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闇に飛ぶ鳥  作者: トウリン
トビ

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13/60

 僕は臆病者だ。

 それは、自分でもよく判っている。

 だから気配を消して、遠く離れたところから『標的』に狙いを付けて、引き金を絞る。

 銃声。

 吹き出す血と共に倒れる、僕と『同じカタチ』をしたモノ。

 それは僕ではないけれど、ピクリとも動かなくなったその身体を見ると、どうしても、そこに僕自身を重ねてしまう。


 あんなふうに死にたくない。

 嫌だ。

 怖い。


 そんな気持ちで頭の中がはち切れそうになりながら、僕は大事な相棒を丁寧に布で包む。

 舶来ものの小銃に更に改良を重ねたそれで、遥か彼方から獲物を狙う。四半里離れた相手でも、僕は外したことがない。

 僕には殺す相手に近寄ることなんてできやしないから、相手の目鼻も見えない距離から『仕事』を成し遂げさせてくれるこれは、心強い相棒だった。

『標的』に触れるなんて、真っ平だった。

 その目を見てしまったら、絶対に『仕事』なんて無理だ。

 カワセミのように、強がることなんてできない。

 モズのように、楽しむようになるなんて、まず有り得ない。

 二人はいつも平然と『仕事』を果たす。

 けれど、どちらも、やっぱり、弱い証拠なのだと思う。きっと強がったり面白がったりして、怖さをごまかそうとしているだけなのだ。

 本当に強いわけじゃない。


 だから僕は、カラスのようになりたかった。


 高揚することも無く、忌避することも無く、ただ淡々と『仕事』をこなせるカラスのように。

 カラスは、強い。僕のように、悩んだりはしない。何も感じたりはしない。きっと、カラスなら、何があっても己を変えることはしないだろう。

 僕の姿なんて、カラスの視界の隅にも引っかからない。でも、それでもいい。ただ僕が勝手に焦がれているだけなんだ。

『仕事』を終えて帰ってきた時に、彼の姿を見ることさえできれば、いい。


 だけど。


 そんなカラスが、『伏せ籠』から消えてしまった。


 三日ほど姿が見えなくて、どこか遠方での『仕事』を命じられているのかと思っていたのだけれども。

 七日経っても、帰ってこなかった。

 カラスはどうしたのかとモズに訊いてみたら、凄くイヤそうな顔で、「女と逃げた」と言われて。

 僕がいない間に彼が受けた仕事の『獲物』と、行ってしまったのだと。


 そんなバカな、と、思った。

 彼は、何事にも動かない――動かされない人の筈なのに。


 信じられない思いで愕然としていた僕は、八咫やた様に呼ばれて、そして、彼の代わりに『仕事』を完遂するように指令をいただいた。


『標的』は少女だ。

 カラスを連れて行った、少女。


 何故、カラスはその子と行ってしまったのだろう――その子を殺せば、カラスは帰ってくるのだろうか。

 不意に手のひらに痛みを覚え、僕はいつの間にか拳を強く握りこんでいたことに気付いた。

 手を開けば、たなごころに並ぶ、爪の痕。


 ――その日遅く、僕は相棒を手に、『伏せ籠』を出た。


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