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暴走軍馬が連れてきた過去の記憶

 聖ファルキア王国歴1228年ダファディル(黄水仙)の月(3月)、北部の国境線付近の市街にある、最も大きな街道にて「悲劇」は起こった。


去勢馬でないばかりか,「御する」行為の魔力を込めた馬具が「意図された整備不良」による故障により破壊され,結果数多くの「暴れ馬達」が人の住む野に放たれた。軍人達の制御空しく,戦地へと見送る群衆達へ狂ったトラックの如く突っ込んで行ったのである。


魔力を含んだ餌により強化された軍馬は、一般的に街道を走る馬の何倍もの脚力を持つ。自国民を守るために育てられた家畜達は,今やその尊い命を縦横無尽に蹂躙する凶器と化していた。

泡を吹きながら,こちらに躊躇なく向かってくる「走る凶器達」にパニックになった群衆達が,己が命を守ろうと我先に走り出す。


 しかし,一年に何度ともない珍しい「行事」のため,余りに数多くの群衆達が一カ所に集まっていた。蟻が散らばるように,すぐに逃げるのは大変困難な状況であった。


自分の命が惜しい群衆達により押し合いへし合いされ,哀れにも押し出された一人の幼女が,偶然にも調度馬の後ろ脚のある場所に押し出されてしまった。

 その小さな姿に向かい,暴徒と化した馬の後ろ脚が勢い良く蹴りだされる。馬の蹄には,戦地を力強く俊敏に駆けるために装着されていた,「強化」の行為が付された蹄鉄が着いていた。その足が,皮肉にも「守られる側」の国民である幼女に向かって突き出される。


 死は、確実だった。


 天寿を全うするにはまだ余りにも幼い幼女は,自分の顔ほどもある巨大な蹄鉄が頭部に勢いよく突っ込んでくるのを,恐怖の余り動けない体でただ呆然と見つめていた。


 そして,この死と隣り合わせの「恐怖」により,本来なら今回が「初めて」である筈の人生一度きりしかない「死」が,何故か「二度目」であるということを僅かに思い出しかけていた。


 幼女がはっと我に返った瞬間に最初に目にした光景は,愛しい母の無残な死に様であった。

目の前で,娘最愛の人が血だまりの中ぐったりと倒れていたのである。半壊の首が明後日の方向に向いており,元々細い腹部は馬に踏まれてさらに歪に凹んでいた。


 まだ年端もいかない幼女が目にするには,あまりの惨劇であった。


 だが、幼女はこう思った。

(この凄惨な光景を、私はどこかで知っている。そう。確か,電車に轢かれて私の一部が飛んでいくのが見えて。体全身に,激痛が走ったと思ったら血の中に私がいて。血の流れる量に比例して,腹や胸の辺りが急速に冷たくなっていくのを感じながらふっと意識を失ったんだわ。)


 どくどくと全身が脈打ち、がんがんと頭が痛くなってくる。


(え?私?じゃあ,ここにいる私は,だあれ?「あの」場所で「私」が轢かれてしまったことが分かる。でも、今私の目の前にいる人は「私」にそっくりな人であることも分かる。)

 眩暈が、激しい。何かが、フラッシュバックしようとしている。

(あれ,「私」?どうしてこの人が,私にそっくりだと思ったのだろう。この赤毛の女性は明らかに外国人の容姿をしていて。じゃあ,私は誰だったかしら。そうだ、私は、あの時。死んだんだわ。私は、死んでしまったんだわ。じゃあ、私今私が見ているものは、一体何?)


「お母さま・・・?」

(そうだ、この目の前で倒れている人は、私の母だ。でも、私の母は、日本人なのに。)

唐突に蘇った記憶と目の前の凄惨な光景が交差して,悲劇の幼女アルテミスは絶叫しその場で失神し倒れてしまった。


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