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ACT・7

     ACT・7(祈り)


 ―――「…母さん、どうして兄さんと遊んではいけないの?」

 白亜の壁に囲まれた部屋の中、彼は質問を投げかける。

「あの子は呪われた子、一緒に居たらお前も闇に落ちてしまうよ」

 答えるのは、彼に背を向けたままの、年輩と思われる女性。

 卵形の頭から痩せた背中へ流れる、クセの無い赤毛、それを器用に編んでゆく手の指は細いが、関節や血管が浮き出していて、綺麗とは言えない。

「どうして兄さんは呪われた子なの? それじゃあ、僕も呪われた子?」

「お前は呪われてなんかいないよ。お前は私の大事な息子。父さんと母さんが愛し合って生まれた可愛い子供…」

 更に問うと、彼女は髪を編む手を止め、彼を抱き寄せ優しく囁いた。

「…でも、あの子は違う」

 と、急にその声が少し低くなり、彼女は彼をギュッと抱き締め、前方にある扉を睨む。

「そこにいるのは分ってるよ! でもお前の名は呼んでやらない。お前にその名を与えたあの人はもういないのだから…!」

 木肌がゴツゴツした粗末な扉に向かって、彼女は声を張り上げた。

「お前が殺したのよ、私の愛するレイルを!とっとと出ておいき、二度と私達の前に姿を見せるんじゃないよっ!」

 …途端に、扉の向こうでパサッという軽い物を落としたような音がして、木の床を駆け出す足音が聞こえる。

「兄さん!」

 彼は背後の扉へと顔を向けるが、母は抱き締めた腕を離してくれず、駆け出す事は出来なかった。

「…追っては駄目、あの子に関わっていたら殺されてしまうよ。…父さんのように…」

 彼をしっかりと抱き締めたまま、母は囁く。

「側に居て頂戴、母さんにはもう、お前しかいないのだから…」

 水仕事のせいでガサガサに荒れた手で、彼女は愛し子の頭を撫でた。

「…母さん…」

 抗議の意を込め、眉を寄せて顔を向ける彼の視界に、母の潤んだスミレ色の双眸が映る。

 幾筋もの涙がそこから溢れ、すり減った木の床に落ちて小さな染みを作った。

「…お前の髪は、父さんと同じ色…」

 彼の髪を一房片手ですくい上げ、宝物でも見る様なまなざしを向けて母は言う。

「…そして瞳は、私と同じ色…」

 彼女は揺れる瞳で、我が子の顔を見据えた。

 その両眼に映るのは、銀の髪とスミレ色の瞳をもつ、五歳くらいの少年。

 健康な子供特有の、薔薇色の頬や唇…

 睫毛の長い大きな目は、ともすれば女の子にも見える。

「…セレスティン…。この世で、たった一人だけの、私の大事な子…」

 …まるで、自分に言い聞かせるように声のトーンを落とし、母は呟いた…―――――


(…今のは一体…?)

 目を開けると、まず見えたのは白い天井。

「御気分はいかがですか?」

 続いて、淡い緑の瞳をもつ中性的な青年の、穏やかな笑顔が視界に映る。

「…夢を…見た…。幼い子供の頃の夢を…。でも、あれは僕であって僕じゃない…」

「前世の夢ですね」

 普通の人が聞いたら首を傾げるであろうその言葉に、知恵ある青年は笑みを絶やさず応えた。

「リュシア様の子供の頃の夢ですか?」

 寝台の上で身を起こそうとするリオの背に片手を添え、手助けしながらエレアヌは問う。

「…いや、違う…。夢の中で母だった人は、僕を『セレスティン』と呼んでいた…」

 軽く首を横に振るリオの脳裏には、先刻の夢の情景がはっきりと焼き付いていた。

「…それは、貴方がエメンの民だった頃の名ですね」

 少し考えるように首を傾げた後ぽつりと呟かれた賢者の言葉に、転生者である少年は目を丸くする。

「本当に何でも知ってるんだな、エレアヌは」

「貴方に関する事なら特に…ですよ。あの頃、私の前世もそこにいたのですから…」

 …姿は違っても、傍にいます…

 笑みを浮かべた青年の顔に、よく似た印象をもつ乙女の幻像が重なった。

「…どうです、少し外へ出ませんか? 大分顔色も良くなられましたし、貴方が水を撒いてらしたアムルの苗が花をつけていますよ」

「え? たった一ヶ月半で?」

 途端に、リオは元気よく寝台から飛び下りた。

 アムルの苗というのは、シアルが何処かで採って来た果実をリオが随分気に入り、畑に種を蒔いてみたもので、一週間もしないうちに芽を出し、驚く早さで生長し続ける作物の一つとなっていた。

