試練の残滓、聖夜を超えて Ⅳ
ギリギリ、本当にギリギリで『思考加速』は解除している。
でも、2分50秒は超えていた。
最早私の意識は風前の灯火。
先程の攻撃で一瞬とは言え、意識が飛んだのがその証拠。
消えかけの意識でなんとか身体を起こす。
ゲームのアバターなのに、異様に重い。
私が出している運動命令が弱いんだ。
これだと一合も保たないや。
加えて、紺碧正近はボロボロだ。
敵の攻撃を受けたであろう部分は大きく刃毀れを起こし、それ以外の部分も罅だらけ。
このまま私同様一合の打ち合いで砕けるだろう。
というか、MPは減っているのに一向に罅が減らない。
どういうことだろう?
いや、一旦それはいい。
私の様子を伺うように、微動だにしない女性に目を向ける。
試練だからなのか、なんなのか隙だらけの私を見るだけの女性の残りHPは3割5分。
さっきより減っているのは、多分あの踏み込みのせい。
風蝕、だね。
「………………一撃、か…………」
『思考加速』中の私がろくに反応出来ない相手に対して出来ることは限られる。
向こうが避けないことを前提として、残りの全てを一撃に込めることだけだ。
これ以上持久戦は出来ない。それどころか戦闘みたいな意識をすり減らすことしてたら後30秒もせずに、飛ぶ。
働かない頭じゃあ冴えた方法なんて浮かぶ訳も無いし、やるしかないんだ。
構えは八相。
蹴り足に体重の大半を込めて。
「――『練魔纏斬』」
最早視覚すら朧気だけど、もういらない。
女性が私に遅れて、長剣を持ち上げた。
それだけ分かればもう十分だ。
距離だけはざっくり分かるのだ。
斬れる。
「――――ッッ!!」
――歩法・撃法混合 風蝕
全力の踏み込み。彼我の距離を一瞬の内に零へ。
――斬法 豪雷
風蝕のエネルギーに振り回される、が根性で豪雷の形へ整える。
乾坤一擲。
その筈だった。
銀閃一筋。
バギン、と何かが砕ける音と共に腕が弾かれる。
でも、重さは変わらない。それどころか少し重い。
両の手も未だ刀を握っている。
ならば殺せる。
「――――――」
――斬法 伐刀
思考も何も捨てて勢いのままに振り切る。
叫んだはずなのに、音が聞こえなかった。
視界は僅かに明晰さを取り戻し、斬撃を追った。
蒼炎はかき消えていた。
だが、その後には青と雷電が奔った。
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もう歩く元気どころか起き上がる気力も無い。
刀も落として、そのまま床へうつ伏せに崩れ落ちる。
リン、と聞き覚えのある鈴が鳴った。
緩慢な動作で音の方に視線を向ける。
「………………マジか」
そこには先程確かに首を断ち切った銀髪の女性の姿があった。
腰にあった剣は無いが、ステータス的に素手で無抵抗の私を殺すくらい訳がない。
万事休す。
女性は自身の胸元で右手を握りしめ、手のひらを私の方へ。
『称号『聖剣士 グリントの加護』を獲得しました』
…………え、っと、どゆこと?
試練で実力を認められたってことでいい、のか………………?
「分霊とは言え、限界を超えぬ内によくぞ私を打倒しました。少女――ラピスよ、貴方に聖光龍様の御意思を伝えます。心して聴きなさい」
あ、あってた。
心して聴けって言われたけど、うつぶせのままなことに言及は無いのね。
じゃあ、まだ起き上がらなくていいか。
正直寄っかかるところがないと座るのすら辛いし。
「悪魔共によるこの塔への侵攻、当初15体いた名持ちと聖光龍様との戦いは未だ続いています。奴らは多数の下級、中級悪魔を引き連れて1階層から攻め込み、聖光龍様の喉元まで迫りました。塔に悪魔共が蔓延っていたのはそのせいですね」
15体かぁ………、多数のプレイヤーでのゾンビ戦法ならイケるかな。
とは言え、一度にその数はかなりえぐい。
街のとこの副隊長さんの話だと割と悪魔の侵攻から経っているのに、まだ戦いが続いているのも不思議な話だ。
エネルギーの補給とかいらないのか。
………………というか、超常の存在感バリバリなのに聖光龍そんなに強くない?
「この塔におわす聖光龍様は分け御霊の類であり、強さで言えば本来の1%にも満たない。試練の維持などにも力を使っていらっしゃるので、出せて0.5%程とされています」
「なんか、すみません………………」
凄い睨んでくる。
いや、まぁ主だの様だの言っている相手を嘗められたのだからしょうがない。
これは私が悪い。
だからって視聴者、圧に負けてて草とかコメントするな。
言い返せないでしょうが。
「本来なら、塔の維持をするには過剰ともいえるお力ですが」
「名持ちの悪魔が徒党を組んで襲ってきたら、圧倒できる程ではないと?」
「…………はい。主曰く塔の維持分以外のエネルギー全てを掛けて、9体までは屠る。だそうです」
15対1で0.5%の力で9までは殺せるのか。
これは強くないとか言ったら虐殺されるわ。
「さて、ここからが本題です」
漸くの本題、多分残りの6体をプレイヤーが殺すってことなんだろうけどね。
「現在塔に挑んでいる異邦人の皆さまに2体ずつに分けて悪魔共を屠っていただきたいのです。先に与えた称号を塔に示せば、聖光龍様が異空間に送るとのことでした。――よろしくお願いいたします」
言いたいことだけ言って、女性――聖剣士 グリントは溶けるように消えた。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。
なんかラピスが屠ったので話には出ませんが、試練の塔の最上階ではプレイヤーの能力の構成によって出現する存在が変わります。
その存在は一律150レベルであり、一定以上の実力を示すと試練はクリアとなります。
戦闘系のプレイヤーはそのまま、自身と似たスタイルの格上との戦闘となりますが、生産系のプレイヤーの場合は用意された設備、素材で作成したものを比較するといった形式で試練を行います。
因みに、グリントさんの本来のレベルは486。
分霊かつ試練の機能の一部であるので、他の試練用の存在共々悪魔と戦えません。




