天界と天国
荷物を降ろし、空になった荷馬車にアルテミスは乗り込んだ。前方には、荷車を引く白馬のペガサスがいななきながら首をブルブル震わせていた。
「私も、今日天界にご一緒しますね?」とミーシャが傍らで囁いた。
(どうやら天界とは、天国とはまた違う世界らしい。)とアルテミスは思った。
「実は私、母を事故で亡くしてしまったのですが、母には会えるのでしょうか。」
「いいえ、アルテミス様。天界は、光の精霊王様と我ら天使達の住む世界ではありますが、死者の逝く場所ではございません。死者の魂は、また別に”透明の間”という所にて、一度現世で行った行動を全て清められた後、再度現世に新しい命として生まれ変わるのですよ。」
(私は、もう二度と母に会えないということか。)幼女の目に陰りが生じた。
荷車を引いたペガサスが、ゆっくりと浮上する。それに合わせて、天使達も羽ばたき始めた。天界は、空中高くに存在する。この世界は、空中に存在する“揺らぎの間”に滑り込むことで行き来することができる。空間の歪みを察知できるのは天使のみであるため、天界に行くには必ず天使の誘導が必要であった。
翼の生えた白馬が、力強く天を駆ける。そして、雲の合間にある”揺らぎの間”に滑り込んだのであった。