主人公は逃げられなかった
一縷の願いを込めて思う。この土壇場でシナリオから外れてくれと。しかし、そんな願いは叶う事はなく目の前で行われている断罪劇はシナリオに沿って進んでしまう。
「アーベ王国第一王子の名において宣言する。彼の貴族籍を剥奪し、国外追放とする」
「謹んでお受け致します。申し訳ありませんでした」
第一王子に断罪され、騎士に両腕を拘束されて連れ出される悪役。それを見送るパーティー参加者の目は冷たく、同情したり助けようと行動する者は誰もいない。
ここは、いわゆる乙女ゲームの世界。仕事で徹夜が続いていた私は、気がつくと主人公となっていた。
学園の入学に合わせて覚醒したらしい私は、ゲームのシナリオから外れようと足掻いた。しかし、悪役はシナリオの通りに私を苛め、避けようとした攻略対象からは逃れられなかった。
そして今、卒業パーティーの席において断罪は為され、私は攻略対象の貴公子達に囲まれている。私も国外追放となりこの場から離れたい。しかし、そうは問屋が卸さなかった。
「あなたを虐げていた奴は追放しました。これで障害は何もありません」
私の手を取り、甲にキスを落とす第一王子。あまりの気持ち悪さに鳥肌が立つのを抑えられない。
「平民として育てられていたといっても、それは過去の話。今のあなたは子爵家の者なのです。堂々としていて下さい」
私の腰に手を伸ばし、素早く引き寄せて耳元で囁く宰相子息。息が耳にかかって怖気か走ります。
「お前に何かあれば、俺が体を張って守る。だから安心して俺に身を任せれば良いのだ」
腕を強引に引っ張って宰相子息から私の身を剥がし、力任せに抱き締める騎士団長子息。固い筋肉に押し付けられ、痛みで離すように言えません。
「脳筋に何が出来るというのですか。今も苦しめているではないですか」
重力魔法を操り騎士団長子息から私を奪ったのは、魔法師団団長子息です。頭を撫でるのは止めてほしいですが、彼から解放してくれた事には感謝します。
「俺達は全員であなたを守り愛します。その事には誰にも文句は言わせません」
第一王子の宣言に、パーティー出席者から盛大な拍手が贈られました。これでハーレムエンドへの全ての行程が終了となります。
「さあ、シンジュク子爵家子息ニチョウメよ。今宵は夜通し愛し合いましょうぞ」
「お願いだから離して下さい、私は、私はノーマルなんだぁー!」
こうして、腐女子向け乙女ゲームに主人公として転生した私は攻略対象に日替わりで愛される生活に突入してしまいました。
神様、仏様、物語のクリエイター様、どうか哀れな私を助けて下さい!
ダメ(by作者)