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令嬢、慰められる6

「まぁ、素晴らしいですわ!!」

メイフィール家の薔薇園の評判は聞き及んではいたが、しかし中々、実物は想像を遥かに超えていた。


「この薔薇園は、この国一番ではないかと思うくらい我が家の自慢なんですよ。母が薔薇が好きな為、特に力を入れて作らせていますのでね。お気に召してもらえましたか?」

「えぇ!とても素晴らしいですわ!確かに、これなら本当に王国一かも知れませんね。お城の薔薇園よりもこちらの方が何倍も素敵ですわ!」


思わず不敬とも捉えられかねない言葉を発してしまったが、この薔薇園はそれほどまでに美しかった。

薔薇の配置や、魅せ方など庭の造形としての美しさもさることながら、メイフィール家の薔薇は一つ一つの花自体が大変色鮮やかで目を惹きつけるのだ。


この薔薇園をいたく感動してくれているアイリーシャの様子を見て、ミハイルは安堵した。

「お褒めに与り光栄です。この庭を作った庭師にも伝えます。きっと励みになりますよ。」


「あ、でも王室の庭園を下に見るような発言をそのまま伝えるのは不敬になりすよね……?」

先程の口をついて出てしまった、王城の庭園よりも素晴らしいという発言を思い出し、アイリーシャは慌てた。


「そこは、上手く言いますよ。貴女はただ、うちの庭を褒めてくれただけです。」

彼女を安心させるように、穏やかな笑みを浮かべてミハイルは答える。


「有難うございます。私、良く先のことを考えずに思ったことをそのまま発言してしまうんです。兄からも気をつける様にと散々言われてるのにまたやってしまったわ……」

「正直で可愛らしいと思いますけどね。本心を何も言わないよりずっと良いと私は思いますよ。」


話をしながら、こちらへと再び手を引かれアイリーシャとミハイルは薔薇園の中を会話をしながら歩いていた。


「可愛らしいとか、そうゆうものなのでしょうか?」

隣を歩くミハイルは、とても身長が高いので、アイリーシャは彼を見上げながら先程の会話についてたずねた。


「かつて貴女は、王太子殿下のお茶会で、咄嗟にスタイン家の御令嬢を慰める発言をしましたよね。あのような雰囲気で声を上げることは中々出来ない。素晴らしい行動だと思いました。後先考えていたらあの時声をかけられなかったでしょう。」


ミハイルから意外な話が出て来たのでアイリーシャは驚いた。確かに、あの場には王太子殿下の側近としてミハイルも居た訳だからあの騒動を知っていてもおかしくはないのだが、当事者でもないのに、よくある令嬢同士の諍いを良く覚えていたものだなと感心した。流石王太子殿下の側近に選ばれるだけある人は記憶力も優れているのかと。


「まぁ、ミハイル様そのような昔の事を良く覚えていらっしゃいましたわね。」

「印象的な出来事でしたからね。」

そう言うと、横を歩くアイリーシャの方を向いて、ミハイルは目を細めた。


「ですが、結局あの時私は何も出来ず、事態を収めたのはレスティア様でしたわ。」

「そうかもそれませんが、きっかけを作ったのは間違いなく貴女でしたよ。あの場でスタイン公爵家の御令嬢を慰める事が出来た貴女は、聡明で優しい素敵な令嬢だと思いました。」


ミハイルにどストレートに褒められて、アイリーシャは顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなった。

しかしそれと同時に、恥ずかしいとは異なる奇妙な違和感も覚えていた。


(この奇妙な感覚はなんだろう。)


一連のやり取りにアイリーシャはなんだか既視感めいたものを感じたのだが、それが何なのかは分からなかった。


それからもうしばらく歩いて、二人は薔薇園の中にあるガボゼへとやって来た。

そこにはテーブルと椅子が用意されており、促されるままにアイリーシャが着席すると、ミハイルはベルを鳴らしてハウスメイドを呼んだ。

そして彼はやってきたメイドにアフタヌーンティーの準備をするように指示を出したのだった。


すると、予め準備が整えてあったであろう事からあっという間にシュテルンベルグで一番美しい薔薇園でアフタヌーンティーをいただくという夢のようなシチュエーションが出来上がったのだ。


こうして、二人のお茶会は始まった。


「ミハイル様、改めましてこの間のお礼を申し上げます。私をあの場から連れ出して下さり本当に有難うございました。」

夢のようなシチュエーションのお茶会開始早々、アイリーシャは本日の訪問の本題を切り出した。


早くお渡ししておかないと、落ち着かないのだ。


「あの日お借りしたまま私がずっと持ってしまっていたハンカチーフと、それから何かお礼をと思い、新品のハンカチーフも用意しましたのでどうか受け取ってください。」


そう言って、アイリーシャは二枚のハンカチーフをミハイルに差し出した。

ミハイルは、彼女から贈られたハンカチーフを手に取ると、そこに刺繍が施されている事に気づき目を見張ったのだった。


「この刺繍は貴女が刺したのですか?!」

「はい。私が刺しました。ミハイル様には本当に感謝しているのですが、この気持ちはただ品物を送るだけでは伝え足りないと思い、最大限に感謝の気持ちを込めて刺しました。」


「成程、感謝の気持ち、ですか……」

アイリーシャのその返答を聞いて、何故だかミハイルはガッカリしているようにも見えた。もしかして、自分の刺した刺繍が気に入らなかったのだろうかとアイリーシャは不安になった。


「自分では上手くできたと思ったのですが、お気に召しませんでしたか……?」

「あ、いえ、素晴らしい出来ですよ。たとえ感謝の念でも貴女が私の事を思って刺してくれたのならば、嬉しいです。大変気に入りました、有難うございます。」

ニッコリと微笑みながら、ミハイルはアイリーシャにお礼を述べた。


少し奇妙な言い回しに思えたが、ミハイルからハンカチーフが気に入ったと言ってもらえたので、アイリーシャはやっと、お礼をする事が出来たと安堵したのだった。

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