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祖父の登場と兄の想い

 レオナルドの部屋にある暖炉から、パチパチと火が爆ぜている。火付けをしたのは、アルテである。細かい火の動作にも、4カ月で慣れることができた。2月の冷え込みは厳しく、常に火を灯していないと凍えてしまいそうだ。

「今日は、11時にアルテミス様の祖父である、ダンヴェル様がお越しになるということです。」

 と、メアリが朝食後の紅茶をアルテミスの前にカチャリと置きながらそう言った。


「おじい様がいらっしゃるの?」と紅茶を啜りながらメアリに尋ねた。

「はい。アルテミス様の母方のおじい様ですよ。アルテミス様は、この度久しぶりに会うことになりそうですね。」

「おじい様は、どんな方なの?」

「我がファルキア王国の陸軍将軍でいらっしゃいます。普段はアルドの地との境界線付近で、私たちの生活を守って下さっている、とても偉大な方なのですよ。」


 時間は過ぎ、祖父がやって来る時間となった。祖父は、母そっくりの赤毛をした60代程のがっしりとした老人に見えた。服には、いくつものバッジがついている。

「おおアルテミス、久しぶりだの。もっと顔をよく見せておくれ。」と、ダンヴェルは幼女をひょいと片腕で抱き上げると、にっこり微笑んだ。

「魔法に目覚めた話は聞いておる。今日は、そのお祝いに来たんだよ。忙しくて、中々来れなんだ。元気そうだ。」

「お久しぶりです、おじい様。来てくださって、ありがとうございます。」

と、するりと祖父の腕から降りたアルテは、ペコリと頭を下げた。祖父が破顔する。

「ところで、魔法はどのくらい成長できたかな?」と孫に聞いてみる。

「はい!今ご覧に入れますので、一度外に出させていただけませんか?」


 (この位の威力で良いかしら。)アルテは、右手を高く上げぐるりと宙に輪を描いた。即座に空中に2メートル大の火の玉が5個出てきた。それを、空中高く真上に飛ばす。火の玉はどこまでも高く飛んでいった。そこに、鳥が飛んできた。アルテミスは落ち着いた様子で、飛ばした火の玉を鳥にぶつからぬように除けさせた。そのまま火の玉は、高く昇り、花火のようにバアンッ!と爆発した。


「おじい様、火の扱いには大分慣れることができました。契約精霊とも相性が良く、火を調整することにもだんだんと得意になることができました。」


 それを、祖父が目を丸くして見ていた。そのまま、ゆっくりと大きく破顔した。


「その威力、調整力、この幼さでこれだけできるとは、流石リリアナの娘だ。素晴らしい。」

「アルテ、私はお父さんのいる書斎に行っているからね、魔法を見せてくれてありがとう。将来が楽しみになるのう。」


「レオン、アルテのお爺さんがね、アルテを軍に引き入れたがっているわよ。」

 と、カレンがひそひそとレオナルドに報告した。書斎での話は、風の精霊に筒抜けであった。


「あの子は、是非とも我がファルキア王国の軍に入り、その類稀なる火の力を存分に発揮してもらいたい。」

 と、ダンヴェルがギルバートに伝えた。

「あの子はまだ幼いですし、それに将来はあの子が決めることです。私には、何ともいいようができません。」

 と、アルテの父は言った。それを聞き、祖父はあり得ないといった表情で目を見開いた。


「せっかくリリアナと同じ火の力を賜っている。リリアナは結婚するまで騎士として前線で活躍しておった、私の自慢の娘だったのだぞ。先ほど、アルテミスの魔法の様子を見ておったが、清々しいまでの力の強さ。あれで、8歳とは思えん。おまけに、幻の獣人族を従えているそうじゃないか。アルドの民は懲りずに魔石の採掘場を闇の聖地だと抜かし、我々ファルキアの民から奪おうとしている。奴らのせいで、リリアナは死んだも同然だ。アルドの民の呪いによる馬具の故障。あれがなければあの悲劇は起きなかった。」


(嘘でしょう。アルドの民のせいで、お母さまは死ななければならなかったの?)


 アルテミスは、書斎に入ろうとした瞬間、祖父の荒げた声を聴いてしまった。

(そんな。じゃあ、お母さまはアルドの民さえいなければ死なずに済んだ。知らなかった。いいえ、誰も教えてくれなかったんだわ。私が子供だから。私は、子供じゃない。姿は子供だけれども。)そのまま、書斎の入り口で固まったまま祖父と父の言い争いを聞いていた。


「せめて、娘が16歳になるまで待たれてみてはいかがでしょうか。私は、娘には普通にどこか良家に嫁ぎ、幸せになってもらいたいのです。」

「それでは、せっかくの力が無駄になってしまう!アルテミスには、今から魔法の実践的な使用方法を教えるべきだ。」

「ですが一方的に押し付けるだけでは、娘は幸せにはなれない。アルテには、自分の進みたい道に進んで欲しいのです。」

 二人の話し合いは、長く続いた。水属性の力は半神級の父親であったが、常にアルテの居場所が分かる訳ではない。故に、二人の会話はアルテミスに残酷なほど筒抜けであった。


(許せない。アルドの民が許せない。)

 主人の怒りがベルにも伝わり、影からひょこっと顔を出した。そして、悲し気に主を見つめた。

(僕がもっと強ければ。誰にも引けを取らない位の強さがあれば。)


「僕は、アルテに戦いの場に身を置いて欲しくない。だが、妹はあの将軍家の血をひいている。アルドの民から領土を守るための役目に就く可能性もあることは、実は予想していた。僕は、強くなろう。軍で使用されている機関銃と僕の風魔法を取り入れた新しい戦い方は、きっとアルドの民にとって脅威になるはずだ。そのために、これだけ魔法の技術を高めてきたのだから。」


 と、レオナルドは標高1万メートルに浮かび、点にしか見えないアーデロイドの領地を眺めながら、この地を守るためになお一層勉学に励むことを誓ったのだった。アルテミスの、誓いを知ることはなかった。

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