絶望。
眩い大量の光と共に流れ込んでくる記憶の塊。
それは、あたしがかつて白薔薇の聖女ツェツィーリアと呼ばれる存在であったことを思い出させ。
そして。
それと同時に聖女であった時の力をも、取り戻していた。
理解ができる数々の魔法理論と術式。
自分の中にある魂、その中に内包するマナを感じることも。
マナを操作することも、それをゲートから放出し力に変えることも。
そして、それによって現象の結果をコントロールすることさえ。
可能に思えた。
魔力特性値と呼ばれる魔力に対しての親和性も、多分最上級なレベルにあるはず。そう、感じられたから。
同時に、それは他人のそれに対しても、『視る』ことができるという前世で習得していたスキルをもそのまま現世でも保有していて。
というか、記憶の奔流を受け止めたところで、あたし自身の中にそうしたスキルも帰ってきたといったところだろうか。
多分、身体で覚えたものよりも、魂に紐づけられたそんなスキルなんかは死んでも忘れなかった、っていうことなのだろう。
七歳のまだ子供だった自我に降ってきたそんな大人だった前世の記憶。
あたしの心は否応なしに大人の心へと成長させられてしまっていたのだった。
そうして、改めてこの世界を眺めてみて。
驚いた。
大好きだったお兄様。
ブラコンって言葉は好きじゃなかったけど、ずっとそう言われててその時はすごく反発もしたけれど。
どうしてそんなにお兄様に惹かれるのか、自分ではコントロールもできなかったけれど。
これで、わかった。
お兄様ったらアレクじゃないの!
あの魂の色。あの魔力の紋。あたしが間違えるわけがない。
っていうか、他人の空似、なんてレベルではない。
あれはまさしく勇者アレク。アレクサンドライトその人の生まれ変わりに違いないのだもの。
大好きなアレクのそばに生まれ変わることができた。
それはきっとあたしの魂が欲した希望だったんだろう。
神様がいたとしたら、きっとそんなあたしの願いを叶えてくれたんだって。
そう思えた、けれど。
でも、どうして?
子供の心だった七歳のセシーリアにはわからなかった。
兄妹は結婚なんてできないんだってこと。
いっくら好きでも、結ばれることはできないんだってこと。
たとえあたしがよくっても、兄は? 父や母は? 周りの大人たちは?
みんな反対するだろうって、そういうこと。
せっかくこうして大霊に溶け混ざらずに生まれ変わることができたっていうのに、これは、ない。
これじゃぁ。どうしようもないじゃない。
あたしにどうしろっていうのよ! 神様!!
結局その日は気分が悪いと言って早々に自室に引きこもった。
せっかくのあたしの誕生パーティーだというのにそんな無粋な真似をしたことを、周囲の人がどう思うか、なんて、その時はもう考えている余裕なんてあたしにはなかった。
人生がこれで終わってしまった。
七歳の誕生日はそんな、絶望の底に堕ちて、終了したのだった。