クルール・グリモワール
私は根源を手に入れたけど、普通なら文句が出るところだ。
一般的に根源は最上級のレアアイテムで、他アイテムとは釣り合うものでは無い。
だが、今回ばかりは別だ。
根源が直に装備作成に使えない点。
そして、他アイテムも破格である点から文句も何も出なかった。
ぶっちゃけると、魔法使いにとっては今回の根源よりもよっぽど有用だと思う。
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《種別:武器・本》クルール・グリモワール レア度:エピック
要求筋力値:30
魔法攻撃:50
INT+10
耐久:268/268
特殊:『彩式法庫』
所有者の魔法属性ごとに性質の変わる、力の書庫。
主の意思に従ってひとりでにページがめくれる。
『想起』の命令に従い、ページ毎に納められた力を解放する。
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単純に性能が異様に高いだけで無く、特殊効果付きの魔法補助武装。
武器種としての本は、長杖よりも魔法攻撃力が低い代わりに、要求筋力値やそもそもの取り回しがしやすい。
そして、これは長杖と同時に装備出来る。
なお、デメリットはSTRとVITの10%減だ。
また、流石に、長杖と本の同時装備は取り回しにくいなんてものでは無いので、大抵のプレイヤーは同時装備なんてしないそうだ。
だが、このクルール・グリモワールはアイテムの説明欄をそのままに受け取ると、勝手にページが捲れるとか。
いや、勝手というよりは思考入力?
兎も角、片手に乗せる程度で扱えそうなのもあって、魔法使いからすれば喉から手が出る程に欲しい代物だろう。
総評、化け物。
『根源が霞んで見える』
『エピック怖くて草』
『このレベルが弱くなる未来がありそうなのが、一番怖い』
『皆んな怖いしか言ってなくて草』
「……いやぁ、これはエグいね」
「な。これ、多分ダンタリオンの本をプレイヤー仕様にしたヤツだろうけど、本家より微妙そうなのが逆に笑えてくる」
そう。
ダンタリオンのドロップ品の扱いだが、本家大元は更にヤバそうなんだよね。
こっからは憶測混じりだけどーー
「多分だけど、ダンタリオンの本はモンスターの根源とかを吸収して、手に入れたモンスターに沿った力を使える感じだと思うんだ」
マーダーブレイド・チーターって名前だと思われる今回のボスモンスターから何かを本が吸収だかなんだかをするのを見た。
色とページの位置的に、チーターの力がダンタリオンが最初にデーモン達に使った金色のバフっぽいやつ。
で、それが不安定。
更に、今回得られた根源は一つ。
だとすると、だ。
「今回は吸収から時間があんまり経って無かったから、根源のドロップがあったんじゃないかな?」
普通に考えて、ダンタリオンからチーターの根源が落ちるのおかしいし。
まぁ、取り敢えず、ここまでにしよう。
ダンタリオンの発言とか含めて考えるべきことは色々あるけど、まずは第七の街だよ。
クルール・グリモワールに夢中なサニーを動かして、ボスエリアを出る。
白んだ視界が色付くと、そこに見えるのは、土を固めてある程度整えた道とサバナ気候のような草原。
前のエリアにいたチーター達、普通こっち側なのでは?
道を辿った先に見える街。
第六の街程巨大では無いが、今までの街の中じゃ大きい方。
そして、街の周りに見える金色の地帯。
……んん? あれってなんだろ?
「なんだろうね、あの金色? 田畑かな?」
田んぼとかだったら、そろそろ10月だし割と丁度良い時期なのでは?
いや、サバナみたいな所で田んぼは無理だな。
普通に畑かな。
『なんか馬車っぽいの見える』
『金の稲穂的な?』
『てか、ずっとサニーがウインドウ凝視してるんだが』
サニー?
ずっとクルール・グリモワールに夢中だよ。
歩きながらゲームして怪我する人と似たような状態。
前方にモンスターが見えたから、背中を叩いて意識を引き戻す。
「前方モンスター一体、四足歩行。まだ捕捉されてない」
「んじゃ、貰っていい? 色々試してみたい」
「了解。危なそうなら割って入るから」
サニーより二歩ほど後ろで立ち止まって、ちょっと横にズレる。
これで、見えやすい。
モンスターはブタの姿をしている。
サニーが多少近づいたからか、こっちをターゲットに向かってくる。
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バーリィピッグ Lv.79
属性:物理・打撃
耐性:物理・打撃 魔法・土
スキル:『HP自動回復』『猪突猛進』
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『猪突猛進』の効果が分からないけど、基本戦法は突進なんだな、とは思う感じの『識別』情報。
お肉料理に使えそう。
……いや、このレベルのブタだと固くなってくるかな? 筋肉的に。
右手に持った長杖を地面に軽く打ち付け、左手に本を乗せる。
パラパラとページが捲れる音が数瞬風に乗る。
「『想起』」
瞬間、八槍の焔がサニーの周りで半円を描く。
一斉掃射された灼熱の槍が草原を焼き、ブタを微塵も残さず消し飛ばした。
『兵器みたいなことになってて草』
『魔法使い俺氏、自信無くす』
『剣士僕氏、ちびりそう』
『MP消費がより一層増えそう』
『これで、INTも増えるんだからイカれてる』
……うん。
『多重魔法』込みでも、その発動速度なのね。
絶対に戦いたく無い。
しかも、これ口で魔法使いながら思考入力ページ捲れるっぽいから、連発するんなら更に隙が無い。
これ、クルール・グリモワールぶっ壊れだわ。
ただ、最後の一線がまだ残っている。
「それ、詠唱魔法使えるの?」
「んにゃ、無理。あれパッシブだし、詠唱してないし」
サニーのスキル『詠唱魔法』は、魔法発動時に個別に決まった詠唱を唱える事で、魔法威力にバフの掛かるパッシブスキルだ。
流石に、クルール・グリモワールでもそれは記録出来ないらしい。
十分エグいけど、ギリッギリでグレー判定なのかもしれない。
お読み頂きありがとうございます。
今後も読んでくださると幸いです。
実は今回で第七の街まで着く予定だったけど、クルール・グリモワールで調子に乗り過ぎた。




