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終末の帝国  作者: 風林
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異世界転移


 日常がとにかく退屈だった。NBAの選手が小学生のチームに混じって試合をしていると特に全力を出さずとも圧倒できるように、私も特に何かやるまでもなくとも勉強だろうと運動だろうと学校のトップだった。

 

 それゆえに周りの人たちが苦戦していることが理解できなかった。自分が片手間にできることが他の人にはできないということを理解したのは、周りから人がほとんどいなくなってからだ。普通にやれよという言葉を投げかけていたら、いつの間にか家族も友人だと思っていた人も遠のいていった。確かに私にとっては普通だったのだろうけれど、彼ら彼女らにとっては無理難題だということに気付かなかった。

 

 学校にはそれでも通っているが正直わかりきっていることしか言わない教師に対して、そしてそれも理解することが出来ないクラスメイトらに対して冷めた目でしか見ることが出来ない。


 そんなこんなで授業が終わり、放課後になると部活へ向かう。各分野で他の生徒とは隔絶した差があるが、こと剣道に関してはルイというライバルがいるのだ。剣術の天才で、剣道の全国大会を中学のころから全国制覇している。当代最高といわれるだけの才があり、そしてそれにおごらずに鍛錬を積んでいるルイはだがしかし女子ということもあり、身体能力の差でハンデ無しの勝負だと互角になる。

 

 今回も4戦して、3勝1敗。通算で8回の負け越し。毎度対ルイの戦略を立てて挑んでいるが、そのほとんどを対処してくる。才能のあるものが本気で努力をすると手を付けられなくなるということだろう。


「お疲れ様、今日は負けちゃったな―。うまく返したつもりだったんだけど、ダメだったよー」

部活のあと、ルイと一緒に帰る。剣道部といっても、ルイの才能を見たほかの部員が全員いなくなってしまったので、実質的にはルイしか部員がいない。

 しばらく雑談をしながら歩ていると、かすかな声が聞こえてくる。ルイには聞こえなかったようだけど、おそらく悲鳴だったろう。

「私、寄るところがあるので、今日はここで」

「あ、うん。ずいぶん急だけど、お疲れ様。付き合ってくれてありがとね」


 ルイと別れてから声が聞こえたところを辿っていくと、そこには血の海が広がっていた。そして、一人の女性がたたずんでいる。それだけでもかなり奇怪な状況だが、さらにその女性の格好がどう考えても普通ではない。少なくとも私は翼の生えている半裸の人を見たことはない。


「ひゃっ!」

 どうしようとかと考えて、幸いこちらには気づいていないようだったから、こっそり帰ろうと思ったその時、私の近くで小さい悲鳴が上がる。

 たぶん私のあとをこっそりついてきたであろうルイのものだ。たぶんだけど、急に分かれたので、何かあるのだろうと思って気配を隠しながらついてきたのだろう。


 悲鳴が聞こえたのか、翼の生えている女性がこちらを振り返る。翼が生えていることと返り血を浴びていること以外では普通の女性に見えるが、いや銀髪で紫色の目は普通はないか。

「あなたたち、名前は?」

 どうやって逃げようか算段をつけていたら、翼の生えた女性が話しかけてくる。

「え、えーと…東雲瑠衣です」

とりあえず無視して逃げようと思っていたのにルイが答える。女性がこちらを見て私にもこたえるように促してきた。

「…左門大成です」

 言わないと、終わらなさそうだし、唯一話すルイを置いて逃げるわけにもいかないので、しぶしぶ答える。


「ふむ、シノノメに、サモンか。私はおぬしらのような存在を探しにここにやってきたのだ」

 翼の生えた女性が話し始める。

 なんでも、女性はワルキューレのような存在で、有能な人材を欲しているらしかった。もともとは私達とは2つほど高い次元にいる存在だが、それだとこちらから知覚することが出来ないので、下りてきているらしい。


 なんでも、別の世界で召喚の儀式が行われていて、その人材を探すために彼女らが派遣されているとのこと。

「その世界に行ったとして、私たちにメリットなんてあるの?下手したら言葉とかも通じないまま殺されたりするかも知れないし」

 それに私もルイも一般的な人から見たら十分優秀といえる部類だと自負しているが、それでも、当代の中でも一番だというわけでは全くない。地球どころか日本の中でも和立ち寄りも優秀なものはいる。

「それに関しては問題ない。タイセイは自分を卑下しているようだけれど、十分得難い才能を持っている。召喚の儀式で求められているのは、戦闘能力があって、情報処理能力の高い者。あなたならどちらの条件も満たしている。ルイに関しては武術に限っていらばまれにみる才能がある。召喚儀式は一人だけだったけれど、せっかくだから二人ともついてきてもらいたいのだけれど、問題ないか」

 そんなこと言われても問題しかない。二人ともどっかに消えるとかここでの混乱はあるし、召喚の儀式がどのような経緯で行わているのかは知らないが、厄介ごとに巻き込まれる可能性が非常に高い。ルイはいわゆるノブレスオブリージュ的な持っているからいいのかもしれないが、私はそんなことはない。才能があって楽できるなら、その分楽しようとするタイプだ。わざわざ他の人のために手のかかるようなことはしたくない。

「どうやら、タイセイは嫌なようだが、これは決定事項だ。それでは」

 そういうと、彼女の翼が光り出す。



 どうやら先ほどの光か何かによって飛ばされたらしい。そこまで疑ってはいなかったけど、どうやら先ほどの女性が話していたことは少なくともすべてが嘘というわけではないのだろう。

 周りの様子と先ほどの話を統合するとたぶんここは召喚の儀でも行われたところなのだろうそれらしい服装の人たちが遠巻きに観察しているし。

 

「ようこそおいでくださいました。私、帝国の柱の執事長を務めております、フーリエと申します。別室にてもてなしを用意いたしました。唐突にこちらへやってきて混乱されていると思いますので、まずはそちらの方でおくつろぎいただきながら説明をさせていただけたらと思います」

 そう言っていかにも執事然とした初老がお辞儀をする。まずはいきなり囲まれてぼこぼこにされることはなさそうで安心。食べ物に毒がないかとか不安はあるが、そこは今はどうしようもないだろう。


 とりあえず、いろいろと情報が足りていないので、先ほどの執事について、宴会場のようなところについていく。

 そこそこの人がいて、食べ物もかなりの量が置いてある。

「ようこそいらっしゃいました。もてなしを用意しましたので、どうぞこちらにおいでになってください」

 私が少し躊躇している間にもルイがすっと座る。まあ、何も考えていないわけではなく、警戒しているうえで座ったのだろうけど。私もルイの隣に座る。


 それからいろいろとこの世界の説明を受けることになる。


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