「見たい見たい、今すぐ行こう!」

「とりあえず着替えましょうね」

 どうにか笑いを堪えると、エレアヌは椅子の上に置いてあった衣服をリオに差し出す。

「アムルの木はそれほど大きくならない代りに、種を蒔いて一年ほどで実をつけます。リオ様が世話をしたあの苗なら、半年ほどで実がなるかもしれませんね」

 白地に青い糸で刺繍を施した、少し長めのシャツと、やや細めのズボンは、少年だった頃のリュシアが身に着けていたもの。

 シャツを押さえる役割をする青い飾り帯も、ここ数年ほど、衣装箱の奥にしまい込まれたままだった。

 パジャマ代りの薄手の長衣を無造作に脱ぎ、白き民の衣服の中でも動きやすさを重視したそれを手際良く着ると、リオは長身の青年の顔を見上げる。

「着替え完了。行こう!」

「承知しました」

 エレアヌは目元をほころばせて微笑むと、ずっと寝ていたためか足元がふらつく少年に、寄り添うようにして歩き出した。

 廊下に出ると、床の拭き掃除をしていた者達が、二人に気付いて顔を上げる。

「もう歩いても大丈夫なのですか?」

 その中には、ミーナの姿もあった。

 ケロイド状の傷痕が無くなった少女は、衣服の両袖を肘より上までまくり上げている。

「平気平気、もう走れるくらいだよ」

 言って、その場で駆け足の足踏みを始める少年の両肩に、女性的な顔立ちの青年が眉間にシワ寄せながらポンッと両手を置く。

「…そういう無茶をするのはおやめ下さい。貴方は昨日まで、殆ど眠っている状態だったのですよ」

「…ごめん」

 リオは素直に足を止めた。

 闇人形に敗北し、瀕死の状態でラーナ神殿に戻った彼は、エレアヌと人々が「協力」して起こした奇跡によって傷は癒えたものの体力は消耗したままで、一日の大半を眠って過ごす日々が約一週間続いた。

 そして今日、やっと歩けるまでに回復したのだから、介護していたエレアヌに叱られるのも無理はない。

「貴方は昔から、自分を大切になさらない。心配する者が大勢いる事を、いつもお忘れになっておられる」

 「昔から」という言葉に前世もそうであったという意味を含ませ、心配する人間の代表格である賢者は、転生者の少年を橄欖石色の双眸で見据えた。

「そんな事では困ります」

「…分ったよエレアヌ」

 威圧的ではないが妙に迫力のあるまなざしに負け、リオは観念したように応える。

(普段おとなしい人が怒ると怖いってのは、本当だな…)

 密かに、そんなことを思ったりもした。

 廊下を歩き去ってゆく二人を、ミーナ達が声を抑えて笑いながら見送る。

「…そういえば、リュシア様もエレアヌ様に頭が上がらなかったよな」

 誰かが言う。

 無茶をする聖者と、適当なところで止めに入る賢者。

 違う人間に生まれ変わっても、その関係は変わらないらしい。


「リオ!」

 外に出ると、畑の真ん中に座っていたシアルが立ち上がり、すぐに駆け寄って来る。

「アムルの花、見にきたんだろ?」

 幼い子供のように開放的な笑顔で問う彼に、リオは一瞬言葉を失った。

「…どうしてそれを?」

「今朝エレ兄が言ってたんだ。そろそろ歩き回ってもいい頃だし、畑の方まで散歩出来るだろうって」

 彼の問いに、シアルは笑顔のまま答える。

「アムルの木に花が咲いたって聞けば、お前なら絶対見にくると思ったんだ」

 そしてリオの片手を掴み、畑の方へと引っ張ってゆく。

「もう少し歩調を緩めなさい、リオ様を疲れさせないように」

 走り出しそうな勢いのシアルを、医者代りのエレアヌが慌てて窘めた。

「そっか、悪い」

 シアルは素直に従い、リオに合わせる様にして歩き始める。

 その行く手にはもう、白っぽい花を付けた若木が見えてきていた。

「…へえ…これがアムルの花?」

 近くまで来ると、リオは地面に膝をつき、高さ五〇センチほどの小さな木に咲く満開の花々を見つめる。

 五枚の花びらをもつそれは、よく眺めると白ではなく、淡いピンク色をしていた。

(桜に似てるな…)

 かわいらしい花びらの一つにそっと触れ、リオは故郷の花を思い出す。

 ここに来るきっかけとなった図書館には、菩提樹以外にもたくさんの木々が植えられていて、桜の木も何本かあった。

 毎年春になれば満開の花をつけるその木々を好んでいたのは、彼だけではない。

 本を借りに来た人々は年齢性別関係なく、一度はその花に目を奪われた。

 時には飲み会帰りの酔っ払いが、その木の下で二次会だか三次会だかを始めたりもする。

(…あと半月で、ここに来てから二ヶ月か。向こうでは正月も終わった頃かなぁ…。あと三ヶ月も経てば桜の季節がくる。それまでに、僕は日本に帰れるだろうか…)

