序
彼は、己の生業について何か思ったことはない。
だが、獲物が「死にたくない」と足掻く姿を見るのは、好きだった。
別にいたぶることを楽しんでいるわけではない。殺されようとしている時に抵抗することは生あるものの本来『あるべき姿』で、その瞬間が、一番『命』を――『生』を感じるからだ。
生きてるものは、生きる。そういうものだ。そこに『理由』など、必要ない。
もっとも、「殺すな」と乞われても、それが彼の仕事なのだから止めるわけにはいかないが。
とにもかくにも、今から殺されようとしているものには、己の命を守るために精一杯足掻くことを、彼は望んでいた。
が。
(何なんだ、このガキは)
何故、こんな怯えも焦りも欠片もない眼で、真っ直ぐに彼を見つめていられるのだろう。
彼は、少し捻ればポキリと折れてしまうだろう細い喉首を掴んだ手に力を籠める。
しかし、やはり、彼に向けられた琥珀の瞳は穏やかだ。
(納得いかねぇ)
苛立ちとは、違う。
ただひたすら、納得がいかない。気に入らない。
彼は、ギシリと奥歯を食いしばった。
 




