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第8回 “思わぬ災難”

 治郎は、縛った布に包まれた弁当箱をバッグから取り出した。

「へえ、弁当かよ。どうしたんだそれ?」

「ああ、卵焼きは今朝自分で作ったけど、他のおかずは昨日の夕飯の残りがあったからそれを詰めてきた。ちょっとつまんでいいぞ」

「微妙に気合入れた感じか?でも、ありがたい、ありがたい」

 弘はそう言いながら、鶏のから揚げを一つつまんで口に入れた。

「しかし、こんな野っ原で何かするのってすごく久しぶりだなあ。中学んとき以来か?」

「ああ、そうかもな。お前が引っ越して高校も別だったからな」

「しかし、久しぶりなせいか、なんか楽しくて緊張感が出てこないな」

「やーれやれ、こっちは危ない目に合うかもしんないってのに呑気なもんだ・・・と、言いつつ、あれから1週間近く何も起こらないから俺も緊張感ないんだけどね」

 と言いながら、弘は少し笑った。

「だろー?・・・ところで、なんであれから改人は襲って来ないんだろうな。続けざまに2体現れたっていうのに」

「そうだよな。なぜだろう?・・・・・あ、お面ライダー1号さんに聞けば何かわかるかも」「おお、そうだな。Lineでフレンド登録したんだろ?聞いてみ、聞いてみ」

「よーし、ちょっと待て」

 弘はスマホを取り出してLineを開き1号へのメッセージを入力した。

「よし、これでいい。いつ、答えが返ってくるかな」

 そう言いながら弘は、スマホを切って横に置いた。


 そのまま昼ご飯を二人で食べていたら、1分ぐらいで弘のスマホの受信音が鳴った。

「え?もう返事が来たの?早いな・・・確かに1号さんからだ」

「理由がわかったか?」

 弘は画面を一瞥してすぐ、

「ダメだ!」

 と、言った。

「1号さんも知らないって?」

「いや・・・・・ほら」

 弘はスマホの画面を次郎に見せた。

「これは!・・・・・フランス語?」

「ぽいね」

「そうか、1号さんはフランス人だったな。英語ならまだしも、フランス語はまったくわからん」

「俺もだ。だが、とりあえず、返信しとこう」

 そう言って、弘はスマホに何やら入力して送った。

「何て送ったんだ?」

「『すみません。フランス語は読みも全然わかりません』だ」

「日本語で?」

「日本語で」

「うーん、通じたのかなあ」

「わからんけど、フランス語なんか書けないから仕方あるまい?」

「・・・まあ、そうだな」

 と、治郎はあきらめたような顔で答えた。


 それから、昔一緒に遊んでいた時のことなんかを話しながら、二人は昼食を平らげた。


「よし、飯も食ったし、続き、続き!」

 と、治郎は立ち上がりながら気合を入れた声で言った。

「よし!やるか!・・・今度こそ、ちゃんと戦い方を教えてくれるんだろうな?」

「ああ、一番大事なところは一通りマスターしたみたいだから、今度は実際の戦闘方法だ」

「ああ、良かった」

「じゃあ、まずライダーの姿に変身してくれ」

「おう!」

 弘は横に置いてあったベルトを腰に巻き、変身スイッチを入れた。

 いつものように、3秒ほど閃光に包まれて弘は変身した。

「しかし、その光るのはなんとかならんかな。近くにいるとまぶしくてしょうがない」

 治郎は、まぶしそうに両手を開いて顔の前に持ってきて、困ったように言った。

「うーん、なんで光るんだろうな?まあ、俺は内側にいるからあんまりわかんないけど」

「まあいいや。じゃあ、まず、パンチとキックがどの程度の威力か見たいから・・・そうだな、さっき俺が上に乗ったでかい石を思いっきり殴ってくれ」

「わかった。でも、石の破片が飛んで来て危ないから、俺の後ろにいた方がいいと思うぞ」

「そんなにスゴいのか!?」

「岩は殴ったことないけど、たぶん、この程度なら木っ端微塵になると思う」

「うへー!」

 そう言いながら、治郎は弘の背後に回り、肩口から覗き見る感じで石を見つめた。

「じゃ、いくよ」

 そう言ってから、「はっ!」と大きな声を出してから、弘は力いっぱいその石に右ストレートをお見舞いした。


 ドーン!