 エルティシアに来て以来、次々に色々な事が起きたため考える機会がなかった元の世界、桜に似たアムルの花は、日本人である彼の心に淡い郷愁を生み出した。

「大丈夫ですか? もしや、お疲れになられたのでは…」

 微かに溜め息をつくリオの顔を、エレアヌが眉を寄せて覗き込む。

「え? ち…違うよ」

 リオはハッと我に返り、慌てて片手をヒラヒラと振ってみせた。

 そしてもう一度アムルの花に視線を向けた後、彼は立ち上がり片膝についた土を払う。

(…きっと帰ってみせる。…この世界で成すべき事を済ませたら…)

 その胸の内には、灯にも似た思いが宿っていた。

挿絵(By みてみん)


 更に二日が過ぎると、リオの体力は完全に回復した。

 人々はそれを心から喜んだけれど、同時に新たな不安も生じてくる。

 転生者の少年が、起こすであろう行動…。

 …それは、「彼」の性格をよく知る者ほど、確信のあるものとなっていた。


(…闇人形は、歪んだ人の心と、闇に堕ちた妖精の力が生み出すもの。…やはりあれは、エメンの民の残留思念…)

 神殿の地下室にある古い書物に目を走らせ、エレアヌは一人思案する。

(…憎しみの念が多いほど、闇人形は強大な魔物となる…倒す方法は…)

「エレアヌ様」

 ふいに背後から声をかけられ、彼はハッと顔を上げた。

 広辞苑なみに分厚い本をパタンと閉じ、床に届きそうなほど長い黄金色の髪を揺らして振り向くと、そこにはサファイアブルーの髪と紫水晶色の瞳をもつ青年と、白金色の髪と勿忘草色の瞳をもつ少女が立っている。

「どうしました?」

「…皆が不安がっています…。あの方がまた死の大陸に向かわれるのではないかと…」

 穏やかな物腰の賢者に対し、先に口を開いたのはオルジェであった。

「大地の妖精は未だ、捕らえられたままです。あの方の性格ならば、体力が回復した途端に助けに行くと言い出すに決まっています」

「そういえば、貴方はリュシア様の幼馴染みでしたね」

 きっぱりと言い切る彼に、エレアヌは目元に笑みを浮かべて言う。

 緑の賢者が魂の古馴染みなら、リュシアと同郷の青年は前世の古馴染み。

「彼」に関しては、オルジェの方がよく知っていた。

「…ですから、エレアヌ様にお願いしに参りました。今度死の大陸に向かわれる時には、私達も同行させていただける様、賢者である貴方から進言して頂けませんか」

「…お願いします」

 そこでやっと、ミーナも口を開いた。

 彼女も、リュシアと郷里を同じくする者…

「『私達』という事は、貴女も同行を?」

 瞳を潤ませ懇願の意を表わす少女を見て、さすがのエレアヌも目を丸くする。

 ほんの一~二ヶ月前まで、リオの黒い髪を見ただけで怯えていた少女の何処に、魔物の巣窟である地への同行を願い出る強さがあったのか…

 澄んだ勿忘草色の瞳を見つめながら、エレアヌは皆で「奇跡」を起こした時の事を思い出していた。


 ―――「リオ様…!」

 血まみれの少年を抱え、彼は叫んだ。

 しかし応えは無く、その喉が力なく反れてゆく。

「…お願いです…目を開けて下さい…」

 ぐったりとした身体、その胸と背から流れ続ける鮮血が、白い床を真紅に染めた。

 閉じた瞼の微かな震えが命ある事を告げているけれど、その呼吸は今にも止まりそうなほど弱々しい。

「私を…置いて逝かないで下さい…!」

 叫んだエレアヌの頬を、幾筋もの涙が伝う。

 黄金色の柔らかな光が、彼の身体から滲み出し、腕の中の少年を覆う様に広がった。

 リオほどではないけれど、エレアヌは癒しの力をもっている。

 それゆえに、リュシア亡き後医者代わりを務めてきた。

 薬草と癒しの力とを合わせて、怪我人や病人を治療出来るのは彼一人であったから…

 といっても、エレアヌの力は傷がふさがるのを早めたり、痛みを和らげたりする程度のもので、とても今のリオを回復させる事など出来はしない。

(…神よ…創造神エルランティスよ…)

 失血のため次第に冷たくなってゆく少年の身体を強く抱き締め、彼は祈る。

 絶望の縁に追いやられた者が、最後にすがる存在に対して…

(私に、この方を救う力をお与え下さい…!)

