あなたが落としたものは金のオチですか? それとも、銀のオチですか?
「あなたが落としたものは金のオチですか? それとも、銀のオチですか?」
小説のアイデアをひらめき、パソコンに書き留めていると、飲みかけのコーヒーから眼鏡を掛けた小説の女神さまがでてきた。
「いいえ……普通のオチです……」
「まあ、そうでしょうね……」
インテリ眼鏡を右手でちょいと上にあげた女神さまは、俺のなけなしのアイデアの自信をへし折ってきた。
「そもそも、あなたに金のオチを授けたとしても、あなたの文章力では、落としきれないでしょうから。
あと、なぜ嘘を付かないのですか?
正直者だと話が広がらないですよね?
嘘を言ったら、私が教訓めいたことをするのに。
なにもできなくて、話がオチないじゃないですか?」
辛辣毒舌女神さまは俺自身を落としてくる……
でも、待て。
この性格のキツイ編集者みたいな女神さまも俺のためを思って厳しいことを言ってるのかも。
それに、よく見ると、やはり女神、美人だ。
「ご助言、ありがとうございます。女神さま、私の隣に来てもらえますか? 美しい女神さまに、私の飲みかけのコーヒーは相応しくない!」
女神さまは、褒められたためか顔を赤らめ、
「仕方ないですね……」
と、俺の隣に人のサイズになって現れる。
俺は女神さまの真正面に立ち、
「眼鏡を外してくれませんか?」
女神さまは、俺を上目遣いで見ながら、ゆっくりと自信なげに眼鏡を外す。
俺は顔を近づけ、
「ああ、なんて美しい方なんだ」
「えっ、えっ、えっ、な、な、な、なに!?」
頬を染め、狼狽える女神さま。
「私が落としたのは私自身でした。私自身が女神さまへの恋に落ちました」
「長年、小説の女神をしていて……忙しくて、男に縁がないと思っていたけど……」
俺と目が合った女神さまは、俺を見つめ返す。
「そ、そんなことを言われたのって、初めて…………」
「ちなみに、私は嘘つきです」
怒りの表情をした女神は、俺の後ろにまわり、ヘッドロックをカマしてきた。
俺はギブ、ギブと女神の腕を叩くが、女神は力を緩めることなく、俺を締め落とした。
意識が戻った俺は、パソコンを確認する。
するとそこには、女神からのメッセージがあった。
『オチは私が没収しておきました』
と。