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正解は君のために  作者: 風太生
68/103

幸か不幸のターニングポイント 4

「あの、それ・・・僕の本、ですよね?」

 沈黙を破った彼の言葉は、私の魂を震わせた。

 空人君が私に話しかけている。

 その事実だけで胸がいっぱいいっぱいだった。

「あ、はいっ。そうです。

勝手にごめんなさい」

「いえ。大丈夫ですけど」

 そんな私を他所に、明らかに不審そうな顔をして空人君が言った。

「あの・・・葉山さん、ですよね?葉山さん、この本好きなんですか?」

 関わってしまった以上、嫌われることだけは避けたかった私はとりあえず話題を展開させて不信感を無くそうと試みた。

「えーと、まだ途中で・・・」

「あ、そっか」

 そうだよ、何を言ってるんだ私は。

 読んでるってことは、まだ結末を知る訳ないじゃん。

 一周目の記憶を頼りにしすぎて会話するとボロが出そうになる。

 未来を知っているような発言をして、さらに怪しまれてしまっては元も子もない。

「この本面白いですよ。

私が保証します」

 とりあえず私は読んだことあるということだけ伝わればいいかな。

 そう思い安直に口を開くと、不自然な沈黙が生じた。

 仕方のないことだった。

 そもそも話したこともない人が夜の教室で自分の机の前に立ってる時点で怪しすぎる。

 自分が逆の立場でも同じ反応をすると思う。

 そこからどれだけ取り繕っても怪しさが拭えるはずがなかった。

 結局どれだけ私が空人君のことを思っていても、彼からしたら私は赤の他人でしかないという事実は、私を現実に引き戻すには十分すぎた。

「あ、あの・・・たまたま私も好きな本だったから気になったんです。

気を悪くさせるつもりはなかったんですけど・・・勝手に机から出してごめんなさい。

ほんとにそれだけだから・・・今のは忘れてください」

 こんな言い訳にしか聞こえないような本心を言ったところで、信じてもらえるはずがないよね。

 あーあ、折角運命の悪戯的なやつで話せたのに、終わっちゃったなぁ。

 顔を上げられない私の目はまた滲み始めた。

 でもまあこれで空人君を事故に巻き込む心配もなくなるわけだし、これでいいんだ。

 そう思った時だった。

「いえ、べつに疑ってなんていませんよ。心配しないで」

 そう言った彼の声音は私が聞き慣れたものだった。

「・・・本当に?」

 そう言いながら、空人君の方を恐る恐る見ると、焦ったような顔で口を歪ませて、首を縦にブンブンと降っていた。

 そのクールさのかけらもなく、余裕がない姿は、確かに私が見慣れた、そして、他の人は知らない空人君だった。

 私と話す時、余裕がないのは相変わらずだね。

「・・・ありがとう。

まだちゃんと話したことなかったよね」

「うん。そうだね」

 そうやって急に素っ気なくなるのも、その後素っ気なくしすぎたかなって若干後悔するのも、全部知ってる。

「葉山君、いっつも一人だもんね。

話しかけないでほしいって葉山君のオーラが言ってるよっ」

 少しからかってみた。

「いや、そんなことはないけど。

本を読むのが好きなだけだよ」

 目を逸らして、そういう姿は“ぶっきらぼう”になりきれていなかった。

 演技が下手なのは相変わらずだねぇ。

 そんなんじゃ、すぐ他の女の子に目付けられちゃうよ・・・?

 手に取るようにわかる彼の反応を見れるのは本当に久しぶりだった私は、一瞬我を忘れていたようだった。

 そして、次の瞬間には自分がしようとしていることに気付き、戦慄した。

 もう、これ以上はだめだ。

 自分を見失っちゃう。

「それは伝わってくる。

あ、そーだ。

その本、ほんと面白いから読み終わったら教えてね。

話せてよかった」

 ギリギリで踏みとどまった私は、そのまま教室を飛び出し、走った。

 ただひたすら走った。靴を履き替え、校門を飛び出し、それでもなお走り続けた。

 あの瞬間、気付けば私は空人君の頬に手を伸ばそうとしていた。

 ・・・伸ばしてどうするつもりだったんだろう。

 最低だ。

 そして去り際の一言にも、また会う口実をしっかりと作る用意周到な自分が醜くて仕方なかった。

 涙が止まらない。

 止まらないまま走り続け、やがて肺が破裂寸前になり、道半ばで膝に手をついた。

「はぁはぁ・・っ・・はぁはぁ」

 いっそ破裂してしまえばいいのに。

 いくらそう思っても、肺はどこまでも正常に機能している。

「ごめん。

ごめん、ごめんねぇ・・空人君」

 誰にも聞かれることのない、声にならないような小さな叫びが、街灯に照らされた少し明るい夜空に消えていった。

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