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8年前のプロポーズ

新連載スタートしました!

全13話(予定)、毎日更新します♪

(全14話で完結しました)


ブクマ等頂けると、とても励みになります!

よろしくお願いいたします。

『8年前のプロポーズ』  


 エバーランド王国の東の果て、小さな領地に建つ、バートン子爵家の屋敷。

 その奥手には、こんもりとした緑の森が広がっていた。


「ディア、見てごらん!」

 ちらほらと木漏れ日が射し込む、森の入口で花を摘んでいた――リディア・バートン子爵令嬢――こと10歳のわたしに、弾んだ声をかけたのは。

 学校の長期休暇ごとに遊びに来ていた、4歳年上の兄の親友、ヴィンセント。


「なぁに、ヴィンス兄様?」

 ことりと首を傾げると、

 彼は上着のポケットから、小さく丸まった生き物を、そっと取り出した。


 大きな黒い目を、くりんと見開いた愛らしい顔。

 ほわほわの長い尻尾を、灰色の身体に、ふわりと巻き付けている。


「可愛い……! リスの子ね!?」

「正解! 迷子になって、木の枝から落ちそうになってたのを、さっき見つけて保護したんだ」

「触っても、だいじょぶ?」

「そっとだよ?」

 言われた通り、そうっと伸ばした人差し指で、耳の間や首元の柔らかな毛を撫でてみる。

 と、子リスが小さな両手で、きゅっと指先を掴んで来た。


「わっ……」

「大丈夫、握手だよ。『よろしく』って」

「『握手』?」

「うん。この子、ディアの事が『好き』なんだ」

「ほんと!? 分かるの、ヴィンス兄様――?」


 嬉しくて、にこにこしながら。

 少しかがんで、子リスと目を合わせていたら、

「わかるよ――俺も、ディアの事が、大好きだから」

 耳元で、こっそりとささやかれた。


「えっ……?」

 びっくりして見上げた水色の目に、優しく見下ろす、琥珀色の瞳が映る。

「ディア、大きくなったら、俺と結婚してくれる……?」



 ◇◆◇◆◇

 コンコンッ! コンコンッ!!


 いきなりドアを叩く音と、

「ディアッ、6時だよ! 早く起きないと料理長がまた、ご機嫌斜めになるよーっ!」

『同僚』のキッチンメイド、ジャッキーの良く通る声で、はっと夢から覚めた。


「わかった――すぐ行くわ!」

 返事を返して、ため息をひとつ。

「せっかく昔の、楽しい夢を見ていたのに」

 ぼんやりと夢の残像をたどっていた、ディアの頬が、ぽぽっと熱くなる。



 あれはもう、8年も前の出来事。

 くせのある黒髪に、キレイな琥珀色の瞳。

 動物好きで優しい――ヴィンス兄様。

 わたしが13歳でこの学園に来てから、もう5年も会っていない。


『結婚してくれる?』って、聞かれて。

 わたし、何て答えたんだっけ?



「……って、思い出すのはあと! 急いで支度しないと!」

 ぶるりと頭を振って、夢の名残を振り払い。

 ディアこと、リディア・バートン子爵令嬢は、屋根裏部屋の粗末なベッドから、急いで飛び降りた。


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