 白く細い手が、血の気を失った頬に触れたのは、その時であった。

「…ミーナ?」

 いつの間にか隣に座っている少女を、彼は呆然として見つめる。

 勿忘草色の瞳から流れ続ける涙を拭おうともせず、ミーナはそっとリオの頬を撫でる。

 …まるで、冷たい頬を温めようとするかのように…

 もはや殆ど息をしていない少年の胸元には、彼女から贈られた守護石のペンダントがある。

 けれど、石は溢れ続ける鮮血で真紅に染まり、本来の色は見えなくなっていた。

「…私にも、リオ様を癒すお手伝いをさせて下さい…」

 勿忘草色の瞳を真っ直ぐに向け、ミーナはエレアヌを見据えて言う。

「以前、リュシア様は言っておられました。『祈りは大いなる力を呼ぶ、奇跡は誰にでも起こせる』と…」

 それから、胸の前で両掌を交差させ、瞳を閉じた。

 白き民が、祈りを捧げる時の様に。

「…神様、お願い…リオ様を助けて…」

 彼女が澄んだ声で呟いた途端、淡いブルーの光がその身体から滲み出る。

 それは霧のように揺らめき、宙を漂って、エレアヌの光と重なった。

 すると、既に仮死状態となっていた少年が、弱々しいながらも息を吹き返し始める。

(…治癒の力が高められた…?)

 目を見張るエレアヌの周囲に、他の人々も集まってきた。

「私達も力をお貸しします」

 彼等もミーナと同様祈り始めると、様々な光がその身体から滲み出る。

 それはエレアヌやミーナの光と混ざり合い、虹の様な色彩を生み出した。

 温かな光に包まれ、リオの身体が温もりを取り戻し始める。

 青ざめた頬に赤みが差し、唇から溜め息にも似た吐息が漏れた。

 大量の鮮血を溢れ出させていた、胸と背の刺し傷が、見る間に塞がり消えてゆく…

「…奇跡は…誰にでも起こせる…」

 かつてリュシアが言い、ミーナが伝えた言葉。

 エレアヌはそれを無意識のうちに呟いていた…―――――。


「分かりました」

 彼は両手で抱えていた分厚い書物に視線を落とした後、この地下室の唯一の出入り口である大きな木戸の前に立つ二人を見つめる。

「リオ様にお願いして、同行を許してもらいましょう。その代わり、闇人形を倒す手助けをしてもらえますか?」

「はい」

 その問いに、二人は即答した。

「…あの、でも私…武術の心得は無いんですけど…」

 言ってしまってから気付いたのか、ミーナが付け加える。

「そんなもの必要ありません」

 にこやかに応える賢者に、少女は勿論、隣に立つ青年も首を傾げた。


 …一方、リオは神殿の周辺に作られた畑の中央に立ち、灰色に曇った空を見上げていた。

(…水の妖精が雨を降らそうとしてるのか…)

