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正解は君のために  作者: 風太生
27/103

君の心の話 5

◆◇◆◇

 未羅の家は学校から自転車で十分ほどの場所にあるらしい。

 今日は少しでも長く一緒にいたいという未羅の要望で自転車は学校に置いてきた。

 歩くと三十分くらいはかかったが、この三十分は人生で一番短く感じた気がする。

 感覚的には本当に五分程度だった。

「家、ここだから」

 そう言って未羅が指さしたのは、十五階くらいはありそうな比較的大きなマンションだった。

 敷地の周りには見たことがないような植物が植えられている。

 そして、その植物の合間を縫うように下から照らし上げるような暖色の照明が等間隔に置かれて、少し異国を思わせる雰囲気をまとっていた。

「へぇ。おしゃれなマンションだね」

「ふふっ、マンションにおしゃれとかあるの?」

「あるよ。僕の家は一軒家だけど古いからこことは大違いって感じ」

「へぇー、今度行ってみたいかも!空人君の家!」

「ま、まぁそうだね。

いつでも来るといいよ・・・」

「う、うん。

そうさせてもらうね・・・」

 妙な沈黙が生じた。

 お互いまだ離れたくないが、何を話したらいいか分からないと思っているような感じだ。

 少なくとも僕はそうだった。

 どうしよう、あんまり沈黙が長すぎると未羅が「じゃあ帰るね」と言い出しそうだ。

 そこで咄嗟に思いだしたのが、答えなど判り切っているが“ひょっとして”と前に一度思い付いた、しょうもない質問だった。

「なぁ、未羅。

前から聞こうと思っていたことがあるんだけど、

・・・僕と未羅、実は幼馴染だったりする?」

「・・・え?」

 未羅は予想外の質問に呆気にとられているようだった。

 それはそうだよな。

 自分で言っておきながら恥ずかしくて後悔した。

「幼馴染?ん?ちょっと待って。

何でそう思ったの?」

 混乱する頭を必死に整理しているような素振りを見せながら未羅は言った。

「だってそうじゃなきゃ説明がつかないような素振りとか言動がいっぱいあったから。

僕を秋人君って下の名前で呼ぶのもなんか妙に最初から慣れていた気もするし。

もしかしたら僕が忘れているだけでそういうことがあったのかなーって。

・・違う?」

「ふっ・・ふふっ・・・あはははっ!」

 三秒くらいの沈黙の後、未羅は腹を抱えて笑った。

「な、なんで笑うのさ!」

 僕が恥ずかしさのあまり必死に抗議すると、未羅は笑いすぎてこぼれてきた涙を拭きながらこう言った。

「いやー。そう来たかって思っただけ。

・・いや、私たちは幼馴染じゃないよ。正真正銘あの新学期初日が初コンタクトだよ」

「じゃあ、なんで・・・」

 ここまで言いかけて、やめた。

 未羅の表情がそうさせた。

 今まではいろんな表情を見るたびに可愛いと思っていたが、今回はかっこいいと思わせる、そんな表情だった。

 また、新たな表情を知ってしまった。

 それがどうしようもなくうれしいと思ってしまう。

 きっと全てを語る気はないのだろう。

 自分の中で必死にその問題と戦い続け、ボロボロになり、やっとの思いで勝利をつかみ取ったに違いない。

 並大抵の葛藤ではなかったはずだ。

 そんな戦いを経て、自分なりに揺らぐことのない信念とも呼べるような答えを見つけ出した。

 そんな表情だった。

 もう大丈夫だと目が語っていた。

 だとしたら僕にできることはただ一つ。

「そっか・・・よく、頑張ったな」

 この一言をかけてやることだけだった。

 その時未羅はとても穏やかな表情をしていた。

「うん、私頑張ったんだよ。

私決めたよ」

「そっか」

 僕はただ相槌を打った。

「何を決めたか、聞かないの?」

「そんなこと、興味ないよ」

「ふーん・・・優しいね。空人君」

 未羅は肩まで伸びた髪の毛を指でくるくるしながら言った。

 そこから数秒の沈黙の後、「さてっ」と空気を切り替えた未羅は、僕の手を離し、車道を横切り、マンションのセキュリティーゲートの前まで小走りで向かった。

「送ってくれてありがとーっ!!また明日ねーっ!!」

 そこでくるっと僕の方に振り返った未羅は僕らの間を通り過ぎてく車の騒音にかき消されないように、無邪気に手を振り叫んだ。

 その時の未羅の笑顔は、一言で言うなら“咲き誇っていた”。

 まるで一度それを目にしてしまったら、悲劇や悲しみなんてこの世のどこにも存在しないと誰しもが錯覚を起こしてしまうような、この世界は幸せと優しさで溢れていると思い込んでしまうような、言わば絶対無敵のヒロインがアニメやドラマの最終回の最後の最後で見せるそれだった。

 そして、もちろんその笑顔を自分だけに向けられてしまった僕がその例外であるはずもなく、魅了されないわけがなかった。

 恋愛に疎く、どこまでも愚かな僕は悲劇なんて君と僕には無縁の言葉だと、そう信じて疑わなかった。

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