魔法の特訓と精霊
イルヴァタールでの地のこと。アルテミスは精霊達と共に、魔法の練習をしていた。
「火を扱うものなら、何でもできるのよね。」とアルテは一人考え込んでいた。
兄から、魔法の基本的な知識はざっくりと教わっていた。
「魔法はね、イメージ力がものを言うんだよ。そして、自分が何をどこまでできるか試すことも重要だ。とにかく、経験してみないと何も言えないんだよ。」
「今のところ、私ができることは、たき火が起こせるくらいなのよね。後、火の玉をいくつも浮上させて、狙った場所に当てることくらいかしら。どうせなら、兄さまと同じ風かお父様の水の属性の方が使い勝手良さそうなのよねえ。」
両掌を上に向けて、ライターを付けるイメージを持つ。ごうっという音と共に、アルテミスの空中に巨大な火の玉が出現した。それを、目の前にある木に当ててみる。当てる寸前に、火を水で消すイメージを沸かせ、両掌をぎゅっと握る。巨大な火の玉は、木に当たる直前に焼失した。
「妖精達の住処を余り荒らしてもいけないし、かといって元の世界でボヤ騒ぎを起こす訳にもいかないし、どうしようかしらねえ。」
アルテは、最初イルヴァタールで練習を始めた頃の、周りの妖精達の慌てぶりを思い出していた。最初に行った訓練は、指先から小さな火を灯す訓練だった。それが、いきなり1メートルを超えるような火の塊が出現してしまったのである。集まり過ぎた火の元素は、すかさずルビーが吸収してくれた。アルテは、辺り一面焼け野原に出来る程の力を持っていたのである。
「私は、どうもやりすぎな所があるのよね。」と、アルテが考え込むと、ふよふよと浮いていたルビーが、「大丈夫だよ~。何かあったら僕が食べてあげるから!」と胸を張った。
「火でできることって、何があるのかしら。」
(燃やすことしかないじゃない。)
う~ん、とアルテは考え込んでいた。
その晩、アルテは兄に火の属性に関する書物を借りて読んでいた。
「アルテは勉強熱心だね。何か僕に聞きたい事があれば、何でも言うんだよ?」とレオナルドに言われると、アルテは、
「兄さま。火を使った魔法で、役に立つことはあるかしら。私、ただ周りを燃やすだけの力なんて、欲しくないのよ。」と唸りながら答えた。
「そうだね。火属性は、攻撃に特化した属性ともいえるから、使い勝手が難しい部分もあると思う。でも、火属性がいるから、ファルキア王国とアルドの地の境目を守れているといっても過言ではないんだよ。アルテの属性は、大切な物を守れるかけがえのない属性なんだから。僕は、アルテの属性を羨ましく思うよ?」
「褒めてくれてありがとう、兄様。私、目覚めた時のことをどうしても思い出してしまって。だから、火加減がうまく調整できるようになりたいの。」
「火加減…。そうだね。アルテは小さな火を熾すことが苦手の様だ。じゃあ、この本を読んでみたら良いんじゃないかな?」
そう言ってレオナルドは『風魔法の微調整に関する論考』を妹に手渡した。それを読みながら、アルテは思った。
(私の火を扱う魔法を有効活用できる場所があれば良いのに。)
この、アルテミスの能力は、後に戦いの場に用いられることになろうとは、その時の彼女には思いもしなかった。