令嬢、計画を打ち明ける2
「それで、具体的に何か既に行動はされているのですか?」
マイヨール家でのお茶会を続けながら、3人はアイリーシャの言う計画について話し合っていた。
「いえ……まだ何も行動しておりません……。こうしたいという理想像は先程述べたとおりなのですが、それを実現する為には先ず何をするべきなのか、そういったことはまだ全く手付かずでして……」
理想を語るが実現する方法が分からない、そんな自分が恥ずかしくなり、アイリーシャの語尾は次第に小さくなっていった。
「成程……。それならば、先ずそう言ったことからお手伝いが出来そうですね。」
「と、言いますと?」
アイリーシャは、ミハイルが言わんとしている事が分からずに、怪訝な面持ちで聞いた。
「そうですね、先ずはやらなくてはいけない事を列挙していきましょうか。私が思うに、絵本のストーリーを創作する。これは大前提、この計画の要で絶対にやらなくてはいけない事です。そしてストーリーが出来たら絵本の挿絵を用意する事も必要です。これについては、絵を描いてくれる人を探して依頼するのが良いでしょう。」
ミハイルは更に、出来上がった絵本を印刷製本する手立てを確保する必要がある事、それから出来るならばこれらの計画に他の賛同者、スポンサーを探して出資を募り、安定して絵本の発行が出来る環境を整える事を付け加えた。
「成程。大きく、四つのやるべき事があるのですね。これらを、一つずつ取り組んでいけばよろしいのですね。」
この計画の取っ掛かりさえまだ見えていなかったアイリーシャにとって、ミハイルの言葉はまるで魔法のように思えた。
「そうですね、並行して進められる事はありますが、先ずストーリーの創作。こちらを取り組むべきだと思います。」
ミハイルはあっという間に、計画の完成までにやらなくてはいけない事と、当面の目標を洗い出してくれたのだ。
アイリーシャは、優秀な人はこのように要件の整理を意図も容易く行えるのかと感心していた。
それからミハイルは、絵本のストーリーを創作する為の作業を更に細分化してみせてくれた。
史実を正確に調べる
物語の主軸を決める
物語の細部を決める
そして、人々の関心を惹く魅力的な文章に仕上げる
これら四つの工程を彼は述べていった。
「と、言うことでアイリーシャ様は先ず、史実を正確に確認して、物語の主軸を決める。これを取り組んでいくのが良いと思います。」
絵空事でしかなかった、自身の理想を、実際に実現する為のプランニングをミハイルはあっという間に組み立てて、分かりやすく提示してくれたのだった。
「有難うございますミハイル様!!貴方のお力を借りられて、本当に心強いですわ!!」
自分一人では、何をすればこの計画が実現できるのか、皆目検討もつかず何も行動に移せないでいた。
しかしそれが今、具体的な行動計画が形作られて、計画の実現が一気に現実味を増したのだ。
アイリーシャはとても感激していた。
「ミハイル様にご協力をお願いして本当に良かった。」
アイリーシャは改めてそう呟くと、ミハイルの方をそっと見つめた。
王太子殿下の側近として優秀な方だとは存じていたが、実際彼に手を貸して貰ってその有能さを目の当たりにして、頼もしいと思ったのだ。
「貴女にそう言って頂けると、本望です。」
そう答えるミハイルは、どこか誇らしげだった。
それから彼は、もっと自分を頼ってくださいとも付け加えたのだった。




