ベルと成長の誓い
アルテミス一行が無事アルドの地から戻ってくると、入り口に怒れる兄が立っていた。大分取り乱しているらしく、腕を組み人差し指を苛立ち気にこつこつと動かしている。
「アルテミス?どうしていつもとは違う場所に行ってしまったのかな?僕は言ったよね。イルヴァタールなら行っても良いと。」
だがしまったとばかりに、兄が自分の髪をくしゃくしゃとした。どうも自分の甘さに苛立っているようだ。
「いや、すまない。僕の説明不足だったな。カレン、アルテを引き留めてくれてありがとう。アルテはお転婆なところがあるからな。それに、ここの森の特性についても伝えていなかったね。」
「お兄さま。私、立って歩く羊を見ました!」
「出会ったのが羊でよかった。これが猫や獅子だったら、襲われていたかもしれないからね。」
「お兄さま、私が今行った場所が、アルドの地ですか?」
「そうだよアルテ。僕がきちんと言わなかったからいけないんだけども、この原生林には、イルヴァタールに向うことができる”揺らぎの間”の他にも、アルドの地へ行けてしまう間も存在する。この森はね、遠くイルヴァタールの地に生える木々の苗を、代々植えて増やした森なんだ。だから、普通の森とは違ってアルドの地へも行ける”揺らぎの間”を時に生み出してしまうこともあるんだよ。」
(地図で見れば遠く離れた場所である地へも、”揺らぎの間”を介せば通れてしまうのね。)
「妖精達から聞いたよ。”揺らぎの間”はね、決まった場所にできることもあれば、時と場合で霞のように生まれてくることもある。だから、次からは気を付けるんだよ。行ったことのない”揺らぎの間”には、決して近づかないこと。いいね?」
「分かりましたわ、お兄さま。ごめんなさい。」
「今日は、もう家に帰ること。いいね?」
過保護過ぎる兄の元アルテは屋敷へと帰り、刺繍の練習をするのであった。
ベルは思った。
(懐かしい場所にようやく行けたと思ったら、すぐに帰ってきてしまった。僕の住んでいた場所は、確かに長様の危害が及ぶような可能性もあるかもしれない。僕がもっと強ければ、長様と一緒にあの丘を駆けることができるのに。楽しい木陰や茂みに一緒に行くことができるののに。僕は、成長しないといけない。長様の傍にいるためにも、長様と僕の故郷へ行くためにも、僕はより強くならなければならない。)
ベルは決心したかのように顔をぐっと上に向けたのであった。