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霞の向こうと獣の丘
霞を超えたその向こう、暗い森林の中にアルテミスは入り込んでしまった。
「アルテちゃん!駄目じゃない!ここはアルドの地よ!?私たちのいる世界じゃないわ!早く帰りましょう!」とカレンが怒ったように、先に進もうとするアルテに向かって言った。
「え?ここは、イルヴァタールの地じゃないの?…本当だわ、カレン以外の風の精霊の姿も見えないし、いつもなら火山からすぐに飛んでくる火の精霊もいないもの。」
浮かれていたアルテミスの頭が、ヒヤリとした。
「僕の故郷だ!」とベルが幼女の腕からするりと抜け、駆け出してしまった。
「ベル!」
「長様!僕の故郷に案内します!」
「待て!」
「はい!」
そのままベルは、伏せの恰好でアルテミスが近づくのを待っていた。忠犬である。
アルテミスが足を踏み出した時、近くの草陰から何かが出てきた。子羊の様であった。