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1)男というのは不甲斐ないものだ

宝石職人の頭領レネの視点です

「どうも、女性のものはわからないので」

「お前が身につけてほしいものを選べばいいだろう」

「そうおっしゃられましても」

 男二人、どう考えても決まりそうにない会話に頭領レネは心の中でため息をついた。こういう光景は珍しくない。


 王太子宮で、若いお嬢様というより十三歳前後の子供への贈り物などという注文は初めてだった。そもそもそんなにお若いお嬢様など、王太子宮にはいないはずなのだ。誰かに送るにしても、相手の推定もできない。王太子の愛人としては幼すぎる。王太子や王太子妃の親族に、そんな年齢の子供はいないはずだった。頭領として、注文に応じる品が作れているか、不安だった。緊張していた。


 レネの緊張感も不安感も、この男たちの不甲斐なさの前に吹き飛んでしまった。

「恐れ入りますが、お若いお嬢様に送られるとお伺いしております。お若いお嬢様には好みがはっきりしておられる方もおられます。ご本人に選んでいただいてはいかがでしょうか」


「贈り物を本人に選ばせるのか?」

王太子様がおっしゃった。選べない男二人が何を言うかと言いたいが、相手は王族である。

「そういう方も多くおられますよ。いろいろ選んでおられるお嬢様も可愛らしいものです」

男二人に任せていては、今日の仕事が終わらない。レネは渾身の愛想笑いを浮かべた。


 やがてつれてこられた少女にレネは深々と頭を下げ、王太子様の関係者に、こんな子供はいたかと必死に思い出していた。

「アレキサンダー様とグレース様が、婚約のお祝いをあなたにくださるそうです。職人たちがいろいろ作ってきてくれたのですが、私にはどうも選びきれなくて。あなたはどれがいいですか」

 王太子様の腹心、鉄仮面という二つ名で呼ばれる背の高い男が、婚約と言った。王太子様の従者の中で、一番恐ろしい鉄仮面に手を引かれた少女を、レネはまじまじと見てしまった。


 鉄仮面の宝玉よりも美しい瞳と張り合いそうな、意志の強そうな鋭い明るい琥珀色の瞳に見返され、思わずたじろいだ。

「あなたは?」

「レネと申します。宝石職人の頭領を務めております」

「あなたも作る人ですか」

「いいえ。私は、年を取りました。今は、職人たちに仕事を振り分けるのを主な生業にしています。ご注文いただいた品を作るのに最もふさわしい職人に仕事を任せたり、品の出来を確かめたり、職人同士が同じものを作ってしまわないようにしたり、材料をまとめて買って職人たちに必要分を配ったりをしております」

レネは、そんなことを聞かれたのは、初めてだった。


「そう。確かにあなたのような仕事の人がいたほうが、仕事がまとまるのでしょうね」

少女はそういうと、箱の中の品を眺め始めた。


 鉄仮面の瞳は、榛色と緑色を混ぜた美しい神秘的な色合いをしている。光によって色を変える美しい瞳だ。そのまま宝石にしてしまいたいくらいだ。男にはもったいない。女に生まれていたら、さぞかし神秘的な美貌を誇る女になっただろう。


 少女の瞳の色は明るい琥珀色だった。レネは、王宮に、エメラルドとイエローダイヤモンドの婚約指輪を納品したことを思い出した。

「全部、とてもきれい。でも、私がいただくにはもったいないです」

レネは、再度、その少女を凝視してしまった。

「贈り物だ。祝いたいとおもっているわけだから、その気持ちも込めて受け取ってくれると嬉しいが、まぁ、君がいいそうなことだ」

王太子様が苦笑しておられた。


「好きなものを選んだらいい。君はよくやってくれているし、その褒美もある。受け取ってくれた方が、私もグレースもうれしいよ」

王太子様の言葉に、少女は、もう一度、箱の中を見た。

「きれいですけど、今ちょうどいい大きさのものを選んでも、使えなくなってしまうかもしれませんし」

腕輪の一つを少女は手に取っていた。光に透かして飾りを見ている。


「ご心配には及びません。大きさを変える加工もさせていただいております」

「それなら安心ですね」

レネの言葉に答えつつ、少女は一つ一つ手に取って眺めていた。検品されているようで、レネは落ち着かない。


「どうした?」

王太子様が、レネを見ておられた。

「いえ、このように一つ一つゆっくり眺めるお嬢様は初めてでして、落ち着きません」


 きちんと検品した。自信はある。ただ、いつもとあまりに勝手が違う。貴族の娘というのは、図々しくあれもこれもとねだるものだ。一通りみた少女が、ブローチの一つを手に取っていた。金で模った草花に、小さな宝石を並べたものだ。派手さはない。可憐な品だ。レネが一番気に入っている品でもあった。意匠を形とするのに職人の技の結集が必要だった。


「これは綺麗ね」

「さすがお目が高い。これは私共の中で一番腕が立つ職人が作ったものでございます。このような小物の細工を得意としておりまして、華美を好まれない、お若いお嬢様に贈られると聞いて、どのような形にするか、職人と私で相談して作りました。一番の自信作にございます」


 レネは、心の中で快哉を叫んだ。頭領である自分も、職人達も一番と考えていたものを少女が手に取っていた。一つ一つ眺めるだけあって、この少女は目ききかもしれない。少女が笑った。先程の鋭い視線を放った少女とは思えないくらい可愛らしい笑顔だった。


 緩やかに波打つ艷やかに光る髪をもつ可愛らしい雰囲気の少女に、可憐なブローチはよく似合うだろう。

「まぁ、驚きました。綺麗だと思ったのですけれど。あなた方の一番だったのですか。ついでに二番も聞いていいかしら」

同じ職人が作った、もう一つの細工物をレネは示した。


「それをお選びいただいたのであれば、ぜひ、こちらをお勧めいたします」

ほぼ同じ図案をもとにつくった首飾りがあった。草花が絡みつき首を飾る意匠だ。小柄な少女の細い首には、まだ少し大きいが、いずれ似合うようになるだろう。


「あなたたちは細工物が得意なのですね。先ほど王太子妃様にも見せていただきました。ずいぶん細かい仕事で、美しいと思っていました」

「おほめにあずかり光栄です」


 率直な言葉に、レネは深々とお辞儀をした。仲間の職人たちの加工技術には誇りを持っていた。 


 細かい細工物は、華美を好む貴族には気にいられないことが多い。大ぶりな材料ばかりをたくさん使った職人の腕など関係ないようなもの、大きな宝石の添え物としての貴金属の加工などが最近の流行なのだ。不本意な依頼も少なくなかった。


11時に2)投稿です

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