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第9回 “必殺の飛び蹴り”

 二日後の火曜日の午前10時頃、弘が、外回りの営業で市街地を歩いてたときスマホの着信音が鳴った。

 見ると、治郎からのLineのメッセージだった。

「なんとか俺のオートバイは元の姿に戻った。やる気が回復したから、特訓の続きをやるぞ!今度は、土日とも休みだから、一昨日と同じ場所で二日間特訓だ!」

 という内容だった。

 弘はホッとして、

「わかったよ。望むところだ!」

 と、返した。


 次の土曜日、各自、また昼飯持参で採石場跡地に10時に集合した。

 弘は、今回は10分前に着いたが、やはり治郎は先に来ていて、先週と同じようにストレッチをしていた。

 弘は、また、治郎のH2 SXから離れたところに自分のブリザードを停めると、バックパックを背負ったまま治郎のところまで歩いて行った。

「待たせたな。よろしくたのむよ」

「おう!今日は、基本的な戦い方を一通り教えるから覚悟しとけよ」

 ニヤリと微笑みながら治郎は言った。

「お、おう!まかせとけ!」

 弘は、その言葉で少ししり込みしたが、から元気で答えた。

「その前にストレッチよろしくな」

「わかった」

 弘は素直にしばらくストレッチをした。


「よーし、じゃあ、そろそろやるか。お面ライダーの姿に変身してくれ」

 弘は、ベルトを取り出して腰に装着したが、その時、ふと思い出して、

「あ、そうそう。言うの忘れてたけど、先週、お前が帰った直後に1号さんから電話があって、ニョッカーの改人がしばらく現れないのは、前のは下見で、出直すために体制を立て直してるからなんだって」

「へえ、そうなんだ。そうすると、もうそろそろ現れるのかな?」

「いや、いつ現れるかは1号さんもわからないらしい。だから、警戒だけはしとけって」

「警戒って、具体的にどうすんだ?お前は、改人が現れたら変身して戦うだけだろ」

「その説明はなかったし、相手の人数もわからないから、確かに、現れたら戦うだけだな」

 弘は、そう言ってからベルトの変身スイッチを押してお面ライダーの姿に変身した。

「しかし、電話って、あの人日本語分からないだろ?」

「ああ、実はこのスーツには電話機能があって、同時に翻訳もされるらしい」

「うそっ!?そんなことまでできるのか、そのスーツ。ホントにスゲーな!・・・やっぱ、俺も欲しい!」

「でも、これを手に入れたら改人と戦うことになるんだぞ」

「う!・・・それは、少し考えもんだ」

 弘は、その言葉で少し笑って緊張感がとれた。


「ところで、前からライダーの番組を見るたびに気になってたんだけど、そのスーツを着てる状態だと周りはどんな風に見えてるんだ?」

「うん?・・・普通に自分の目で見てるような感じだなあ。あんまりにも自然だから特に気にしてなかったよ。たぶん、目の前にスクリーンがあってそれを見てるんだろうけど、気を付けて見ても全然わからないな」

「そうなんだ。すごい技術だな~。じゃあ、ガンダムのコクピットの全方位カメラみたいなもんか?」

「横目で見ても普通に見えるから、たぶんそうなんだろうな」

「なるほどなあ。そうなると、その大きな目の中にあるカメラは一つじゃないってことだ。うーん、ホントに高そうなスーツだな」

「そうだって言ってた気がする」


 そこまで話すと、治郎は真剣な顔になった。

「よーし、じゃあ、ニョッカーが現れるまで時間もなさそうだから、蹴りの練習からいこう」「おお!いいね!」

「攻撃で大事なのは踏み込みだ。踏み込みがいいと、相手との間合いを詰めて確実に相手に当てられるようになるとともに、より破壊力の強い打撃を与えることができる。じゃあ、俺が見本を見せてやるから、そこに立ってろ」

