教会と天使
アルテは、怪我を治してくれた天使の元へ、会いにいくことにした。
教会は、キリスト教を思わせる荘厳な建物だった。教会の中には、キリスト像でなく、巨大な天使の像が鎮座されていた。内側の白い壁がステンドグラス越しに入ってくる真昼の陽光に照らされている。アルテ達を治した天使が出迎えてくれた。
「まあ、あの時の子ですわね、よく覚えておりますことよ。」と、天使であるミーシャが言った。
「はい、あの時、私たちの怪我を治して下さって、ありがとうございます。おかげさまで、傷跡も無く普通に生活できています。」
アルテは、手土産のアップルパイを手渡そうとした。すると、ミーシャに遮られた。
「良いのですよ、アルテミス様。私たちは、天使の身。与えたものに対する対価は受け取りません。それに、ご存じ無かったのかもしれませんが、私たちの食べるものは、一つと限られているのですよ。」
そう言うと、懐から白い林檎の形をした果物を取り出した。
「私たちは、これしか口にしてはいけない戒律があるのです。」
そう言うと、アルテの手にその白い林檎をポン、と手渡した。
(アダムとイヴは林檎を食べてエデンを追い出されたわよね。これが、その林檎なのかしら。)
「ミーシャ様、私がこれを口にしてもよろしいのですか?」とアルテが尋ねた。
「勿論でございますよ。一口、召しあがって下さいませ。」とミーシャが頷いた。
カシュリと一口食べてみた。
(何これ。びっくりするくらいなんの味もしない!)
まるで、雲か霞でも食べているかのような味だった。おずおずと林檎をミーシャに返すと、彼女はさも美味しそうにその白い林檎を頬張った。