視界が開けた先にあったのは
視界が開けた先にあったのは……秋葉原でした。
「……っあ……あ……」
目の前に広がる現実に理解が追い付かない。
僕は言葉を失い、釣られた魚のようにパクパクと口を動かすしか出来なかった。
だって、秋葉原だぞ、秋葉原ッ!
赤い外壁のビルの屋上にはデカデカと『SEGA』の文字が掲げられている。
白い外壁のビルは新作エロゲの宣伝広告をデカデカと壁に張り付けている。
黄色い外壁のビルは、入り口に設置した大型モニターでアニメのOPを流している。
俺が立っていたのは、オタクの聖地と呼ばれる、見知った秋葉原の街そのものだった。
俺の名は『渡辺衛』。
元平凡な中学生だった男だ。
そう……元だ。高校受験をあきらめ人生を投げて登校拒否していた俺は、ある日異世界に転移した。
正直、世間で流行っている、チートやハーレムとは無縁の異世界生活だったと思う。
流行りのお手軽なチート能力なし。
5分で俺に惚れる都合のいいヒロインなし。
それでいて、農作物は品種改良されていないから現代人の肥えた舌基準ではお話にならないほど不味く、衛生観念も未発達だから風呂に入ることも滅多にないと変なリアルさはしっかり実装しているのだ。
正直、転移した異世界が日本の風俗を残したところじゃなく、中世暗黒時代風味だったら間違いなく再起不能になっていたと思う。
ただ、異世界に行って不登校の中学生からジョブチェンジ出来たのは確かだ。
だって俺はあの世界で……。
「ほええ……人がいっぱいいる。お祭りなのかな?」
右側から聞こえてきた少女の声を聞いて俺の意識はようやく我に返った。
「……ッ!」
振り向いた先にいた、小柄な少女の手を両手で握り体温の温かさを感じ、安堵のため息を漏らす。
少女はそんな俺の顔を見て、顔に?を浮かべている。
「どうしたの? 泣きそうな顔になってますよ」
「……な、何でもない」
俺は気恥ずかしさの余りに目をそらした。
彼女の名は『芦屋未来』。
俺が異世界で出会った、自分の命より大切に思う女の子。
ぶっちゃけて言うと俺の嫁さんである。
未来は贔屓目にとてもかわいい女の子だ。
身長は異世界の栄養状態がよくないため小学生に見間違えそうなくらい小柄だが。
小顔で、日本人形のような大きなクリクリっとした瞳を持つ正統派の日本美人だ。
「ねえ、まーもーるー」
顔を逸らしていたいた俺は、未来に頬をツンツンと指で突かれる。
「この景色どう思う? あたしが見てるのって光景って幻覚じゃないと思うんだけど」
「……げっ、幻覚なわけないだろ、俺だって見えてるよ。……こ、ここは多分、俺が生まれた世界だと思う」
「えッ!? どういうことですか?」
「……そのままの意味だよ、ここは俺が生まれた世界にある日本って国で……い、いま居る場所は日本の中にある秋葉原って街だと思う」
「ということは、この街は衛の故郷なんですか?」
その問いに対して俺は無言で首を振る。
「……この街は、その、えっと……そう、市なんだ。この辺のお店でいろいろ売ってる」
「なるほど市かあ、だから人がいっぱい居るんですね」
未来は眼をすぼめて周囲にある、人や建物、駐車している車を真剣な表情で観察する。
着物と、茅葺屋根と、馬の世界から来た住民からしてみれば、この世界は抽象絵画より奇怪なものに見えるのかもしれない。
「……な、なんだか楽しそうだな」
突然異世界に飛ばされたら、パニックになったり、気を失ったりしても不思議ではない。
しかし、未来の表情を見る限る不安の文字は一切感じられなかった。
「そうですね……こんなことになって、ちょっと不安に感じることもあるけど……でも、こんなにたくさん知らない物があると、なんというか……ワクワクししますッ!」
満面の笑みを浮かべる未来を見て改めて思う。
俺の嫁さんは、最高に素敵な女の子です。
主人公とヒロインはレベルをカンストさせたネトゲキャラみたいな化け物ですが、戦うことは基本ないのであまり関係ありません。
明るく楽しくを目指して頑張りたいと思います。