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2)長生きするのも悪くはない

  レネの何かに驚いたらしい。少女は鉄仮面を盾にするかのように隠れてしまった。


「ずいぶんと大げさだな」

王太子様のおっしゃるとおりではあるが、最近の貴族の流行は、レネの工房にとって、不本意なものばかりだったのだ。王太子宮に納品できる品は一つでも多いほうがいい。今後の商売の宣伝になる。


「私共は細工を得意としております。なかなか、思うようなご注文を頂けないことも多くございまして、今日はうれしい日でございます。小さいお嬢様であられますが、なかなかにお目が高い方のようで、おほめ頂き光栄です」

子供というのは素直だ。その素直さ故に、時に残酷だ。そんな年頃の少女が、美しいといってくれたことが、レネはうれしかった。


「お目がといっても、君がそんなに見る機会はあったか?」

「グレース様のものを見せていただく機会が多いですから。もしかして、グレース様がもっておられた二羽の小鳥の透かし彫りで目と羽に宝石がついているのは、あなたのお仲間が作ったものですか」

思いがけない言葉だった。


「恐れ入ります、もし、よろしければそれを見せていただくことは、恐れながら、ぜひ拝見させていただきたく」

王太子様の合図に、鉄仮面が部屋の外の誰かに声をかけた。しばらくして戻ってきた男が見せたそれにレネは涙した。

「これは、私の息子が作ったものです」

「まぁ、それはグレース様が、ご結婚のお祝いにご親族からいただいて、お気に入りで大切にしておられるものよ。息子さんによろしく」

「息子は去年死にました」

「あら、それは、申し訳ないことを」

「いいえ、思いがけないところで、息子の作ったものに会えました。大切にしていただいていると聞き、うれしゅうございます」


 差し出されたハンカチを受け取り、涙を拭き、それを差し出したのが鉄仮面と気づいて、レネは慌てた。驚きすぎて涙も止まってしまった。


「では、あなたの一番を選ばせてもらうことにするわ」

少女は微笑み、王太子様に礼を言った。鉄仮面が少女の服にブローチを付けてやる。

「対の首飾りも受け取れ」

「でも二つもなんてそんな」

「私たち夫婦からの祝いと、陛下からのお祝いだ。お前たちの婚約を随分喜んでおられたから、いい機会だ」

「お祝いだから、あとから陛下にもお礼を申し上げたらいいですよ」


 鉄仮面の指がそっと少女の頬をなでていた。この国は先々代の頭領からの顧客だ。王太子もその近習も子供のころから知っている。背が高く眼光鋭く無表情な王太子の腹心は、常に表情をかえないことから、鉄仮面と呼ばれるようになった。その鉄仮面が少女に微笑んでいる。笑顔など初めて見た。表情らしい表情すら見たことが無かったはずだ。たしかに婚約の祝いと言っていた。少女の手には指輪がないが、首から下げた鎖の先には、見覚えのある指輪があった。当然のように少女は鉄仮面に手を引かれている。


「あなたが次の会議に身に着けて言って、お礼を申し上げたら、陛下も喜ばれるでしょう」

鉄仮面が婚約など、レネは目の前で見ていても信じられなかった。腹心の血を残したいと王太子様が思われるのは当然だ。眼光の鋭さを思えば似合いだが、この小さな少女が、この鉄仮面と婚約したというのか。


 レネは、吟遊詩人の唄を思い出した。王太子宮に神託をうけた少女が現れ、その少女の言葉を男が疫病の町につたえ、町は疫病から救われ、二人は結ばれる。鉄仮面の名前は吟遊詩人の謡う男と同じロバートだ。吟遊詩人が謡う少女と男はこの二人なのか。

 

 代金をうけとり、レネは一行と合流した。レネと職人たちが自信を持っていた細工に凝ったもの二つともが選ばれたときいて職人たちは喜んだ。祝いの品ということで、代金を少し上乗せして払ってもらったことも、要因だ。


「それにしても疲れた」

レネは盃を傾けた。職人の棟梁として、品物を売っただけなのだが、緊張したり、息子の遺作に出会ったり、思いがけない光景を見たりと、本当に疲れた。あの少女が、鉄仮面と婚約しているならば、次に来るときも、王太子宮にいるに決まっている。あのブローチに合わせた品を用意しておけば、売れそうだ。いずれ結婚するならそのときの祝いの品も、きっと細工物が喜ばれるだろう。鉄仮面は王太子の腹心である以上、それなりの品でもきっと、王太子宮は買うだろう。結婚祝いを今から考えておこう。それに、目の前で創ったものを美しいと言ってもらえたことはうれしかった。



幕間のお話をお楽しみいただけましたでしょうか。

ロバート視点だと、「宝飾品を選んでいるローズは可愛らしかった」の一文で、この幕間のすべてが終わってしまいます。


訪れてくださった方、ブックマーク、評価くださった方々本当にありがとうございます。

引き続き本編も、第三部第八章に続いております。お楽しみいただけましたら幸いです。

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