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正解は君のために  作者: 風太生
52/103

起源 5

 まるで言葉を忘れてしまったかのように黙ったまま震える未羅の頭をなでながら、なんとなく今までの人生が頭に浮かぶ。

 しかし今までといっても、出てくるのは未羅と過ごした日々ばかりだった。

 こんな状況でも思い浮かぶのは未羅の無邪気な笑顔なんだよな。

 そう実感すると顔がほころんだ。

 しかし目の前の未羅にはその面影もない。

 頼む、そんな顔しないでくれ。

 君の悲しむ顔なんて見たくないんだ。

 頼むから、控えめでいいから、ずっとずっと幸せだけを感じていてくれ。

 僕はそれだけでいいんだ。

 それしか望んでなかったのに、なのに、どうしてこんなことになってしまったんだろう。

 クリスマスに宣戦布告したのがよっぽど罪深かったんだなきっと。

 ・・・そうに違いない。

 気付いたら行き場のない嘆きが、目からこぼれ落ちていた。

 視界の未羅が滲んでゆく。

 あぁ、だめだ。

 滲んじゃだめだ。

 はっきりとここに居てほしい。

 そのとき、目に映る輪郭が不確かな未羅を見て僕は決心した。

 何があっても未羅だけは死なせちゃだめだ、もし死ぬなら、それは僕じゃなければならない、と。

 徐々に聞こえてくる炎が燃え盛る音と、シアターに充満する煙の量がタイムリミットを知らせていた。

「未羅、こっちみて。ほら、顔上げて」

 優しく促すと、未羅は再び涙を流しながらこっちを見た。

「僕たちは死なない。絶対に大丈夫。

だって、まだクリスマスツリー見てないし!

それに・・・クラスの奴らに今日の事、自慢しないといけないから。

冬休み開けたらみんなに僕たちが付き合ってること言いふらそう!いい?」

 うんうん、と未羅は目一杯涙をため込みながら首を縦に振った。

「もう残された道はここしかないから、走ろう。

僕のコート、襟があるからこれ着て鼻と口塞いで?

あと、僕が手を引くから、目も開けなくて大丈夫!

目開ける頃にはもう外だから。ね?」

 僕が指示を出すと、未羅は言われるがままにコートを着て、鼻と口を覆い、僕の手を握った。

「よし。じゃあ、いくよ。・・せーのっ!」

 その瞬間、未羅後ろから僕の手を少し引っ張った。

 振り向くと、未羅は不安を隠すように無理して微笑みながら、

「・・クリスマスツリー、一緒に見ようね?」と言った。

 そしてその瞬間、尚更決心が固まった僕は一息深呼吸をして、

「もちろん」

といい、未羅の手を引いて、黒煙が充満する通路へと駆け出した。

◆◇◆◇

 シアターの外は想像以上に視界が悪くなっていて、床には他の人々が慌てて逃げたような痕跡がたくさんあった。

 勢いよく飛び出したはいいものの、高い位置に煙が充満しているのと、床にたくさん物が落ちているせいで思うようには進めなかった。

 せめてもの救いは、出火元が通路ではなかったことだ。

「未羅、大丈夫か!?」

 先に進みながら未羅に問いかけると、

「うん、まだ平気だよ!」

と口元を覆ったような籠った返事が返ってきた。

 そのことに安堵し、また足を前に進めるが、映画館の入り口までの距離が異常なまでに長く感じられた。

 気持ち程度に袖で口元を覆ってはいるが、やはり肺への負担は大きいらしい。

 咳が止まらず、それが体に響くたびに視界が霞んだ。

 はやく、広い場所まで出なければ。

 気持ちだけが前に出て、体が追い付かない。

 ここで、走ってしまえば酸素不足に陥ってしまうことは目に見えていた。

 とりあえず、入り口まで向かおう。

 入り口付近はチケット売り場やフード販売があり、かなり開けていたから、多少は息がしやすくなるはずだと僕は考えた。

「大丈夫。もう少しで出られるからね」

 未羅が不安がらないように、声を掛けながらひたすら進み続けると、やっと通路の終りが見えてきた。

 これで広い場所に出られる。

 そこまでいけば救急の人などがいるかもしれないな。

 そんな淡い期待を抱き、何とかなりそうだと思った矢先、通路の終りまでたどり着いた僕らには、更なる残酷な現実と一握りの希望が同時に突き付けられた。

 どうやら、宣戦布告した僕らに対して、サンタクロースはまだまだ怒り心頭らしかった。

 途中まで希望を持たせておいて最後の最後に叩き落すなんて、ほんと良い趣味してると思う。

 とは言え、完全なる絶望ではなく微々たる救済措置を残すことで善人としての化けの皮が剝がれないようにする用意周到さを兼ね備えている、何とも憎たらしい奴だ。

 火事の火元はどうやら映画館のフード販売だったらしく、通路から出入り口までの広場はすっかり火の海と化していた。

 しかし同時に、映画館を抜けたその先のショッピングエリアには、駆け付けた消防士の姿が微かに見えた。

 だが、こんなところから叫んだところで聞こえるはずがない。

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