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新しい兄と家族団欒

 アルテミスが応接間に入って最初に目にしたのは,ソファの上から除く鮮やかなブロンドの髪だった。

(きれいな髪ね。光に当たって,すごくきらきらと輝いているわ。)と,その美しい髪に対して彼女は少し感動した。


 一人のすらりとした長髪の少年が,樫製の広い長方形のテーブルを挟み出入り口に背を向けた形で,父と向き合った状態でソファに腰かけていた。幼女の来訪に気づいた少年がすっと立ち上がり,こちらを振り返る。父が,部屋に入る娘に気が付いて声をかけた。


「アルテ,ああ,私の可愛い子。ずっと書斎に籠っていると,メアリから聞いたよ。本当に心配していたんだからね。さあ,こちらにおいで。ここに座るといい。」

 そう言って,父が両手で自分の膝の上をぽんぽんと叩いた。アルテはすたすたと歩み寄ると,彼の長い足の上を横向きになって腰かけた。背中から,父が愛おし気に小さな体を抱きしめる。

 幼女はそうして,正面にいる金髪少年に向き合った。


「彼はね,私の遠い親戚の子なんだ。とても聡明な子でね,きっとアルテとも仲良くできる。実は,今日からこの家に養子として来てもらうことになったんだ。アルテに新しいお兄さんができたんだよ。ね,嬉しいね,アルテ。」

 そう,父のギルバートはにこやかに微笑んだ。彼は思った。

(これで,娘が少しでも外に出てくれることになれば,良いのだが。事故の事情はすでに説明しているし,どうもこの新しく家族になる少年は,とても話の分かってくれる子のようだ。きっと,心配はない。)


「さあ,アルテ。彼に,ご挨拶するんだ。」

 父に言われた幼女は,ぴょん,と彼の形の良い膝から飛び降りると,小さな両手で品よくドレスの両裾を持ち上げた。

「こんにちは,初めまして。私は,アルテミス=アーデロイドと申しますわ。どうぞ,お兄さま,私のことはアルテと及び下さいませ。」

 彼女は,そう初対面の家族に膝を追って,恭しくお辞儀しながら立派に挨拶した。

(これくらいの言葉は,きっと五歳児でも使うでしょう。大丈夫。五歳のくせにババ臭いとかきっと思われないから。きっと大丈夫だから。)

 立ち上がったままの金髪少年がふわりと微笑み,爽やかにかつスマートにお辞儀した。

(すごい,これが本物の貴族か。いや,確かに私も貴族だけれども。人以外を除いた王国民人口約百三十万人,内上位0.7パーセントの超エリートな分類だけれども。)


「こちらこそ,初めまして。可愛い妹さん。僕の名前は,レオナルド=カレン=オリフィスと申します。王国南部の地方で今まで過ごしていたんだけれども,去年僕の父が亡くなってしまってね。君のお優しいお父様が,僕を養子に迎えてくれたんだ。

そうだ,この辺りのことは良く分からないことが多いから,よければ一緒にお出かけして色々と教えてくれないかな?」

(うわあ。こんなに小さい子が立派に挨拶している。まあ,今の私の方が十分幼いのだけれども。)

と幼女は,明らかに自分よりも年上である少年に対し,感心せずにはいられなかった。

(最近の子は,随分と大人びているようだわ。)


 そうして,互いにつつがなく挨拶を済ませた。その後すぐ,父は用事があるということで先に部屋から居なくなってしまった。

(父がどんな仕事をしているか知らないけれども,書斎に籠っている娘に中々会いに行けないくらいですもの。相当に忙しい仕事内容なのか,業務が繁忙期なのでしょうね。)

 普段会えない父がすぐに居なくなり,娘は少し心細くなった。何とはなしに,親の温もりが残る場所にちょこん,と座り込む。その可愛らしい動きに合わせて,目の前の少年もソファに行儀よく座り込んだ。彼女は、新しく兄になった人をまじまじと見つめた。

 彼は,少年と大人の中間のような容姿をしていた。さらさらロングの金髪は首の後ろで青いリボンで結わえられ,均整の取れた背中にゆったりと美しく流れている。顔の容貌は,二重だが切れ長のアーモンドに似た,涼し気かつ美しい目元が印象的だ。そして,彼女と同じように非常にまつ毛が長かった。

(きっとこの子も,あの凶器が目の中に入らないように苦労しているのだろう。可哀そうに。)

 アルテは,この少年の美貌に対して全く動じていなかったのである。

 兄の顔はまだ少年のようなあどけなさを残しているが,その長身から伸びる手足はすらりとしていながらも,どこか鍛えている様子を伺わせた。身長は、すでに165㎝を超えているようであった。

(私が今調度105㎝だから,もし近くで顔を見るためには,ずっと真上を向いていなければいけないわね。何だか首が,痛くなりそうね。)


 無言でじろじろと見つめる幼女に対し,緊張しているのだろうと察した賢い兄が幼子でも答えられそうな簡単な質問を問うた。

「アルテは,今年いくつになるのかな?僕は、先の五月に十三歳になったばかりだよ。」

(つまり私とは,八歳年が離れていることになる。なるほど。年の離れたお兄ちゃんか。)

「五歳になります。でも、次の九月で六歳になるわ。」

(この子,僕が思ったより,すごくしっかり話す子のようだ。)

 言葉の最初のキャッチボールを互いに一度ずつ返しただけで,双方全く会話が続かなくなってしまった。互いに黙り込んでしまう。沈黙が非常に気まずい状態であった。それでも,新しくできた兄は,何か色々と妹に対して話題を出したそうであった。

 しかし,書斎に戻ってもう少し調べ物をしたかった妹は,

「ごめんなさい。私も,大切な用事があって,すぐに書斎に戻らなきゃいけないの。レオナルドお兄さま,お願いですわ。また今度、一緒にお出かけしてくださいな。」

 と新しくできた兄に対し,できるだけ可愛らしく見えるよう伝えると,ソファからぴょん,と降りて一度膝を軽く折ってお辞儀しそそくさと部屋から出てしまった。

 放置された兄は、どこか引き攣った様子だった。妹は,その様子を申し訳なさそうに横目で見つつ,書斎に戻った。

(ごめんなさいね,お兄ちゃん。でも,仕方ないの。今の私は,とても時間が惜しいのだから。)


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