 湿った風が、彼の頬を撫でてゆく。

 どんよりとした空は、死の大陸上空を思わせた。

 やがて、大粒の雨が一粒二粒と降り始め、地面に染みを作ってゆく。

 畑の作物にも雨は落ち、緑の葉や若木の細枝を震わせた。

「…リオ、建物の中に入って」

 高く澄んだ声が穏やかに響き、リオの前に一人の乙女が現れた。

「そこにいたら貴方まで濡れてしまうわ」

 南の海の浅い珊瑚礁と同じ水色の髪と瞳、滔々と落ちる滝のように白い薄布のドレス。

 彫りの深い顔立ちは、聖母のように優しく慈愛に満ちた微笑みを湛えている。

「構わない」

 対するリオの声には、どこか甘えた子供のような響きがあった。

「…困った人ね」

 乙女が苦笑した直後、リオの身体を水色の光が包む。

 彼女の髪や瞳と同じ色の光は膜となり、雨粒を弾き始めた。

「ありがとう」

 リオが柔らかく微笑むと、水の乙女も笑みを返す。

 その姿が幻影の様に薄れ、陽炎の如く揺らめくと、大気に溶け込む様に消えた。

 淡いブルーの光に包まれたまま、リオは再び空を見上げる。


 …黒き民の長・ディオン…


 大地の妖精は未だ、彼に捕らえられたままである。

 ラーナ神殿付近はリュシアの結界のおかげで大地の恵みを受け続けているが、地割れの向こうでは、せっかく潤い始めた大地が再び砂漠化しつつあった。

 そんな「外」の状況は、すっかり報告係となっている風の妖精によって、毎日知らされていた。

「西のリナリアが枯れてしまったよ」

「あと少しで、蕾が開いたのに…」

 リオの髪を、風がフワリと撫で上げた。

 羽根のある小妖精たちは、親友である少年の周囲に集い、衣服の裾や飾り帯を揺らす。

「…水の妖精が必死に大地を潤してるけど、駄目なんだ」

「土そのものが、病んでしまってるから…」

 大人びた事を言う風の子供たちはしかし、胸の奥にある言葉を口にすることは出来ない。

 …彼等も恐れていた…人々と同じ様に…

 聖なる力をもつ少年が、邪気に満ちた土地へ行く事を。

 物質化した闇が、再び彼を傷つける事を…

 …けれど、リオは言った。

「風の妖精、翼を貸して」

 とっくに変声期がきている筈の、十五歳の少年とは思えぬ透明感のある声で。

「…もう一度、僕を死の大陸へ運んでほしい」

 一瞬、風はその流れを止める。

 それから、雨に濡れた作物の葉を揺らし、若木の細い枝々をしならせ、不揃いに伸びたリオの黒髪を乱した。

「頼む、空間移動は出来れば使いたくない」

 逃げる様に離れてゆく風の妖精達を見回し、リオは声を張り上げる。

 途端に、妖精達は一斉に振り返った。

「向こうで何かあった時の為にも、なるべく体力を温存しておきたいから…」

 低く呟く様に言うと、風は次第に静まり、いつもと同じ微風に変わった。

「…どうしても行くの…?」

 童女の姿をした小妖精が、リオの目の高さまで舞い降りて問う。

 心地好い風が、リオの前髪を揺らした。

「…行かなきゃならない」

 年齢より幼く見える少年は、目元と口元に僅かな笑みを作って答える。

「大地の妖精を救う為?」

 五歳にも満たぬ幼児の姿をした妖精が肩に座り、舌っ足らずな声で問うた。

「そう。…でも、他にもまだ助けを求めてる誰かがいる…」

 急に真顔になり、リオは言う。

 助けを求める「誰か」については、未だに判らない。

 もしかすると、捕虜となっている白き民が居るのかもしれない、と思ってみたりもした。

「分かったわ」

 小さな溜め息をついて、最初に降りて来た風の妖精の少女は答える。

「翼を貸してあげる。…でもそれは、一緒に行く人が準備を終えてからよ」

「え?」

 キョトンとするリオを残して、彼女は透き通った空色の羽根を広げ、軽やかに飛び去ってゆく。

 続いて他の妖精達も飛び立ち、灰色の雲の向こうに消えていった。

「…『準備』って…?」

「リオ様」

 呆然とするリオに、神殿から出てきたエレアヌが歩み寄って来る。

「お話ししたい事がございます。散歩を兼ねて、お付き合い頂けますか?」

「…いいけど…」

 曇り空から金色の髪の青年へと視線を移し、童顔の少年は少し曖昧な返事をした。

 それでも構わず、エレアヌは優雅な足取りで歩き出す。

 一テンポ遅れて歩き出したリオの目の前で、長い金髪が柔らかく揺れた。


「…私の事をどう思いますか?」

 緑の葉を茂らせる大樹の側まで来ると、優雅な物腰の青年は童顔の少年を見据えて問う。

「え?」

 唐突な問いに、リオは返答に困った。

「…ど…どうって聞かれても…」

 珍しく視線を逸らし、ぼそぼそと呟く彼を見て、エレアヌは僅かに表情を曇らせる。

「…そうですか…」

 翳のある呟きに、リオは慌てて顔を上げた。

