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正解は君のために  作者: 風太生
9/103

発展 1

 夢についての解釈の仕方はたくさんある。

 ある学者によると、夢は自分が体験したことや見聞きしたことを情報として脳が整理している過程で見るものらしい。

 例えば、好きな芸能人と一緒にボーリングをする夢を見たとする。

 それは、ボーリングに行ったという自分の体験とテレビやスマホで見たその芸能人の顔と聞いた声が組み合わさって一つの夢として形成されているらしい。

 つまり、夢は自分の過去から作られるもの、というのがその学者の意見だ。

 では予知夢とは何なのだろう。

 僕が見た夢はどう説明するのだろう。

 自分が覚えていないだけで、駅や町中ですれ違っていて実は一度冬野の声を聴いたことがあるとかそういうことなのだろうか。

 彼女と言葉を交わしたあの夜以来僕は毎日そんなことを考えている。

 他人との会話を聞いているより、実際に話して、自分に向けられた言葉を聞いて確信した。

 やはりあの夢の声の主は冬野で間違いない。

 一度会話をしたことによって、デジャブのように夢の内容が蘇ってきた。

 まるで絵の具を水の中に垂らした時のように、じわじわと、鮮明に。

 そう、彼女は僕に向かってこう言った。


「その名前、私はアキトくんの為だけにある気がするの」


◆◇◆◇


 冬野と会話をした日から一週間が経過した。

 夢を思い出したからなんだというのだろう。

 あの日以来僕と冬野は一言も会話していない。

 あの日は存在しなかったかのようにお互いに別々の時間を過ごしていた。

 実は例の小説は既に読み終えているのだが、気が進まず話しかけられていない。

 というより、勇気がないというほうが正しい。

 まるで会話をした事実が存在しないかのようにいつも通りの彼女の態度がそうさせる。

 いざ行こうとしても直前になると、こちらから話しかけても拒絶あるいは知らんぷりを決め込まれるのではないかという不安に襲われ足が動かない。

 完璧に僕だけが意識してしまっている。

 その事実もどこか納得がいかない。

 別に自分から話しかけなくてもいいじゃないか。

 別にあちらが話す気がないならこっちからわざわざ行く必要もない。

 ほんとに覚えているのだろうか、忘れてしまっているのではないか。

 この思考の無限ループから抜け出せないでいる。

 しかし冬野のことを意識し始めてからわかってきたことがある。

 それは、冬野はかなり遅い時間まで下校しないで学校に残っているということだ。

 僕は学校が終わってから彼女が帰る姿を観たことがない。

 それに気づいてから一度だけ委員会の仕事で日が暮れるまで学校にいることがあったが、特別棟から見た自分の教室にはまだ明かりがついており、冬野一人だけ教室にいるのが見えた。

 これだ。

 僕はこれを利用して彼女に話しかけようと決めた。

 冬野の周りには常にだれかが居て、人知れずコンタクトをとるのは難しいが、学校が終わった後の教室でなら人目を気にせず話しかけることができる。

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