 ものすごい轟音とともに、石は数センチ程度の細かい破片になって飛び散った。

 治郎は、思わず首をすくめて弘の背後に隠れたが、その頭の上を破片の一つがものすごいスピードでかすめて行った。

 それと同時に、右手の方で「カン!」という金属っぽい音がした。

「う、うっわー!・・・なんだその破壊力は!大砲で撃ったの同じぐらい強力なんじゃないの?」

 治郎は驚愕して目を丸くしていた。

「ああ、俺もここまでスゴイとは思わなかったよ。びっくりだ!」

 弘も慌てた声で言った。

「で、お前の体は大丈夫かよ?」

 弘は、自分の胴体や手足をキョロキョロと見渡した。

「うん。いくつか破片が当たったけど、なんともないみたいだ」

「すげーな、そのスーツ!」

 少しうなってから、

「ところで、なんか右の方で金属音がしたけど、なんだろ?」

 と言ってから、治郎が音のした方を見てみると、自分のオートバイ、Ninja H2 SXの燃料タンクに破片の一つが当たったらしく、大きくへこんでいた。

「あー、あー、あー!」

 それを見た途端、治郎はそう叫びながらH2 SXの方に走っていった。

「うおー!買ったばかりなのにー!高かったんだぞこれー!」

 と、たどり着いてへこんだところを見た治郎は、もう半狂乱になっていた。

「いくらすんの?」

 弘が治郎のところまでやって来て聞いた。

「・・・400万」

「よんひゃくまん~!結構な高級車が買える値段じゃん!」

 今度は弘がビックリして大声を出した。

「ずっと欲しくて、週に三回、中学まで通ってた空手道場で師範のバイトまでして金を貯めてやっと買ったんだぞ。半分近くは頭金で払ったんだけど、月々4万円のローンが、まだ60回も残ってるのにー!」

 治郎は今にも泣きだしそうだった。

「お前、そんなバイトしてたんだ」

 治郎は、しばらく、へこんだところを念入りに見ていたが、

「うー、これはすぐ修理しないと・・・もう、今日はやる気なくなったから続きは来週な」

 と、落胆した声で言った。

「えー!まだ何も教わってないのにー」

「何言ってんだよ。一番大事な、登場時のキメポーズと変身ポーズを教えただろ!」

「え?あ、ああ、そうだな」

 弘は治郎の剣幕に少し腰をひきながら答えた。

「じゃあ、俺、戻ってから修理するから、またな」

 治郎はそう言ってH2 SXに跨った。

「それじゃ、俺も帰るよ」

 弘はライダーの姿のまま言ったが、治郎はもう何も耳に入らないのか、エンジンを始動するとすごいスピードでかっ飛んで行った。

「あららら・・・うーん、ちょっと申し訳ない気もする」

 弘は治郎の姿を見送りながら言った。


 その時、弘の目の前に「着信:1号」の表示が出たかと思うと、ヘルメットの中に声が響いた。

「44号か。私だ1号だ」

 それは、お面ライダー1号の声だった。

「え?なになに?このスーツって電話もできたんですか?」

 弘は驚いた。

「そうだ。しかも、電話も翻訳機能付きだ」

 やや自慢げに1号は言った。

「へー!つくづくすごいスーツですね」

「さっきLineを送ってきたようだが、あいにくと私は日本語がわからないので何が書いてあるか読めなかった」

「あー、それは俺も同じです。で、1号さんの返信はなんて書いてあったんですか?」

「『さっきのメッセの用事はなあに?』だ」

「・・・白ヤギさんですか」

 弘はやや苦笑しながら言った。

「は?白ヤギさん?」

「あ、いや、なんでもないです。それより、メッセージの内容は、『あれから1週間近く経つのに新たな改人が現れませんけど、どうしてですか』です」

「ああ、なるほど。それは確かに不思議に思うよな」

 1号はそう言ってから、一呼吸おいて、

「実は、何かの目的でキミが住んでいる市内のどこかに拠点を築こうとしているらしく、あの2体の改人は、その下調べに来ていたらしい。だが、お面ライダーが数人いるのを見かけたため、一旦撤収して体制を立て直して来ることになったようだ。だから、その準備期間なんだろう」

「ああ、そうなんですか。じゃあ、あのカブトムシみたいな改人と一緒にいた黒ずくめの奴らも撤収したってことですか?」

「その雑兵たちなら、キミに会った日、キミの家に行く前に我々6人が始末しておいた。だから、キミの家と正体はばれていないはずだ」

「あ、そうなんですね。ありがとうございます!それを聞いて安心しました。あいつらがまた襲ってくるんじゃないかと、ちょっと心配してたんですよ」

「そこは大丈夫だ。しかし、いつまた奴らがキミの住む街に現れるかもしれないから、注意はしておいた方がいいぞ」

「うえー、いやだなあ。でも、了解しました。気を付けます」

「ああ、頼む」

 その直後に「ブツッ!」と音がしたので、電話は切れたようだった。

 弘は、しばらく考え込んでいたが、

「あ!しまった!電話の掛け方聞くの忘れた。うーん、かかってくるの待つだけか」

 と、落胆した声で言った。


 それから、変身をといてベルトをバックパックにしまうと、ブリザードに跨り家へと向かった。

 ブリザードを走らせながら、

「治郎のオートバイの排気量は俺のの20倍で、値段も20倍。オートバイの値段って排気量に比例するのかな?」

 と、呟いていた。


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