 黒い瞳に、うなだれた青年の姿が映る。

 けれど、その横顔は長い金髪に隠れていて、見る事は出来なかった。

「…エレアヌ…?」

 そこで彼は正面に回り込み、自分より高い位置にある青年の顔を見上げる。

 途端に落ちてきた透明な滴が、リオの頬でポツッと弾けた。

「どうして泣く…」

 言いかけた時、彼はふいに抱き寄せられる。

 長く柔らかな黄金の髪が、頬や肩に触れた。

「…しばらく、このままでいさせて下さい…」

 囁く声は、ほんの少し震えている。

「…分っています…今の私達は、こんな事をするような関係ではないと…。」

 懸命に感情を押さえた低い声。

 身長差ゆえ彼の胸元に頭を押し当てられる体勢となったリオの耳に、少し速い鼓動が聞こえた。

「…でも、どうか今だけ…お許し下さい…」

 涙の粒がいくつも落ちて、不揃いな黒髪を濡らす。


 ―――「たとえどのような姿、どのような関係に生まれても、私はあなたを…あなたの魂を愛しています…」―――

 澄んだ高い声が、リオの脳裏に蘇った。


「…エリエーヌ…」

 知らず漏れた呟きに、青年の肩がピクリと動く。

 抱き締める力が緩み、腕の中でおとなしくしていた少年はゆっくりと顔を上げた。

「…そっか。エレアヌは彼女の転生者なんだよね?」

 真っ直ぐに見つめる瞳に、嫌悪の翳は無い。

「いいよ。しばらくこうしていても」

 人なつっこい笑みを浮かべ、リオは穏やかな口調で言う。

「…別に、嫌じゃないから…」

 そのまま、しばし沈黙の時が流れた…


「…何だか不思議だな。エレアヌと僕が恋人だった頃もあるなんて…」

 随分長く感じられる数分が過ぎた後、童顔の少年は女顔の青年に笑みかける。

「…遠い昔、この世界が誕生するより以前の事ですよ…」

 気持ちが静まったのか青年も笑みを返し、抱き締めていた腕をそっと離した。

「魂が輪廻し始めてから、途方もない時代が過ぎています…前世は、もはや一つではありません…」

 生命の木に歩み寄り、足首まである金髪を揺らして立ち止まった青年は、細い指先を枝へと近付け、豊かな緑の葉の一つに触れる。


 …千年近くの時を経た大樹…。


 「魂」は、それよりも遥かな時を越え存在し続けている事を、エレアヌは勿論、リオも今では理解出来る。


「…けれど人は、よほどの事が無ければその記憶を残してはいないでしょう…」

 木洩れ日が煌めく梢に若葉色の瞳を向け、穏やかな物腰の青年は、口元に僅かな笑みを浮かべる。

「『リュ=シオン』と『エリ=エーヌ』の記憶は、私も殆ど覚えてはいません。ただ貴方の魂に惹かれる心だけは、強く残っているのです…」

 あと数センチ伸びたら地面に届きそうな金髪を、風が柔らかく持ち上げ、なびかせた。

「…じゃあ、さっきの涙はエリエーヌの心が流したもの…?」

 大木の根元に座り込み、リオは優美な青年を見上げる。

 異世界へ来て間もなく二ヶ月、切る機会が無くて伸ばしっぱなしになっている黒髪を、風は撫でる様に揺らしていった。

「そうです。すみません、女々しくて…」

「涙を流すのは、悪い事じゃないよ」

 伏し目がちに言うエレアヌに対し、リオは真っ直ぐな視線を向けて応えた。

 目を丸くする青年に、素直な心をもつ少年は、柔らかく笑いかける。


 ―――…泣きたければ泣けばいい…―――

 ふいに、エレアヌの脳裏に、ずっと以前に聞いた言葉が蘇った。


 ――――ラーナ神殿に来る前、エレアヌは森の中で一人暮らしていた。

 祖父が集めた膨大な量の書物、澄んだ泉と様々な実のなる木々、それらに囲まれた質素で平和な生活を、彼は今でも懐かしく思う。

 …けれど今はもう、その森は存在しない…。

 十三年前の魔物大発生により、緑豊かな森は枯れ果て、石と木で造られた家は崩され、書物の大半は破られ紙屑と化した。

 共に森で暮らしていた動物たちは散り散りに逃げ、或いは殺され、彼自身も危うく命を落としかけた。

 身長三メートルほどの、熊に似た魔物が目の前に迫ってきたとき、当時十三歳であったエレアヌは、死を覚悟してその場に座り込み、鋭い爪が振り下ろされる瞬間を待った。

(…もう、逃げても仕方がない…ここで死ぬのが私の運命か…)

 …けれど、魔物の爪は彼を引き裂くことはなく…

「何やってる、逃げろ!」

 凛とした声に目を開けると、魔物はその場から消え去っていた。

 代わりに立っていたのは、傷ついた子兎を抱いた一人の少年。

 …風に揺らぐ青みがかった銀の髪、その身を包む青銀の光…

 やや切れ長の瑠璃色の瞳から、ふいに鋭さが和らぎ、腕の中でおとなしくしている子兎へと向けられた。

 …すると、子兎の全身にあった浅い切り傷が、急速にふさがり消えてゆく…

(…癒しの力…!)

