歳でこの学園に来てから、もう5年も会っていない。
『結婚してくれる?』って、聞かれて。
わたし、何て答えたんだっけ?
「……って、思い出すのはあと! 急いで支度しないと!」
ぶるりと頭を振って、夢の名残を振り払い。
ディアこと、リディア・バートン子爵令嬢は、屋根裏部屋の粗末なベッドから、急いで飛び降りた。