閑話 アルバート世話を焼く
[令嬢、決意する1 ]の直前のアルバート側の話です。短いです。
今日も、サロンで何かに取り憑かれた様に机に向かって、一心不乱にペンを走らせている妹の姿を見つけて、アルバートは深い溜息を吐いていた。
妹のアイリーシャは、真面目で、実直で、そしてとても素直な性格である。
それがあの子の良い所でもあり、彼女の魅力の一つだが、その性格が、どうして恋愛方面だとこうもポンコツに作用するのかと、兄であるアルバートは内心呆れていたのだ。
お前のやるべき事は、そうじゃ無いだろうと。
この妹は、どうやったら本当に今自分がやるべき事に気付くのか。
そんな風に自室で人知れず頭を抱えていたアルバートの元へ、買い物に行かせていた従者のヨリクが帰ってきたのだった。
「アルバート様、ただいま戻りました。」
「ヨリク、ご苦労だったね。して、品物は?」
「はい、こちらでございます。」
そう言って、従者のヨリクはアルバートに頼まれていた物を渡した。
彼が従者に買いに行かせていたのは、いくつかのタイと、ハンカチーフであった。
「うーん……。ハンカチーフはこの前贈っていたからな。ここはやはりタイだな。」
そう言ってアルバートは、いくつかあるタイを一つずつ手に取って確かめ始めた。買ってきて貰ったタイは、どれも上等な品で、肌触りが良く、縫製がしっかりしていた。
「うん。これなら贈り物としても申し分ないだろう。」
それからアルバートは、複数あるタイの中から一つのタイを選んだ。真っ白いタイだ。
「リーシャがモチーフを刺すのに何色を使うかまでは予測できないけれども、まぁ、ここは無難に白だよな。それにこのデザインなら、僕が持っていても不自然ではないし。」
そう言ってアルバートは残りのタイとハンカチーフを片付けさせると、「さてと」と小さく呟いて徐に立ち上がった。
これから、サロンで今日も執筆をしている妹に会いにいくつもりだ。
アルバートは、打算こそあれど兄として妹の幸せを本当に願っていたのだ。
だからこそ、手助けをしてやるつもりだった。
あのどこか抜けている所がある妹なのだ。これくらい分かりやすくアシストしてやらないと、いつまで経っても進展しないだろう。
そう思って、買ってきて貰った新品のタイを隠し持ちながら、サロンに居る妹の元へと向かったのだった。