 息を飲むエレアヌの目前で、子兎はあっという間に傷が癒え、そっと地面に降ろされた途端、元気良く走り出した。

「見ろ、あんな幼いものでも生きる為に走る」

 それを見送ると、少年はその瑠璃色の瞳をエレアヌへと向ける。

「お前も、その二本の足が動くなら、そんな所に座り込まず、安全な場所まで走れ」

 よく通る声で言いながら、少年はエレアヌの片手を掴んで立ち上がらせた。

「こっちだ」

 呆然としたままの相手を導き、駆け出した少年は、その行く手に現れた魔物に空いている方の手を向ける。

 その掌が銀色の閃光を放ち、光は球と化して魔物へと飛んだ。

 光球は魔物を包み、一瞬の内に塵に変えて消滅させる。

「…貴方は…一体…」

「俺はリュシア、ラーナ神殿の長だ」

 やっとのことで言葉を紡ぎ出したエレアヌに、青銀の髪と瑠璃色の瞳をもつ少年はそう名乗った。

「…神殿の方が…何故こんな辺境に…?」

 枯れ始めた木々を見回し、エレアヌは問う。

 ここと神殿とはかなりの距離があり、人の足では二週間以上かかる。

「風の妖精に聞いたんだ。緑の賢者が住む森が魔物に襲われていると」

「…風の妖精…?」

 真っ直ぐなまなざしを向ける少年に、賢者と呼ばれる少年が問おうとした時…

「リュシア!」

 透き通った羽根をもつ小妖精達が、空から次々に降りて来た。

「魔物がどんどん集まってきてるわ」

「いちいち倒してたらきりがないよ」

 妖精達は二人を囲んで口々にそう告げた。

「そうか。じゃあ、脱出を手伝ってくれ」

「分った」

 リュシアが言い、妖精達が答えると、見えないヴェールに包まれる様な感覚と同時に、二人の身体が空中に浮かび上がる。

「…貴方は…妖精の友なのですか?」

 上昇しながら、エレアヌは問うた。

「ああ」

 答えた少年の双眸は、昔語りに伝えられる聖なる青。

 空よりも、海よりも深い、神秘の瑠璃色。

「どうした? 顔が赤いぞ」

 言われて、自分の頬が紅潮している事に気付いたエレアヌは、慌てて視線を逸らす。

「…何でもありません…」

 言いながら足元に目を向け、彼は思わず息を飲んだ。

「…森が…」

 次第に茶色く変色してゆく森を見下ろし、賢者の呼び名をもつ少年は細い眉を寄せた。

 十三年間、ずっと暮らしてきた緑豊かな森。

 彼にとっては、森全体が我が家であった。

 それが今、続々と押し寄せる魔物達の手で死の森へと変えられてゆく…

 エレアヌの澄んだ淡緑色の双眸が、僅かに潤んで揺れた。

(…泣いたところで…何にもならない…)

