大文字とお兄様
「ぎゃあああああ!!!!」
恐怖にへたり込むアルテミスの前で、炎に全身身を焦がされつつある男はそのままごろごろと転がりまわった。
だがその動きをあざ笑うかのように、炎はまるで生き物の如く男に合わせてまといつき、揺れうねる。転がりまわるせいで顔の真皮がべろりと剥がれ、下から生々しい筋肉繊維が顔を見せた。
「やあい!やあい!お~ろか~もの~♪」
絶叫し転がりまわる男の周囲を取り囲み、火を所々くっつけた妖精たちが手をつなぎ踊っている。
「す~みかをあ~らし~た、お~ろか~もの~♪いとしごっをおこらせ~た、お~ろか~もの~♪」
歌い踊る火の妖精達に向かって、か細い声で幼女が答えた。
「やめて」
「そのまま、けしずみになっちゃえ♪」
「やめてよ!私、殺したくない!!」
アルテが叫んだ瞬間、さっきまでしつこいほど男の身を包んでいた炎が、逆に男から逃げるかのように周囲に拡散し、広がった。炎の輪の中に、全身焼けただれて息も絶え絶えな姿があった。
炎の輪はそのまま、めらめらと周囲の草を灰にさせながらどんどんと燃え広がってゆく。
「いやあ!!どうして?どうして、こんなことになったの?」
炎のうねりが辺り一帯を飲まんとした瞬間、空から爽やかな涼風が吹いてきた。風はそのままぐるぐると炎の周囲を取り囲むかのように渦を巻き、荒れ狂っていたものがみるみる内に消火された。
全身痙攣する男と呆然と座り込むアルテの間に、ふわりとレオナルドが降り立った。
「アルテ!!」
そのまま、後ろの超重症者には目もくれず、目の前にいる妹を犬ごと力いっぱい抱きしめる。
「遅くなって、すまない!アルテ!ああ、こんなに右手を怪我してしまって。さぞ痛いだろうに。」
(あの人の方が、もっと痛いわよ。)
兄は、成人間近の大人びた美しい顔を、苦悶で歪めながら叫んだ。
「僕の指輪のせいだ!僕が弱いから、妹がこんなことに。」
アルテミスは、両手で兄の頬を包み込むように挟み、きっぱりと叫んだ。
「兄さんは、弱くなんかない!!ねえお願い、この人を助けて。私が、私が燃やしてしまったの。お願い。早く治さないと、手遅れになってしまう。」
兄が、冷たい目線を肉の塊に向ける。
(可愛い妹の怪我よりも先に、こんなゴミから「直さ」なければいけないなんて。だが、アルテの願いだ、仕方ない。)
レオナルドは天を向き、「彼を先にお願いします!!」と叫んだ。
空から、一人の天使が舞い降りてきた。白い羽を生やし、同じく白い衣に身を包んだ20代半ば程の黒髪の女性が、焼けただれてもはや皮膚の殆どない狩人に向かって両手を伸ばした