プロローグ
風が幾度と無く耳朶を打つ。
けれども、風の元が身体を打ち据えることは、互いに無い。
私たちはお互いに木刀を以て、相手を打倒せんと剣戟を繰り広げる。
「――ハアッ」
大きく弾かれた得物を手首の返しで引き戻し、目の前の友達の脇腹目掛けて振り抜く。
「甘い」
けれど、彼には届かない。ギリギリのタイミングで身体を引いて、これを躱す。
でも、それは想定済みだ。
木刀を振り切った姿勢のまま、前身。
右肩を押し付けて、衝撃にて彼を吹っ飛ばす。
「――チッ」
思わずといった様子の舌打ち。
何とも嫌そうな顔をしているけど、彼は寸前で私の攻撃を減衰させた。
とんでもなく速い反応。
彼曰く速いのではなく、多いらしいそれはそうは言っても、私からしてもとんでもなく速い。
攻撃はまともに当たらず、当たったとしても殆どノーダメージ。
ああ、本当に――
「楽しいね、悠真!」
獰猛な笑みを浮かべているとは思う。
でも、私は今この瞬間が一番好きだ。
未だ勝てない友達がいて、彼と技をぶつけ合える。
「――ああ。だけど、これで終わりにしようか。瑠璃」
彼も私と同じように口元を歪めて、2人揃って同じ構えを取る。放つ技は全くの同一。
練度は彼が。速度は私が。
互いに勝るものをもち、同時に駆け出した。
これが最後になるとは、お互い知らずに。
その後、彼は全てを失い、私は歩みを失った。