 弘は、少し警戒した感じで、両手を緩く開いて体の前で構えた。

 治郎は、弘の正面2メートルほどのところに右足を少し前に出して体を半身に構え、両手の拳をしっかり握って腰のあたりに構えた姿勢で立つと、

「行くぞ!」と、鋭く言ってから、

「はっ!」という掛け声とともに、右足を上げながら鋭く踏み込んで、ライダー姿の弘の顔に向かって右足の蹴りを放った。

 治郎は、弘に当たらない位置にで止まるように蹴りを放ったが、弘は、眼前に蹴りが来るまでわからず、蹴りが止まってから驚いて頭を引いて後ろに下がった。

 しかし、お面スーツの威力で、3メートルも後ろに移動していた。

「あー、びっくりした!」

「驚いたのは俺の方だよ。いま、お前が下がったのがほとんど見えなかったぞ!」

 治郎はぽかんとした顔で言った。

「うーん、スーツの力だから、俺もよくわからんよ。でも、お前の蹴り、すごいスピードだったし、よくそんなに高く足が上がるな。すごいなあ」

「いや、空手やっててある程度の腕を持ってる奴ならこのくらいは当たり前にできるよ」

 治郎は続けて、

「じゃあ、やってみて。コツは、右足を曲げたまま上げて、左足で地面を蹴ってから右足を鋭く伸ばす!だ。ただし、俺に向かってじゃなくて、右の何もない方を向いてやってくれ。俺は死にたくないからな」

 と、大真面目な顔で言った。

「お、おう!」

 弘は、そう返事して、治郎から5メートルほどの位置に立って右を向き、先ほど治郎がとったポーズを自分なりに真似て構えた。

 それから、これまた治郎を真似て、

「はっ!」という掛け声とともに左足で地面を蹴って右足の蹴りを繰り出した。

 その瞬間、弘が治郎の目の前から消えた。

「え!?消えた!」

 治郎は驚いて大きな声を出した。

 それから、探すように左を見たら、弘は20メートルほど先にいて、お腹ぐらいの高さに弱そうな蹴りを放ったポーズをとっていた。

「あ、いた!一瞬でそこまで移動したってことか!?ビックリだよ!」


 弘は、目の前の風景の流れ方で自分がかなりの距離を移動したのはわかったので、左後ろを振り返ったが、予想以上に遠いところに治郎がいて驚いた。

 それから、ゆっくりと治郎のところまで戻ってきながら聞いた。

「今のどう?」

「えーと、途中はまるで見えなかったが、止まった時のポーズから見ると良くない感じだったな。蹴りが甘いし右膝が曲がったままだったぞ。あれじゃ、威力が半減だ」

「そうか。難しいな」

「じゃあ、できるまで何度でもやるぞ」

「うへえ・・・・・頑張ります!」


 弘がなかなかできないので、それから何度も何度も繰り返し練習をし、結局、1時間半も同じ蹴りの練習をすることになった。

 しかし、そのかいあって、関節が硬いため蹴りの高さこそ治郎のようにはできなかったものの、近い感じではできるようになり、最後の方は、移動距離が40メートルにもなっていた。


「よーし、蹴りは大体覚えたな。じゃあ、次はとび蹴りの練習だ!」

「え? もう、そんな高度なことやるのか?」

「時間がないからな。ちゃんと改人を仕留められる技をまずマスターする必要があるだろ?それと、ライダーって言ったら決め技は飛び蹴りに決まってるから、まずそれを覚えないと!」

「ま、まあ確かにな。で、どうやるんだ?」

「それは、また俺がお手本を見せてやるよ。しかし、飛び蹴りをするときは技の名前を言いながら蹴る必要があるから、まずはその練習だ」

「また、そこかよ!でも、確かに、かのライダーなら『ライダーーーー、キィッーーーーーク!』とか言ってるな」

「それそれ。ただ、まんまパクリはまずいから、お前の技は、そうだな・・・『フライング・キック』でどうだ?」

 治郎は、今ひらめいた!という顔で言った。

「おお!かっこいいじゃんそれ!・・・『フライーング、キィーーーック!』・・・こんな感じか?」

「いや、もっと大げさにクサい感じでいいじゃねえか?」

「ふるあいーーーーんぐ、きぃぃぃぃぃーーーーーーっく!」

 と、弘は大きな声で叫んだ。

「おおー!それだー!忘れないように、何度か練習だ!」


 それから弘は、その場に立って右足で蹴るしぐさをしながら、

「ふるあいーーーーんぐ、きぃぃぃぃぃーーーーーーっく!」

 と、何度も繰り返した。


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