 懸命に涙を堪える彼を、ふいにリュシアが抱き寄せた。

 二人の身長差は、あまりない。

 エレアヌの方がやや背が低く、肩幅も狭い程度。

 けれど、不思議な力をもつ少年の腕の中は、何故か安心感があった。

 少々荒っぽく抱き締められたエレアヌの耳に、さほど年の差はないと思われる少年の体温が伝わり、心臓の音が流れ込んできた。


 …何故か、胸の奥が熱くなる…。

 悲しみとは別の感情が、心の底で揺れた。

 …それが何であるかを知ったのは、ずっと後の事…


「…泣きたかったら泣けよ」

 ぽつりとリュシアが囁く。

「涙を流すのは、悪い事じゃない」

「…はい…」

 答えると同時に淡緑色の瞳から一粒、透明な滴が零れ落ちた。

 枯れてゆく故郷の森を霞む視界に収めつつ、少女のように見える少年は涙する。

 肩にかかる黄金の髪を、風が優しく撫でて揺らした―――――。


「…貴方は本当に似ておられる…」

 穏やかな微笑みを浮かべ、エレアヌはリオの隣に腰を降ろす。

「…だから心配なのです…貴方がリュシア様と同じ事をするのではないか…と…。私だけではありません…神殿に住む者全員が、同じ思いを抱いています」

 ふいにその笑みが消え、柔和な顔立ちの青年は真剣なまなざしを童顔の少年に向けた。

「…同じ事って…?」

 転生者の少年の問いに、若き賢者は溜め息を漏らし、やがて語り始める。

「…この地を護る結界の事は御存じですね?ラーナ神殿を包む目に見えぬ守護壁と、大地に伸びる巨大な地割れ。どちらもリュシア様が一人で為されたものです」

 確認の意を込めた言葉に対し、リオは頭を縦に振った。

「…ですが、それはあまりに大きな力のため、達成するには犠牲が必要でした…」

 淡々と語る青年の、橄欖石のような双眸は微かに揺れている。

 そこから地面へと落ちてゆく一筋の涙が、僅かに首を傾げる少年の瞳に映った。

「犠牲…?」

「…リュシア様の『命』です…」

 震える声が告げた事実に、リオは息を飲む。

「…前世の貴方は、民とこの地を護るため、自分の生命力を全て使い、強大な二重結界を張ったのです…」

 言い終えると、エレアヌは目を伏せた。

 リオにとっては生まれる前の事でも、この世界では一年も経たぬ過去。

 転生者の出現によって人々は笑顔を取り戻したものの、その心の奥には今も悲しみの翳が残っている。

 しかもエレアヌは、人々の中でもただ一人、リュシアの最期を見届けた者…


 ―――「俺の生まれ変わりを探してくれ。お前になら出来る筈だ」

 一抱えもある水晶の原石に片手を置き、青銀の髪をもつ青年は低いがよく通る声で言う。


「俺は異なる世界に転生する。向こうの時間で約十五年、こちらの時間で数ヵ月過ぎた時、精神飛翔が可能となる…。迎えを頼む」

 その身体から、白い靄の様な光が滲み出し、水晶と彼とを覆ってゆく。

「お待ち下さい!」

 長い黄金の髪が乱れるのも構わず、エレアヌは悲痛な声を上げた。

 駆け寄りたくても、透明なドーム状の結界に遮られ、その場から動く事は出来ない。

 その目前で、白き民の若長は水晶の助けを借り、自らの力を最大限にまで高めてゆく。

「大丈夫、俺は必ず戻る」

 フッと笑みを浮かべた後、青年の姿は白銀の閃光に覆われた。

 強烈な光は急速に広がり、まぶしさにエレアヌは両目を閉じる。

 …しばらく後、恐る恐る目を開けた直後、彼の心臓は凍りそうになった。

 白亜の床に、青銀の髪の若者が倒れている。

「リュシア様っ!」

 慌てて駆け寄り抱き起こしても、その身体は身動き一つしなかった。

 何度も名を呼び、揺さぶってみたけれど、閉じた瞼は開かない。

「…そんな…」

 震えながら胸に耳を押し当てたエレアヌは、そう呟いたきり言葉を失った。


 …鼓動が、聞こえない…。


 白き民の長リュシア=ユール=レンティスは、緑の賢者エレアヌ=オリビンに抱き起こされた時には、既に事切れていた。

 自分の全生命力を結界の為に使い果たした青年の死に顔は、眠っているかの様に安らかであった…―――――――。


挿絵(By みてみん)


「リオ様、貴方は死の大陸に向かうおつもりでしょう?」

 やがて顔を上げたエレアヌは、対処に困って後ろ頭を掻く少年に目を向け、比較的落ち着いた声で問う。

「えっ…な、何で分った…?」

 図星であった。

「分りますよ。貴方はそういう人です。自分の身が危険でも、誰かが助けを求めていると駆け付けずにはいられない。たとえそれが、人間以外でも…。だからこそ、人々は勿論、妖精たちにも愛されるのです」

 穏やかに微笑むエレアヌの瞳は、まだ涙に濡れている。

「貴方を導くのは貴方の魂…私には、貴方の行動を止める事など出来はしません。ですが、一つだけ進言させていただきます…」

 そこまで言うと、優美な青年は細い指で涙を拭い去り、隣に座っている少年の黒い瞳をひたと見据えてこう続けた。

「死の大陸へは、私達四人が同行いたします」

「四人?」

 怪訝そうにリオが問いかけた時、遠くから足音が近付いてくる。

「リオ!」

 真っ先に走って来たのは、前世の養い子。

「俺を置いてったら承知しないからなっ!」

 息を弾ませて駆け寄った彼の額には、汗が滲んでいて、柔らかな銀髪が貼り付いていた。

「…シアル…?」

「結界の外へは一緒に行くって約束だろ?」

 呆然とするリオの両腕をガッチリと掴み、気性の激しい少年は大きな蒼い瞳で睨む。

「見つかりましたよ、エレアヌ様」

 続いて来るのは、青い髪と紫色の瞳をもつ長身の青年。

 服装はいつもと変わりないが、腰のベルトには長剣を差していた。

 肩から下げた布袋、そこから少しはみ出している物は…

(…竪琴…?)

 リオは首を傾げた。

「遅くなってごめんなさい。弦が切れていたので、張り替えていたんです」

 歩幅の違いでやや遅れて歩いてきたのは、白金色の髪と勿忘草色の瞳をもつ少女。

「ミーナ? 四人って…まさか君も?」

「はい」

 さすがに面食らい、裏返った声で問うリオに、おとなしい雰囲気のミーナははにかんだ笑みで答える。

「…えっ、だって君は魔物が怖いんじゃ…」

 意外な展開に、本来子供っぽい性格であるリオは狼狽した。

「平気です。リオ様と一緒なら」

 そんな彼に、少女はきっぱりと言う。

 普段は裾の長いワンピースを着ている彼女だが、今は淡いピンクのシャツとクリーム色のズボンという、動きやすい服装をしていた。

「駄目だ、危険すぎるよ。向こうでは、何が起こるか分らないんだから…」

「その危険な場所に、一人で行こうとしてたのは、どこの誰だよ?」

 焦るリオに、ツッコミを入れるのはシアル。

 腕を掴んでいた手はもう離しているけれど、少々きついその瞳は常に守護すると誓った相手へと向けられていた。

「…この数日間、私はずっと闇人形について調べておりました。そして見つけたのです、あれを倒す方法を…。それには、彼等が必要なのです。どうか共に行く事を許してやって下さい」

 横から、穏やかな口調でエレアヌも言う。

 彼と、シアル、オルジェ、ミーナ…四人の視線が、黒髪の少年に集中した。

 しばし沈黙した後、深い溜息をついてリオは呟く。

「…分ったよ」

 柔らかな風が、彼の頬を撫でて吹き抜けた。

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